【作品#0822】巴里のアメリカ人(1951) | シネマーグチャンネル

【タイトル】

巴里のアメリカ人(原題:An American In Paris)

【概要】

1951年のアメリカ映画
上映時間は114分

【あらすじ】

パリで画家として成功することを夢見るジェリーは、金持ちのミロに見込まれて食事に誘われる。ジェリーはその酒場で見かけたリズに一目惚れしてしまう。

【スタッフ】

監督はヴィンセント・ミネリ
音楽はジョージ・ガーシュウィン
撮影はアルフレッド・ギルクス

【キャスト】

ジーン・ケリー(ジェリー)
レスリー・キャロン(リズ)

【感想】

アカデミー賞では作品賞含む計6部門を受賞したミュージカル映画。監督のクレジットはヴィンセント・ミネリだが、当時結婚していたジュディ・ガーランドとの離婚や他の企画のためにジーン・ケリーが監督を引き継いでいる。また、ジーン・ケリーはパリでのロケを希望したが、MGMは手配やロケ地の確保が困難として映画用のスタジオで撮影することになった。映画内で実際のパリが映るのは2か所だけである。

よく言われていることだが、ジーン・ケリー主演のミュージカルなら翌年の「雨に唄えば(1952)」が本作よりも先に製作されていればそっちがアカデミー賞を受賞したであろう。長いアカデミー賞の歴史で見ても本作はあまり存在感がない一本。「あれ、アカデミー賞取ったの雨に唄えばじゃなかったっけ!?」って思われることも多いだろう。本作はこの感想に尽きる。

そもそもアカデミー賞でミュージカル映画が作品賞を受賞したのも2024年現在では「シカゴ(2002)」を最後に22年も受賞がない。ちなみに、その前を遡れば「オリバー(1968)」になる。そして本作が製作された1950年代はMGM製作のミュージカル黄金期である。その景気の良さは本作のラストに用意されたミュージカルシーンから感じ取ることができる。ほとんどがセットだろうが絢爛豪華で衣装だけでなく最終的には人の多さで勝負しているようだ。

このフィナーレはデイミアン・チャゼル監督の「ラ・ラ・ランド(2016)」のラストにも影響を与えたようでなるほどそれは頷ける。ただ、振り返って本作のフィナーレを見ているとただ冗漫になっているだけに感じてしまう(妄想は尽きないってことなんだろうか)。ちなみにこのフィナーレの後の描き方は本作と「ラ・ラ・ランド(2016)」は正反対である。本作は主人公の夢見る生活をミュージカルで描き、ラストで主人公の元へヒロインがやって来て結ばれるというものである。夢見ればきっと叶うってか。たまにはこんな能天気でハッピーなミュージカルもありなのかな。

本作と翌年の「雨に唄えば(1952)」に共通するのは主人公とヒロインが結ばれることで振られる人が出てくることだ。ジェリーがリズと結ばれることで、リズが結婚予定だったアンリは振られるわけだ。「雨に唄えば(1952)」の鬼畜の所業みたいなラストを考えると本作のラストは爽やかなもんだが、やっぱりどこか自己中心的なお話に見えてしまうな。人生の主人公は自分なんだから自分のことを最優先に考えるのは当然だが、あまりにも主人公たちが自分たちのことしか見えていないように思えてしまう。

基本的には深く考える作品ではないのかもしれないが、登場人物たちがいかにも映画内に作り込まれた人形のようだ。言っちゃ悪いがまるで血の通った人間には思えぬほど浮世離れしている。それは全編ほぼセットであることも要因の一つだろう、また、ほぼ全員が英語を話しているのに舞台がパリであることの理由なんて明示されることはない。パリはオシャレそうだからとかそんな理由だったとしても頷ける。

それから、主人公が絵描きであることもあまり意味を成していない。ジェリーから本気で画家として成功しようという気概なんて1ミリも感じないし、映画が始まってからしばらくは絵を描く場面すらない。中盤になってようやく絵を描き始めるのだが、これは若手の芸術家を支援しようとする女性から頼まれたからである。なぜ絵を描きたいのか、どんな絵を描きたいのか、そういったジェリーの内面は一切見えてこない。映画の主人公が芸術家であるという設定は映画の脚本家や製作者、ひいては監督の写し鏡になることが多いのだがそれも感じない。

そして、本作のヒロインであるリズを演じたレスリー・キャノンはどこか初々しさこそあるのだが、主人公が惚れる程の魅力があったようには思えない。映画にはヒロインがいるべきだという固定観念のもと誕生したようなキャラクターである。最初はジェリーを嫌な男だと思っているが徐々に惹かれていくなんていうのもお約束中のお約束みたいな展開である。

そんな感じで観客の予想通りの展開で映画は終わる。何の裏切りもない、想像したような1950年代のMGMのミュージカル映画を見たければ本作を見れば満足できるだろう。ただいくら何でも噛み応えがないわ。ミュージカル映画の代名詞とも言える翌年の「雨に唄えば(1952)」も特にラストは本作以上に自分勝手にも見える結末だった。それに比べれば本作は幾分かマシだが、何といっても「雨に唄えば(1952)」には魅力的なナンバーとダンスがあった。本作にはそれがない。




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├インタビュー集(音声のみ/映像&字幕なし)
├ジーン・ケリー: ダンサーの肖像
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