【作品#0853】サイダーハウス・ルール(1999) | シネマーグチャンネル

【タイトル】

サイダーハウス・ルール(原題:The Cider House Rules)

【概要】

1999年のアメリカ映画
上映時間は126分

【あらすじ】

孤児院で生まれ育ったホーマーはラーチ医師のもとで産婦人科医としての技術と知識を身に着けていた。ある日立ち寄った若い夫婦を見たホーマーは孤児院の外での生活をするために旅に出ることを決意する。

【スタッフ】

監督はラッセ・ハルストレム
音楽はレイチェル・ポートマン
撮影はオリヴァー・ステイプルトン

【キャスト】

トビー・マグワイア(ホーマー)
シャーリーズ・セロン(キャンディ)
マイケル・ケイン(ラーチ)
デルロイ・リンドー(アーサー・ローズ)
ポール・ラッド(ウォリー)
ジェーン・アレクサンダー(エドナ)
キャシー・ベイカー(アンジェラ)
キーラン・カルキン(バスター)

【感想】

ジョン・アービングが1985年に発表した同名小説の映画化で、そのジョン・アーヴィングが脚本も担当している。アカデミー賞では作品賞含む7部門でノミネートされ、助演男優賞(マイケル・ケインは「ハンナとその姉妹(1986)」に続く2度目の受賞)と脚色賞の2部門を受賞した。なお、ホーマー役はレオナルド・ディカプリオが断った後に彼の親友トビー・マグワイアが演じることになった。

ラーチが営む診療所には多くの望まぬ妊娠によって困った人たちが集まってくる。ある人は産んだ子供をそこへ預け、ある人は人工妊娠中絶を決断する。そして子供ができない人たちや子供を失った人たちがここで生まれた子供たちを引き取りにやってくる。まさに民主党的、ハリウッド的な物語である。

そこで生まれ育ち大人になったホーマーはラーチの右腕として出産や人工妊娠中絶の手伝いをしており、もうすでに独り立ちできるほどの知識と経験を経てきたのだ。ところが、そんな彼も人工妊娠中絶には反対の立場をとっている。もし人工妊娠中絶がなされていれば自分は今ここにいないと考えている。ただ、中絶に失敗した女性が現れたことで人工妊娠中絶が必要なケースがあることも学べるような観客にとっても優しい映画となっている。

ただ、ホーマーはずっとこの診療所で育ったために、外の世界を見たいという欲にも駆られていた。すると、ホーマーはこの診療所を訪れたキャンディとウォリーのカップルについていくことを決意する。この決意もその後にキャンディとウォリーと仲良くなる流れは自然には感じないが、きっかけなんて案外こんなものなのかもしれない。

そんな彼の唯一見たことのある映画が「キングコング(1933)」であることも興味深いし意味がある。本作におけるコングは誰なのか、コングを死に追いやるのは誰なのかなど考えを巡らすのも楽しい。また、もしホーマーが理事会によって医師として採用されてしまえば、まさに晒し者になった可能性だってあるわけだ。

最終的にホーマーは帰ってくる。ある意味ホーマーは生まれた場所に帰って来たのだ。そして、ラーチが望んでいた自分の後継にホーマーはなっていく。この人工妊娠中絶による堕胎も、望まぬ妊娠によって生まれた子供も、そして子供に恵まれない大人たちも受け入れる診療所がホーマーによって受け継がれていく。共和党支持者や熱心なキリスト教徒にケンカを売るような映画ではあるかもしれないが、彼らにとっては必要なのだ。ある意味外れた者たちが肩を寄せ合い生きていく姿は清々しささえ覚える。

キャンディもウォリーが戦争に行っている間にホーマーと愛し合うことになるが、半身不随で帰還したウォリーの世話をすることを選択する。キャンディはすでに人工妊娠中絶で子供を殺してしまったのだ。そして支えてくれたウォリーまで捨ててしまったらどうしようもない。

そしてこの戦争での負傷も上述の人工妊娠中絶に重なるところは感じる。人工妊娠中絶をしなければ命が誕生する(可能性が高い)。そして戦争をしなければ死なずに生きられる(可能性が高い)。ラーチ医師によって戦争を止めることはできない。それでも戦争に行かせないようにすることはできる。だからラーチは心臓の弱い子の心臓をホーマーの心臓だと偽って戦争に行けないようにした。ラーチの何としてでも命を助けたい気持ちはずっと続いていた。そして、ホーマーは負傷したウォリーの世話をするようにキャンディに促した。そうやってラーチの始めた診療所の意思は確実にホーマーに受け継がれていったと思う。

この好対照として登場するのがリンゴ園のローズ氏である。彼は娘を近親相姦の末に孕ませてしまう。事情を察したホーマーによる人工妊娠中絶によってこの命は奪われてしまう。さらに、娘は親のローズ氏を殺して逃亡することにするが、自殺であることにして処理されることになる。近親相姦をしたキャラクターに死を用意したが、その死に加担したキャラクターはお咎めなしである。これもラーチがホーマーを生かせるために用意した嘘と同じである。時に嘘は許されるのだ。

そしてタイトルの「サイダーハウス・ルール」。「サイダー」とはリンゴ酒のことを指しているので、このリンゴ園内でのルールを指していることになる。このリンゴ園の労働者用住居にはルールが記載された紙が貼られているが、ホーマー以外の黒人労働者はみな字が読めないためにそこにどんなルールが記載されているかは知らない。ルールなんて書いたって相手が読めなければ意味がない。これはいかようにも解釈できる。たとえ、計画的な子作りをしなければ人工妊娠中絶をすることになったり、里親に出したりすることがあると周囲から言われたとしても、未熟な人間はその場の勢いで子作りをしてしまうものだ。ホーマーは大人たちに少し期待していたが、ローズ氏の一件を見て確信したことだろう。ラーチのやっていることの正しさと必要性を。また、自分が親友の恋人と愛し合ったことでも身に染みて感じたはずだ。

たとえ引き継がれる物語とはいえラーチ医師が最後に死んでしまう必要はなかったように思うが、非常によく出来た物語で、さわやかながらどこか力強さも感じる作品である。音楽も美しかった。

【音声解説】

参加者
├ラッセ・ハルストレム(監督)
├ジョン・アービング(原作/脚本)
├リチャード・グラッドスタイン(製作)

上記3名による対話形式の音声解説。アカデミー賞授賞式の翌日に収録されたもののようだ。撮影時のミス、原作者の長年の構想を脚本化した話、監督・原作/脚本、製作という立場の違いから生じる話などこの3者だからこそ聞ける音声解説だったように思う。

【関連作品】

「キング・コング(1933)」…本作でこの映画を鑑賞する場面がある。



取り上げた作品の一覧はこちら



【配信関連】

<Amazon Prime Video>

言語
├オリジナル(英語)


【ソフト関連】

DVDには音声解説が収録されているが、後に発売されたBDには収録されていない。

<DVD>

言語
├オリジナル(英語)
├日本語吹き替え
音声特典
├ラッセ・ハルストレム(監督)、ジョン・アービング(原作/脚本)、リチャード・グラッドスタイン(製作)による音声解説
映像特典
├メイキング
├未使用シーン
├TVスポット/予告編

 

<BD>

言語
├オリジナル(英語)
├日本語吹き替え
映像特典
├メイキング
├未使用シーン
├TVスポット/予告編