あらしさんの黄緑さんをモデルにした妄想BLです。
ご注意ください。
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目当てのものを手に入れ、部屋に帰った俺はすぐに作業を再開する。
そうして、すべての準備が整った時点で壁にかかった時計を見ると、時刻は午前3時を少しまわったところだった。
出かけたりしたせいで、こんな簡単な準備に40分もかかってしまったようだ。
換気扇のスイッチを入れて、シンクの縁にもたれる。それから、カウンターの上に置いてある小箱の中から1本頂戴し、そのまた隣に転がっていたジッポを借りて火をつけた。
『お前はダメだ。肺が弱いんだから』
そう言って、あいつはいつも俺が伸ばす手をパチンとたたいて退ける。それからわざとうまそうな顔をして、煙を吸い込んでニヤリと笑うんだ。
残念だねぇ、まーくん。細い顎を上げながらそう言うクセに、吸うときはかならず換気扇の下で、俺に煙が流れないように注意していることを、俺は知っている。
それはあいつなりの俺への気遣いであって、体を大事にしてほしいっていう無言のお願いでもあって。
あいつのその気持ちを無碍にしないためもあるが、体調管理はこの仕事の基本だって、過去に身にしみてわかっているから、俺も日頃は吸わないようにしている。
だが、今のようにドラマの仕事が入って、忙しさがピークになると、こうしてあいつが眠っているスキに手を伸ばしてしまうことが、たまにあって。
もし本人に知られたら、めちゃめちゃ怒られるんだろうなぁ、とは思うけど、あいつは残り本数なんて数えちゃいないし、必ず目覚めないとわかっているときにしか拝借しないから、きっとバレることはないだろう。
親に隠れてイタズラをしている子どものような気持ちになって、ふふっと笑い声が漏れてしまったから、慌てて口元を押さえる。
シンとした室内に、換気扇の音だけが響く。
…あぁ、そろそろ俺も眠らないと。
明日は午後からの撮影だが、一度家には帰らないといけないし、こんなことをしていては、あいつのぬくもりを感じられる貴重な時間が削られるばかりだ。
ドロのように眠っているだろう、家主の顔を思い浮かべる。
もうあと3時間もしないうちに、あいつは起きなきゃいけない。明日…というか今日は、レギュラー番組の地方ロケのため、6時半に迎えが来ると言っていたから。あのあとシャワーも浴びていないし。
…目覚ましの時間は6時にセットしておくか。
目覚めはいい方だから、割とすっきり眠りから覚めて、あいつはペタリペタリとかったるそうな足音を立ててリビングに向かうだろう。そのままの足で洗面に向かって、風呂に入るかな。そうしてリビングに帰って来て…あいつはこれを目にするんだ。
煙が鬱陶しくて、目をすがめながら、手の中の紙切れに目を落とす。
どんな顔をするだろう。
驚くだろうか。それとも困惑するだろうか。
…いやどちらも違う。きっとあいつのことだから、怒るな。
今、グループのなかでもっとも多忙なのはおそらく俺で、そのことをあいつは俺以上に気にしている。そして、憎まれ口をたたきながら、素振りも見せないまま、俺を甘やかす。
今夜だってそうだ。撮影が少し巻き、明日の入り時間が午後と知った俺は、これ幸いとこの家に押しかけることにした。
突然の訪問と、俺の手の中にある酒と食い物に苦笑しながらも、家主は嬉しそうな顔を隠そうともせず、暖かくて明るい室内に招き入れた。そこには明らかに途中だっただろうゲームがあって、それなのにまったく未練を見せることなくパツンと電源を落とすと、鼻歌を歌いながら、皿やグラスを用意した。
2人テレビを見ながら酒を楽しんで、どうでもいい話を少しして。俺は最近の鬱憤を晴らすように、性急に体を求めた。
がっつく俺を、はじめは面白そうに目を光らせて見ていたあいつだったが、それから余裕をなくしたように眉根を寄せて。
俺は、悩ましげな表情に、
紅く染まっていくその身体に、
しっとりと吸い付く肌に、
汗が放つ芳香に、
夢中になった。
散々貪り、満足した俺の隣で、完全に脱力したあいつは、眠りに落ちる直前になって、こう言ったんだ。
『明日は早朝ロケだから、目覚ましよろしく』
悪かったなと思ったが、でもそう考えて落ち込んだりすることは、あいつの望みではないとわかっているから、ありがとうの気持ちを込めて、こめかみにキスを落とした。そうして、できるだけ体を拭って、毛布を肩までかけてやった。
その後、自分も風呂に入って、寝る前に水を…と思ったのが40分前。それからちょっとした思いつきでアレコレやって、今に至るわけだ。
この手紙を読んだときのあいつの表情を想像する。
一読したところで驚いて目を丸くして、それから眉をしかめて読み返して…。ちっと軽く舌打ちくらいするかもしれないな。で、冷蔵庫に向かって中を確認して…余計なことをしていないで、さっさと寝ろやバカ、とかなんとか呟きながらも律儀に取り出して、完成させるんだ。
ふふ。あまりに簡単に想像できて、笑えてきた。
とにかく怒るだろうし、ブツブツ文句を言うだろう。
けど、俺は想像できるんだ。怒っているようでも、榛色をした瞳は嬉しさを隠しきれずに輝いていることを。尖らせていた唇も、ほどなくゆるんでいくことを。
飴玉のような潤んだ瞳と、きゅっと上がった口角を頭に描き、俺は小さく微笑んだ。
そして、くわえるばかりで吸いもしなかったそれを灰皿に押し付け、水をかけると、いつものようにビニル袋に入れてカバンにしまった。
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