【タイトル】
イーオン・フラックス(原題:Æon Flux)
【概要】
2005年のアメリカ/ドイツ/ブラジル/イタリア合作映画
上映時間は93分
【あらすじ】
2011年にウイルスによって人類の99%が死滅したが、グッドチャイルド博士によるワクチンで生き延びた人類は外界と壁で隔てられた世界で生き延びていた。それから時を経た2415年。反政府組織「モニカン」のイーオン・フラックスは妹ウナが反政府組織の一員だとして殺されてしまい、イーオンは政府へ復讐を誓う。
【スタッフ】
監督はカリン・クサマ
音楽はグレーム・レヴェル
撮影はスチュアート・ドライバーグ
【キャスト】
シャーリーズ・セロン(イーオン・フラックス)
マートン・ソーカス(トレヴァー・グッドチャイルド)
ジョニー・リー・ミラー(オーレン・グッドチャイルド)
ソフィー・オコドネー(シサンドラ)
フランシス・マクドーマンド(ハンドラー)
ピート・ポスルスウェイト(キーパー)
【感想】
ピーター・チョンが1995年に製作した同名アニメの実写映画化。6,000万ドル程度の製作費に対して、全世界で5,200万ドルしか稼ぐことができず、批評家からも酷評された。
まず、冒頭にあらすじにも記載した本作に至るまでの経緯をすべて字幕で説明している。SF映画で映画の冒頭に至るまでの経緯を字幕で説明するというのは「ブレードランナー(1982)」はじめ多くの映画でなされているが、あまりうまくいっているケースをお見掛けしない。本作に関してはそもそも字幕の情報量が多い割には説明しきれていないのでこの映画の世界観に入っていきづらい。
字幕での説明が終わると、シャーリーズ・セロン演じるイーオン・フラックスは反政府組織「モニカン」の一員として登場するのだが、なぜ反政府組織がある世界なのか、なぜイーオン・フラックスが反政府組織「モニカン」に所属しているのかなどの説明はない。もうこの時点で多くの観客を置いてけぼりにしてしまっている。
一応は失踪事件の続発によるものらしいが、そのためだけにしては最近作られた反政府組織にも見えない。というか政府が失踪事件を起こせるくらいなら、こんな反政府組織もいとも簡単に発見して潰すことくらいできるだろうに。
そしてイーオン・フラックスはモニカンの指導者ハンドラーからの指令を受けて任務を遂行する。このシークエンスは何が行われて、何が得られたのかがさっぱり見えないものになっている。そもそも大量の字幕で説明しなくては映画の入り口を作れなかった映画なのに、肝心の最初の任務で主人公が何をやっているのかさっぱり分からんってダメでしょう。
また、イーオン・フラックスは妹のウナを「モニカン」の一員だと疑われて殺されてしまい、ハンドラーから政府の君主暗殺の指令を下される。すると、両足に手を移植したというシサンドラとともに政府ゾーンに侵入することになるのだが、驚くほどにいい加減な警備体制である。
基本的に無人であり、政府ゾーンに近付くと引き返すようにと言う自動音声が流れるだけである。そして歩を進めると、彼女ら目がけて木の実から針が発射されるのだが、彼女たちは持ち前の運動神経でその針を次々に交わしていく。木の実ゾーンを過ぎると今度は近付くと大量の針が飛び出してくる芝生ゾーンになる。ところが、芝生を囲う石垣は無防備であり、その石垣を伝って芝生ゾーンもクリアしていく。ただ、シサンドラは芝生に思いっきり足に移植した手をついてしまい大量の針が突き刺さってしまう(のちに治療するシーンとかは一切ないので針が刺さっても大丈夫な手をしていたのだろう…)。自動音声と針でしか警備する方法はなかったんだろうか。後にオーレンが情報をハンドラーに漏らしたという展開があるのだが、この警備の甘さとオーレンの情報はあまり関係していないように思える。というか、この場面にシサンドラがついてくる意味はあったのか。
いとも簡単に君主トレヴァー・グッドチャイルド8世に近付いたイーオン・フラックスは彼を殺そうとするが、彼から「キャサリン」と呼ばれてイーオン・フラックスが彼とキスする幻想を見て銃を下ろしてしまい彼らは体の関係を持ってしまう。なんじゃそりゃって展開なのだが、一応後にそれを納得させる展開(彼の妻がクローンがイーオン・フラックスである)を用意しているが、観客は妹の敵討ちに来たという情報しか知らないんだからイーオン・フラックスがあまりにも馬鹿に見えてしまうけど大丈夫か。というか、本作はシャーリーズ・セロンという女優をカッコよく描こうとしているのに、物語やキャラクター造形があまりに間抜けすぎる。目指している方向と物語やキャラクター造詣があまりにもマッチしていない。
すると、トレヴァーの弟オーレンが君主になろうとして暗躍していたことが分かると、トレヴァーとイーオンの二人でオーレンをやっつけようというお話になっていく。その間にこの400年の間にどういうことがあって、ウナがなぜ殺されて…というのがすべて説明されていくのだが、本当にただの説明。この世界観にしかない設定や情報をすべて説明で済ませるという脚本的には最も楽をした展開になっていく。観客はこの情報をただ受け取るしかないのだ。SF映画ってその世界でしか通じない用語や設定が出てくるから観客にその世界観を共有するのは難しい作業であるとは思うが、こういうところこそ脚本家や監督の腕の見せ所だと思うぞ。
終盤になってイーオンがピンチになると、彼女を裏切り者として追っていたシサンドラとテレパシーのやり取りをする。すると、シサンドラは涙を流してイーオンの味方になる。それができるならもっと早くにやっておけよ。しかも、このテレパシーもただの説明。主人公が努力したとかではない。ただテレパシーをしただけなのだ。そしてこのテレパシーによってシサンドラを味方にしたイーオンは敵をやっつける。
最後はめでたしめでたしとなるのだが、設定が込み入り過ぎてピンと来ない。これは本作全体的に言えることだが、どういう経緯で現在何が起こっているのか、各キャラクターが何を考えて行動しているのかが本当に見えづらい。そもそものお話自体があまり面白くないのだと思うが、これならテレビのミニシリーズくらいにして「ちゃんと」描いた方が良かったと思う。
取り上げた作品の一覧はこちら
【配信関連】
<Amazon Prime Video>
言語
├オリジナル(英語)
【ソフト関連】
<BD>
言語
├オリジナル(英語)
├日本語吹き替え
音声特典
├シャーリーズ・セロン(出演)、ゲイル・アン・ハード(製作)による音声解説
├フィル・ヘイ(脚本)、マット・マフレディ(脚本)による音声解説
映像特典
├シャーリーズ・セロンからのメッセージ
├メイキング:未来世界の創造
├ロケーション
├スタント
├衣裳デザイン
├スチール撮影
├キャスト インタビュー
├シャーリーズ・セロン: 来日舞台挨拶&記者会見映像
├オリジナル予告編&TVスポット