東京から終電近くに帰った際に乗換の終電を逃した。うつらうつらする内に乗り換え駅を乗り過ごしてしまい、慌てて戻った時にはすでに筆者の街まで走る電車は終わっていた。一歩手前の街までは帰れるので、仕方なくそれに乗ったが、さてどうするか。隣街からタクシーで帰るか、ホテルに泊まるか。いずれもなんだか興をそそられない。

 

地図アプリで見ると最短で17キロと表示される。なんだ近いじゃん!これがいけなかった。自転車乗りの感覚でいくと17キロはあっと言う間の距離だ。筆者のことだからあっちへフラフラ、こっちへフラフラ、25キロくらいでも楽勝だろう。しかし徒歩となれば勝手が違う。最初はコンビニでアイスを買い鼻歌まじりに歩き出したが、当然ながら一向に筆者の街は近づかない。

 

街はすぐに途切れ、広大な田園にカエルの大合唱が響きわたる。街灯もまばらで走る自動車もほとんどない。まあ西へ西へと歩けばいつかは帰宅できるだろう。そういえば地図アプリには徒歩4時間と表示され笑ったが、笑い事では済まなくなった。こんな田舎道をタクシーなど流しているハズもなく、そもそも人影さえ一切無い。いっその事不審者として保護されようか思ったがパトカーもいない。治安がいいのだろう。

 

これまで知識でしかなかった地図上の地名を生まれて初めて歩く。(多分最初で最後だろうが)ああ、これがここか!それがここか!と言ってもどこもかわりばえしない真っ暗な田園が広がるばかりだ。高校の同級生が隣村から毎日往復20キロを自転車で通学していたのを不意に思い出し、ああハットリはここを走っていたのだなぁと感慨深い。今では近隣で評判の名医だと言う。

 

そもそも農地以外には用途のない土地柄だ。工場でも誘致しない限り産業など興る気配は無い。土木工事を仕切る地方政治家が幅を利かせる保守王国、ここに極まれりを体感する。不謹慎な言い方だが、今となっては土地と自分とお互いに用のない間柄なんだなと深夜の農道で我に帰る。薄明の頃ようやく自分の街の周辺部に辿り着いたがまだまだ道半ばだ。