筆者の父は物を捨てられない人だった。実家の敷地の半分を占める祖父が営んでいた木工所部分はそっくりそのまま残っており、そこに壊れたカラーテレビや枯れた鉢植えや、ありとあらゆるガラクタが放り込まれており、もはや「片付け」などという生易しい状態ではない。幸いなことに外観はあまり目立たない立地なので近隣から苦情を言われることもないが、実はフタを開ければゴミ屋敷同然だ。

 

兄もまた捨てられない人で、たまにしか使わない兄の居住スペースも紙袋や空いたペットボトル、古新聞などに占拠されている。そんな物必要なのか?と呆れるばかりだ。筆者はその血筋を引き継がなかったらしく、不要になった物はどんどん捨てる。長く東京で暮らしたので、不要物を積み上げて置くほど余裕も無かったのだ。それでも、一生捨てられない物もあるだろうなと考えてみた。

 

ここ数年で集まった美術書や関連書籍を筆頭に、映画ノスタルジアのポスター、オンワード樫山のポスター、山下清澄の版画、自転車、彼女にもらった腕時計、3人掛けの革張りソファなどなど、指折りかぞえ出すときりがない。さては自分も物欲の権化かと疑いたくなる。

 

本来なら加齢とともにダウンサイジングしていかなければいけないのに、捨てられない物は増える一方だ。どうせならと実家を整理して音楽、映像、アートに囲まれる自分ライブラリーに仕立てようと思っていた。しかし、しばらくの間、体調の様子も見ながらのんびりと荷物の整理をしようかと考えた矢先に不慮の事案に巻き込まれてしまった。人生はままならない。まあ、ようやくやりたい事が見つかったので良しとしよう。