筆者の画集好きが高じ、縁あってダ・ヴィンチの画集を安価で手に入れた。画集と言ってもただの画集ではなく、全絵画作品・素描集と銘打たれており超のつく大型本だ。表紙の面積で言えば通常の単行本の4倍を超え、漬物石のように重く両手で持っても数分と耐えられない程だ。書店で一度見かけたことがあったが、その大きさと値段(定価は25,000円)に呆れ一体誰が買うんだろうかと思ったものだ。結局筆者のような物好きが購入者になることが判明した。

 

印刷も良く、安っぽく言えばド迫力だ。レオナルドには絵画作品が確か十数点しかないはずなのに何故700ページもあるのかと訝っていたが、拡大画や懇切丁寧な解説が添えられており、また膨大な点数の素描が収録されているので納得だ。拡大画の切り取り方も新鮮でまさに眼から鱗の鑑賞体験だ。システィナ礼拝堂を飾る最後の晩餐にしても、遠近法や弟子たちの表情、顔の向きを語ることが多いが、本書ではテーブルクロスの拡大画が添えられている。なかなかそんなところには注意しないし、通常サイズの画集では見開きで掲載したところで眼にも入らない。

 

しかしまあこのサイズ故、気軽に手に取ることが出来ない。それ相応の覚悟を持って取り扱わなければならない。届いた際に開梱してみてまずは大きさと重さに笑った。買ったばかりのアクリルの書見台に載せたところ、あっけなく折れてしまいまた笑った。大きなテーブルに開いて直立して鑑賞せねばならない。ソファに踏ん反り返って眺めるなんぞ余程の腕力と腹筋がなければ無理な相談だ。

 

筆者の見込んだTASCHEN社だけのことはある。こんな愛すべきおバカな企画は普通の日本の出版社ではビジネスにならず通らないだろう。現に一時期存在した日本支社は早々に撤退してしまった。刊行が進んだ日本語版もプツリと途切れ、欧米で出版され続ける新刊は日本語で読むことが出来なくなった。絶版となった希少な日本語版の一部は定価を超える高値で取引される始末だ。

日本の出版社に勤務する諸兄、経営者の皆様には出版社のそもそもの意義を再考願いたい。

 

困ったことに筆者の欲しいものリストには同社の出版物がずらりと並んでいる。経済力の乏しい筆者にしてみれば今回のように安値ハンターとして虎視眈々と狙うのも老後の道楽として良いかもしれない。

 

レオナルド・ダ・ヴィンチ―1452ー1519全絵画作品・素描集

フランク・ツォルナー

タッシェン・ジャパン

2004