【作品#0978】白い肌の異常な夜(1971) | シネマーグチャンネル

【タイトル】

 

白い肌の異常な夜(原題:The Beguiled)

 

【概要】

 

1971年のアメリカ映画

上映時間は105分

 

【あらすじ】

 

南北戦争末期。北軍の兵士ジョン・マクバニーは瀕死の重傷を負ったところを南部の女学園の生徒に助けられる。彼女たちの手厚い看病により少しずつ回復したジョンは、男子禁制の女学園内で女性たちから好意を寄せられるが…。

 

【スタッフ】

 

監督はドン・シーゲル

音楽はラロ・シフリン

撮影はブルース・サーティース

 

【キャスト】

 

クリント・イーストウッド(ジョン・マクバニー)

ジェラルディン・ペイジ(マーサ)

エリザベス・ハートマン(エドウィナ)

ジョー・アン・ハリス(キャロル)

 

【感想】

 

トーマス・カリナンが1966年に発表した「The Beguiled」の映画化。

 

クリント・イーストウッドにとって1971年は節目の年である。「恐怖のメロディ(1971)」で監督デビューし、代表作「ダーティハリー(1971)」に出演したのだから。そして、本作「白い肌の異常な夜(1971)」は上述の二作品の前に公開され、「ダーティハリー(1971)」でもタッグを組んだドン・シーゲルの監督作品である。

 

やはりイーストウッドは、強い男というパブリックイメージと正反対の役みたいなものを演じたかったのだろう。「ダーティハリー(1971)」では凶悪犯に立ち向かう型破りな刑事を演じ、「恐怖のメロディ(1971)」では一度関係を持った女性から付きまとわれるラジオDJを演じた。

 

そして本作では、南部の女学院に助けてもらう瀕死の重傷を負った北軍兵士を演じた。生徒や先生だけでなくお手伝いさんの黒人から年上のマーサ校長まで虜にしてしまう色男というのは、イーストウッドの実生活を思わせるパブリックイメージに近い印象だが、あちこちに手を付けたことで女性同士の嫉妬を搔き立て、最終的には階段から突き落とされて足を切断され毒殺されるというとんでもない結末になる。ちなみに本作でキャロルを演じたジョー・アン・ハリスとはプライベートでも関係が続いていたそうだ。

 

まだ思春期の少女から年上のマーサ校長までもが惚れてしまう魅力が当時のイーストウッドにはあり、当時40歳過ぎのイーストウッドの瑞々しさよ。後にも女性を虜にする色男みたいなものはほとんど演じていないと思うのでその点においても貴重な作品でもある。

 

冒頭の場面からすでに瀕死の重傷を負っているジョン・マクバニーは、女学院の面々に抱えられながら二回のベッドに担ぎ込まれて手厚い看病を受けることになる。動けない状態で家の二階に担ぎ込まれるというのは、後の監督/主演作「センチメンタル・アドベンチャー(1982)」なんかでもやっている。

 

また、ジョン・マクバニーがエドウィナを口説いてキスしているところを目撃したキャロルは門に紺の布を巻いて味方の兵士に来てほしいという合図を出す。いつものイーストウッド映画なら3人の兵士くらい一人でやっつけるところだが、まだ完全に傷の癒えない状態というのもありあっさり捕まってしまう。すると、そこへやってきたマーサ校長がジョンを従兄弟だと言って誤魔化してくれる。

 

本来であれば学園内を統率しなければならない存在のマーサ校長でさえも、完全にイカれてしまった。もうこの学校に秩序なんてない。夜の誘いを受けたジョンは、どの部屋へ行こうかと悩んだ末にキャロルの部屋を選択する。すると物音に気付いたエドウィナがキャロルの部屋に現れ、慌てて部屋を出たジョンをエドウィナが階段から突き落とし、酷い罵声を浴びせることになる。もう理性のコントロールなんてできない状況だ。

 

そして、医師でも何でもないマーサ校長は独断で負傷したジョンの右足を切断するというのだ。薬で眠らせている間に足を切断するなんて、本当に色んなことを重ね合わせて考えることのできるシークエンスだ。

 

マーサ校長は校内をコントロールしたいだけだ。それを乱す存在であるジョンに惚れてしまったがために手段を択ばない方向に暴走してしまった。そしてついにジョンは銃を手に取り自らが主導権を握ろうとする。ここで男のジョンが銃を手に取るのも面白い。和解を申し出たマーサ校長はジョンを夕食に招待し、そこで毒キノコを食べさせて殺してしまうのだ。

 

この校内には女性しかいないし、非常に禁欲的な教えを説いていたことだろう。そんなところへ男前で長身で甘い言葉をかけてくる男が不意にやって来た。周囲に男がほとんどいないのは戦争のせいだろう。また若い女性は男性への耐性もないはずだ。また、アメリカ南部という場所柄、保守的な考えが浸透していることだろう。

 

そういったある種の抑圧が一人の男によっていとも簡単に崩壊してしまうのだ。この寄宿学校はどう見ても修道院のようだが一応そうではないという描かれ方である。敵も味方もないという言葉が度々出てきながら嫉妬により一人の人間が死んでしまった。宗教色こそ薄められているが、それでも感じる宗教のイメージ。嫉妬による怒りの矛先が同性に向くことはないのかとちょっと思うところではあるが。

 

結局、主人公ジョン・マクバニーは毒殺されてしまうという、イーストウッド初期作品では珍しい主人公の死が用意されている。それでもイーストウッドは撮影を機にキャロルを演じたジョー・アン・ハリスと交際することになるんだからイーストウッドの勝利だな…。

 

【関連作品】

 

「白い肌の異常な夜(1971)」…一度目の映画化

「The Beguiled/ビガイルド 欲望のめざめ(2017)」…二度目の映画化

 

 

 

取り上げた作品の一覧はこちら

 

 

 

【ソフト関連】

 

<BD(ニューマスター版)>

 

言語

├オリジナル(英語/フランス語)

├日本語吹き替え

    ├日本テレビ版

    ├テレビ東京版

音声特典

├Kat Ellinger(評論家)による音声解説

映像特典

├メロディ・トーマス・スコットインタビュー

├The Beguiled, Misty, Don and Clint

├予告編