【作品#0846】U-571(2000) | シネマーグチャンネル

【タイトル】

U-571(原題:U-571)

【概要】

2000年のアメリカ/フランス/イタリア合作映画
上映時間は116分

【あらすじ】

1942年。ドイツの潜水艦U-571が救難信号を発信し、それを傍受したアメリカ海軍は潜水艦S-33をUボートに偽装してU-571を乗っ取り、ドイツ軍のエニグマ奪取の作戦に出る。

【スタッフ】

監督はジョナサン・モストゥ
音楽はリチャード・マーヴィン
撮影はオリヴァー・ウッド

【キャスト】

マシュー・マコノヒー(アンドリュー・タイラー)
ビル・パクストン(マイク・ダルグレン)
ハーヴェイ・カイテル(ヘンリー・クロフ)
デヴィッド・キース(マシュー・クーナン)
ジェイク・ウェバー(ハーシュ)
ジョン・ボン・ジョヴィ(ピート・エメット)

【感想】

潜水艦映画の名作「U-ボート(1981)」でプロダクション・デザインを担当したウィリアム・ラッド・スキナーが本作でも同役を担当している。また、アカデミー賞では録音賞、音響編集賞の2部門でノミネートされ、音響編集賞を受賞した。

また、映画公開後に内容が不正確であるとしてイギリスの当時のブレア首相などから批判の声が上がっている(エニグマ暗号解読に成功した時にアメリカはまだ参戦すらしていなかった)。そして、2006年になって脚本を担当したデヴィッド・エアーは事実を歪曲したことを認め、いい気分ではなく二度とこのようなことはしないと語っている。

本作を語るうえでは上述の事実歪曲は避けて通れない。こんな映画にしたらイギリスから抗議されるに決まっているし、場合によっては外交上の問題に発展しかねない。案の定、国のトップが講義する発言をするに至ったのだ。事実誤認ではなく上述のように歪曲である。映画は脚色されるものなので事実と100%一緒にはできないが、限度はある。そして本作はその限度をかなり大幅に超えてしまったのだ。そこまでしないと作れない映画ならそんな映画は作らなければ良いし、全く別の世界の話として創作すれば良いだけである。この時点で本作は評価できないと言っても過言ではない。

そして、ジョナサン・モストゥ監督が「ブレーキ・ダウン(1997)」の次に撮ったのが本作である。そして本作の次に撮るのが「ターミネーター3(2003)」になる。ジョナサン・モストゥ監督はやはりそれほど大きな世界よりも割とこじんまりとした世界、あるいは登場人物の少ない物語が得意だったんじゃないかと思える。

本作は主人公のタイラーの成長がメインの軸として描かれている。冒頭の時点で自分には艦長になる資格があるもののビル・パクストン演じるダルグレン少佐から推薦を受けなかったことで艦長にはなれないことに不満を抱いているという設定だ。ダルグレン少佐がなぜタイラーを推薦しなかったのかは、タイラーを兄のように慕う乗組員を犠牲にできる覚悟がないと思われていたからだ。後にタイラーが迷う場面や「分からない」と発言する場面があるのでタイラーに艦長になるレベルにないというのは何となく伝わってくるが、この設定を冒頭の簡単なセリフで済ませてしまったことがややもったいなかったように思う。少なくともタイラーの弱さは冒頭の時点で少し盛り込んでも良かったように思う。それなりに経験も積んで自信を持っているが、命のかかる場面で迷いが生じるなど。

軍主導のもと、タイラーらが敵艦U-571を乗っ取って「エニグマ」を奪うという任務が始まると、ダルグレン少佐らの乗るS-33がU-ボートの攻撃を受けてといとも簡単に撃沈してしまう。これによりごく少数の味方の乗る敵艦U-571をタイラー艦長が率いることになる。望んでいた艦長の立場を突如として任されることになったタイラー。おそらく何百人という単位で動かしていたU-571をごく少数の人間で動かさなければならない。この苦労はあまり描かれていないが可能なのかね。

タイラーはこのU-571で向かう先を決めようとするも、他の船員から意見され「俺もどうしたら良いか分からないんだ」と言う。すると、ハーヴェイ・カイテル演じるクロフ曹長から「あなたは艦長なんだから分からないとか言っちゃだめだ」と諌められる。ダルグレン少佐が言っていたタイラーに足りないことをクロフ曹長が教え導いてくれるのだ。そんな感じでタイラーには強力なメンターが傍に居てくれることになる。

そう考えると本作は主人公にものすごく優しくて甘い映画とも言える。ダルグレン少佐はタイラーに足りないところをちゃんと教えてくれたし、それが出来ないと年長の男が手取り足取り教えてくれる。結局最後は覚悟ができるかどうかになってくるが、主人公がそれをどうやって手にしたかはあまり伝わってこない。本作で一番わかり易い犠牲はクライマックスでバルブを閉める役割を任されるトリガーだろう。溺死覚悟でトリガーがバルブを閉めないと魚雷は発射できずにU-571はやられてしまう。諦めそうになるトリガーをタイラーは何とか説得する。説得に応じたトリガーはバルブを閉めることに成功するが溺死してしまう。このタイラーによるトリガーへの説得は冒頭に提示された主人公が乗り越えるべき障害と言えるだろうか。トリガーからすれば諦めようが頑張ろうが死ぬかもしれないわけだから頑張る方に賭けただけといえばそれまでだ。もし本当に主人公に乗り越えるべき障害を用意するのなら、ダルグレン少佐が言っていたように兄貴の如く自分を慕い、そしてタイラーも慕うような後輩的なキャラクターが犠牲になるべきだったんじゃないだろうか。

潜水艦ものとしての面白さはそれなりにあるが、上述の事実歪曲と主人公の成長譚としてはかなり弱い点は評価できない。主題歌を歌ったボン・ジョヴィのボーカルであるジョン・ボン・ジョヴィが出演しているが1シーンのみで死んでしまったのは意外性があったな。




取り上げた作品の一覧はこちら



【ソフト関連】

<DVD(デラックス版)>

言語
├オリジナル(英語/ドイツ語)
├日本語吹き替え
音声特典
├ジョナサン・モストゥ(監督)による音声解説
映像特典
├メイキング
├U-571の建造
├エニグマの秘密
├英国、U-110を拿捕
├潜水艦乗員の第二次大戦体験談
├米海軍資料映像:U-505の拿捕
├劇場予告編
├キャスト&スタッフ紹介
├プロダクション・ノート
├解説/データ
├ピクチャー・ディスク


<BD>

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