【作品#0713】ティアーズ・オブ・ザ・サン(2003) | シネマーグチャンネル

【タイトル】

ティアーズ・オブ・ザ・サン(原題:Tears of the Sun)

【概要】

2003年のアメリカ映画
上映時間は121分

【あらすじ】

内戦が続くナイジェリアでは反政府軍による虐殺行為が続いていた。アメリカ海軍ウォーターズ大尉率いる小隊は同じアメリカ人医師ケンドリックスを救出するように命じられ現場に向かうのだが…。

【スタッフ】

監督はアントワン・フークア
音楽はハンス・ジマー
撮影はマウロ・フィオーレ

【キャスト】

ブルース・ウィリス(ウォーターズ)
モニカ・ベルッチ(リーナ・ケンドリックス)
トム・スケリット(ビル・ロード大佐)

【感想】

当初は「ダイ・ハード」シリーズの4作目として企画されたようだが、別物として製作されることになったようだ。ニューヨーク市警のジョン・マクレーンがナイジェリアで救出作戦に参加するわけがないので、当初の企画から相当変更されたはずだ。にしても、「ダイ・ハード」として企画されたというのはにわかに信じがたい。ブルース・ウィリスが主演した以外にその要素はほとんどない。

それから、本作のキーとなるのが小隊を率いるウォーターズがなぜ本部の指示を無視してまで現場に引き換えして難民をヘリコプターに乗せるのかの部分である。また、ヘリコプターが往来できないとなると、なぜ難民を連れて徒歩で国境を目指すのか。これについては部下からの質問でウォーターズは「分からない」と答えている。映画的には明確な答えを示すべきかと思うが、「分からない」というのも一つの答えなので批判するほど悪いものではないと感じる。

また、映画の主人公が「分からない」と答えるのなら、その意味を考えるべくは当然、映画に携わった製作者であり、また観客である。普通に考えれば「目の前に生きた人間がいるのだから置いてけぼりにはできなくなった」となるだろう。ただ、主人公は特殊部隊で経験を積んだ「できる」人間であると描かれていると感じる。そんな彼がリスクを負ってまで難民を助けるという選択をした理由はやはり見えてこない。

というか、作戦開始前に現地の難民をどうするのか、救出対象のケンドリックスが駄々をこねた場合にどうするかなどは考えられていなかったのだろうか。外国人だけが救出対象なんだからケンドリックスの意見など問答無用で連れて来るものではないのか。また、仮に救出対象のケンドリックスの意見を尊重するような余裕があるのなら、その場合にどこまで譲歩できるのかなど綿密な計画があってしかるべきだ。本作の描き方だと、まるで行き当たりばったりでアメリカ海軍自体が出来の悪い組織に見えてしまうぞ。また、トム・スケリット演じる大佐は登場する度に甲板から連絡するという感じになっており、どうも指揮系統も機能しているとは言い難い。

さらには、死んだと思われていた大統領の息子が難民の中に紛れ込んでいたことは後に偶然分かった事である。映画的にはそんな情報を後出しされてもなぁというところだ。本来ならこの要素が映画を面白くしても良さそうだが、この事実が分かったとしても敵から逃げることに変わりはない。

結局のところ、ウォーターズがケンドリックスという色っぽい女性に心を動かされてしまったと見るしかないように思う。ウォーターズがケンドリックスにキスするシーンが撮影されたが、試写で不評だったために削除されたというトリビアに集約されているだろう。しかも、ケンドリックス役に起用されたのが当時の色っぽい女優ではトップクラスだったモニカ・ベルッチである。こんな女性にお願いされたら断れないってこと。そりゃ部下から理由を聞かれても正直に答えるわけにはいかず「分からない」と答えるしかないな。

ただ、そういった下らない分析をしたところで、「アメリカ万歳映画」であることには変わりないと思う。異なる民族の内紛に対して、主人公たちが取る立場は難民を助けることである。この内紛の原因もどちらの主張が正しいのかも映画の中には示されないので分からない。ここは明確にしたうえで主人公たちが行動しなければ、「なんか分からんけど内紛が起こって追われている人がいるから助けよう」という具合にしか見えない。アメリカは世界各国での内紛解決に向けて精力的に活動してきたが、本作の描き方だと中途半端に首を突っ込んでいるようにしか見えず、場合によっては内紛を大きく悪化させていたかもしれないのだ。

また、本作の終わらせ方だと、主人公たちの取った行動は勇敢で正しかったということになる。しかも、主人公が上司の指示を無視して正しい行動をするといういかにもアメリカ人好みのお話である。また、本作公開当時の世界情勢を鑑みると、本作公開されたのとイラク戦争の開始が偶然にも同じ2003年3月である。アメリカ国内はテロとの戦いを支持し、大量破壊兵器を保有するイラクへの侵攻を決断したころである(ご存じのようにイラクに大量破壊兵器はなかったのだが)。そんな世論を後押しでもするかのごとく、主人公は勇敢に描かれている。

主人公のウォーターズは、とにかくハリウッドらしいヒーロー像で、そこに意外性などなくもはや陳腐なキャラクターである。それでもこの2003年という時代に描かなければならない何かと言えばテロとの戦いくらいしか連想しない。タイトルの「ティアーズ・オブ・ザ・サン」には「神様でさえも涙を流すほど悲惨」という意味のようだ。それはこの内紛を指しているのか、はたまた他の何かを指しているのか。あらゆる観点から本作を見てもとても評価はできない。

 

 

 

取り上げた作品の一覧はこちら

 

 

 

【ソフト関連】

 

<DVD>

 

言語

├オリジナル(英語)

├日本語吹き替え

音声特典

├アントワン・フークア(監督)による音声解説

映像特典
├脚本家の視点
├アフリカ・ファクト・トラック
├メイキング・ドキュメンタリー:生命の旅路
├アフリカの声
├未公開シーン集
├マップ・オブ・アフリカ
├オリジナル劇場予告編集