こんな記事を読んだ。全文引用します。
「停電の谷筋に灯らぬ誘導灯 偶然居合わせた客が拓いた避難路、残る「備え」の格差」
【緑ケ丘市】
八月二十八日夜、緑ケ丘市西部の温泉街「小夜霧温泉郷」で、台風十二号による記録的短時間豪雨で集落全体が停電し、市道沿いに設置された避難誘導灯が届かない谷筋の民宿から、宿泊客ら十四人が徒歩一・一キロの山道を歩いて高台の公民館へ避難する出来事があった。誘導したのは、たまたま素泊まりで宿泊していた会社員の男性と、民宿を営むシングルマザーだった。市が二年前に整備した誘導灯は、客室十五室以上の旅館九軒に限られ、六室以下の小規模宿五軒は対象外のままだった。
民宿「谷風荘」を営む蔦谷ひろみさん(39)は、長男の颯くん(9)と二人暮らし。七年前に夫と死別し、以来一人で宿を切り盛りしてきた。二十八日夜は午後九時すぎに集落全体が停電し、「懐中電灯だけを頼りに、颯と抱き合ってじっとしていました」と振り返る。
同じ頃、隣室に素泊まりしていた会社員の梶浦壮太さん(41)は防災士の資格を持ち、出張の合間にたまたま谷風荘に投宿していた。スマートフォンのオフライン地図で近くの土砂災害警戒区域と避難路を確かめ、ひろみさんと二人で谷筋の民宿四軒を一軒ずつ回った。「灯りが全部消えていて、声をかけないと誰も気づかない状態でした」と梶浦さん。結局、谷風荘を含む五軒の宿泊客と経営者ら計十四人が、懐中電灯だけを頼りに石段六十三段を含む一・一キロの山道を約二十五分かけて歩き、緑ケ丘市立小夜霧公民館へ避難した。
緑ケ丘市は二年前、防災対策費二千四百万円を投じ、市道沿いの旅館九軒に太陽光式の避難誘導灯を設置した。だが対象は客室十五室以上の組合加盟施設に限られ、脇道に点在する客室六室以下の小規模宿五軒は補助の枠外に置かれた。市防災危機管理課の蓑輪達也課長(56)は「限られた予算の中で、まず宿泊者数の多い施設を優先した」としつつ、「小規模宿への対応は次年度以降の検討課題」と述べるにとどまった。
総務省消防庁の調査では、全国の宿泊施設のうち客室十室未満の施設で避難誘導灯や戸別受信機などの防災設備が整っているのは三十一%にとどまり、十室以上の施設の六十八%との差は開いたままだ。防災社会学が専門の白鳥大学・柏木理沙教授(48)は「小規模宿泊施設は財政力も組合との結びつきも弱く、行政の補助制度から漏れやすい。今回のように偶然居合わせた個人の判断に頼る避難は、再現性がなく危うい」と指摘する。
避難から三日後の八月三十一日、市は「防災モデル温泉地・緑ケ丘」と大書したPR看板を、対象九軒が並ぶ通りの街灯柱に設置した。看板は谷風荘のある脇道の入り口からも見える位置に立つが、肝心の避難誘導灯はまだ一基も増設されておらず、蔦谷さんはその看板を横目に、颯くんと懐中電灯の予備電池を買いに出かけた。」
台風の豪雨で温泉街が停電した夜、避難誘導灯の対象外だった小規模宿から、たまたま宿泊していた防災士資格を持つ客とシングルマザーの女将が、宿泊客14人を懐中電灯だけで山道を歩いて避難させた、という記事を読んだ。誘導灯は客室15室以上の旅館9軒だけに設置されていて、6室以下の宿5軒は対象外だったらしい。
避難から3日後に「防災モデル温泉地」というPR看板が立った、という最後の一文が皮肉だった。看板より先に誘導灯を増やしてほしい。