こんな記事を読んだ。全文引用します。
「移動販売車が故障 十五夜控え、実習生が自転車で4キロ買い出し」
【蓑輪村】
蓑輪村杉ノ木台ニュータウンで九月二十四日、住民約六百八十世帯の生命線となっている移動販売車「まつむら便利屋」の軽トラックがエンジン故障で動かなくなった。二日後に迫った十五夜の月見だんご作り会の材料調達のめどが立たなくなる中、同ニュータウンの特別養護老人ホーム「杉ノ木園」で働くインドネシア人技能実習生、スリ・ワヒュニさん(24)が自転車で片道四・一キロ離れた旧市街まで二往復し、材料を運んだ。
二十四日午前、松村徳一さん(70)が運転する軽トラックは坂の途中でエンストし、そのまま動かなくなった。修理には部品調達を含め最低十日かかるとみられ、二十六日午後二時開始予定の月見会に白玉粉や里芋、栗が届かない事態になった。連絡を受けたスリさんは休憩時間を削り、自分の自転車で旧市街の「みのわマルシェ」へ向かった。白玉粉七キロと里芋の入った袋を荷台にくくりつけ、片道四・一キロの坂道を二往復、一往復に約九十分を要した。「お年寄りが毎年楽しみにしている会だから、材料がないなんて言えなかった」とスリさんは振り返る。
杉ノ木台は造成から四十七年、六百八十世帯のうち六割超が六十五歳以上を占める。三年前に唯一のスーパー「杉ノ木ストア」が閉店して以来、週二回の移動販売が住民の頼みの綱だった。独居の神林トシさん(78)は「あの車が来なくなったら、私たちは何を食べたらいいのか分からなくなる」と声を落とす。二十六日の月見会には四十六人が参加を予定しており、準備を担う蓑輪村社会福祉協議会杉ノ木台支部の蓮尾清高支部長(66)は「実習生の彼女に頼るしかなかった。本来はうちらの仕事なのに」と唇をかんだ。
農林水産省の二〇二〇年推計によると、生鮮食品店まで五百メートル以上離れ自動車を持たない「食料品アクセス困難人口」は全国で約九百四万人に上り、うち約七割を六十五歳以上が占める。地域経済に詳しい藤代久司・千歳野大学教授(地域経済学)は「過疎地の生活インフラを外国人技能実習生の善意と体力で支えている例は各地にある。制度上、実習生は数年で帰国や転籍を迫られる立場で、地域がそこに依存する構造自体が持続可能ではない」と指摘する。
まつむら便利屋の車は結局、月見会前日の二十五日夕方に応急修理で動き出し、材料は何とか間に合った。だが村社協が検討してきたコミュニティバスの試験運行は財源のめどが立たず、来年度予算に盛り込まれるかどうかは十二月の村議会まで分からない。加えて、スリさんの技能実習期間は来年三月までで、特定技能への移行試験に合格できなければ帰国が決まっている。「次に車が壊れたとき、私はもうここにいないかもしれない」。スリさんはそう言って、片付けを終えた自転車の空気を静かに入れ直した。」
住民680世帯の生命線である移動販売車が故障し、2日後の十五夜の月見会の材料が届かなくなったとき、特養で働く実習生が片道4.1キロの坂道を自転車で2往復した、という記事を読んだ。一往復90分、荷台に白玉粉と里芋をくくりつけて、というのがなかなかハードだと思う。
「次に車が壊れたとき、私はもうここにいないかもしれない」という実習生の最後の言葉が、この手の話に共通する不安なんだろうなと思った。