こんな記事を読んだ。全文引用します。
「駅前の印章店、消えゆく技を高校生が継ぐ 顧問教諭が結んだ縁」
【浜千鳥市】
JR浜千鳥駅前で56年続く印章店「篠原印房」の店主、篠原重蔵さん(83)が後継者不在のまま店じまいを考え始めていたところ、近くの市立浜千鳥高校美術部が申し出た「弟子入り」がきっかけで、部員の一人が放課後に彫刻刀を握るようになった。8月30日には、その部員が仕上げた実印を初めて客に手渡す小さな引き渡し式が店先で開かれた。
きっかけは6月、美術部顧問の内藤直樹教諭(37)が地域学習の一環で駅前商店街を部員と歩いた際、篠原さんが店の奥で「もう畳むかもしれない」とつぶやくのを聞いたことだった。店は駅から徒歩3分、間口2間の小さな店構えで、篠原さんは17歳から66年、印章一筋で生きてきた。跡取りの息子は市外で会社員をしており、継ぐ気はないという。「技を見せる相手もいなくなって、寂しかった」と篠原さんは振り返る。
部員の大場遥人さん(16)は、その場に居合わせた一人だった。「彫刻刀の使い方が、美術の版画とは全然違って驚いた」と話し、翌週から週2回、学校帰りに店に通い始めた。篠原さんは最初は断ろうとしたが、内藤教諭が「授業の一環として月謝をお支払いします」と申し出たことで折り合った。8月中旬、大場さんは初めて客の実印彫りを任されたが、印面を割ってしまい、篠原さんと二人で夜7時過ぎまで代わりの黄楊材を探し回った一件があった。「あの時、篠原さんが怒らずに『材料はまだある、道具も生きてる』と言ってくれたのが忘れられません」と大場さんは言う。
この一件は美術部内にも広がり、他の部員2人も見学を希望するようになった。商店街振興会長の桑田実さん(58)は「若い子が真剣な顔で店に通う姿を見て、うちの店も何か伝えられないかと考えるようになった」と話し、隣の時計店主も修理技術の体験教室を検討し始めたという。
引き渡し式で客から「ありがとう」と声をかけられた大場さんは、彫りたての印を見つめてこう語った。「まだ篠原さんの半分もできない。でも、この店の判子がある限り、駅前を通る人が少し立ち止まる場所であってほしい。だから続けます」」
56年続く印章店の店主(83)が「もう畳むかもしれない」とつぶやいたのを、たまたま居合わせた美術部顧問が聞きつけて、部員が弟子入りすることになった、という記事を読んだ。印面を割ってしまった生徒に「材料はまだある、道具も生きてる」と声をかけたエピソードが良かった。
「まだ篠原さんの半分もできない。でも、この店の判子がある限り」という高校生のコメント、大人でもなかなか言えない台詞だと思う。