【作品#0625】ブラディ・サンデー(2002) | シネマーグチャンネル

【タイトル】

ブラディ・サンデー(原題:Bloody Sunday)

【概要】

2002年のイギリス/アイルランド/アメリカ合作映画
上映時間は111分

【あらすじ】

1972年のイギリス北アイルランド地方で発生した「血の日曜日事件」を描く。

【スタッフ】

監督/脚本はポール・グリーングラス
音楽はドミニク・マルドウニー
撮影はクレア・ダグラス

【キャスト】

ジェームズ・ネスビット(アイヴァン・クーパー)

【感想】

ドン・マランが1997年に発表した書籍を当初はテレビ用映画として撮影したたが、サンダンス映画祭でのプレミア上映を経て、ロンドンの一部劇場でも劇場公開された(日本では劇場未公開)。ベルリン国際映画祭では「千と千尋の神隠し(2001)」と金熊賞を同時受賞するなど評価を受けた。なお、エンドクレジットで流れるのはU2が「血の日曜日事件」をテーマに歌った「Sunday Bloody Sunday」のライブバージョンである。

本作は1972年に発生した「血の日曜日事件」を描いた作品である。「血の日曜日事件」という名称で知られる事件は他にもあるが、イギリスの北アイルランド地方で発生したものである。本作は当初テレビ用の映画として撮影されていたらしいので、視聴者の対象はイギリス、ないしはアイルランドの国民向けということだろう。なので、「血の日曜日事件」が発生するに至る歴史などについては全く説明がないので、北アイルランド地方がなぜイギリスとアイルランドとの間で生じる衝突の地となっているか、IRAが何かくらいは少しくらい知った上で鑑賞した方が良いだろう。

そんな本作はこの「血の日曜日事件」の発生前夜から発生当日の夜までの大体1日を描いている作品である。基本は主人公とも言える議員のアイヴァン・クーパーを捉え、その合間に軍、行進に参加した人々、IRAなどの様子も描かれていく。決して間延びすることのない編集で、その場に居合わせた様な臨場感も味わえる作品である。また、後のポール・グリーングラス監督の演出にもよく見られるような手持ちカメラによる揺れも演出がなされており、ドキュメンタリー映画の様相を呈している。

結局のところ、丸腰の市民相手に銃をぶっ放した軍はその事実を長年隠蔽し続け、事件発生から30年ほどの時を経てようやくその隠蔽された事実が明るみに出始めていたというわけだ(さらに本作の製作後にも様々な事実が発覚している)。そして、これを比較的被害者に近い立場のアイルランド人(北アイルランド人)ではなく、イギリス人のポール・グリーングラスが監督している訳である。

最後のセリフ「こっち言い分も報道してくれ」が一番のメッセージだろう。1972年から半世紀以上経過した現在でもマスコミの影響力は落ちたとはいえまだまだ十分な力を有している。マスコミにだって「報道しない自由がある」わけだが、軍にしたって、マスコミにしたって組織が大きくなればなるほど保守に走りがちであり、これは全世界どこにでも共通するものだろう。だからこそ、民主主義の基本とも言える「デモ」をイギリス政府が封じたのはとんでもない罪なのだと思う。

さらには、英国病という経済的に貧しい状態が続いたイギリスにおいて、その不満の蓄積も大きかったのだろう。本作で描かれる「血の日曜日事件」当日は決して晴れておらずどんよりしており、イギリスの抱える状況を表しているようにも思えるし、長年隠蔽され続けた日の目に当たらない事件だったことも示しているのだろう。

当時のイギリス国内はプロテスタントとカトリックの対立、経済的に貧しい状態で失業率も高い状態であった。他にも問題は山積していたことだろう。そんなありとあらゆる問題を主人公の議員アイヴァン・クーパーに詰め込むべく、彼が朝に家で身支度をしてから事件が発生した箇所に移動するまでの間に、両親や支援者と話したり、現状を確認したり、軍にデモ行進の許可を依頼をしたり、また打ち合わせでデートをすっぽかした恋人と話したり…。議員ともなれば多忙極まりない事だろうが、このアイヴァン・クーパーという一人の議員にこれでもかと問題を肩に乗せていく。

そんなアイヴァン・クーパーは、この事件を機にまた新たな問題を抱えてしまった。最後の会見での彼の演説はもちろん素晴らしいが、時折抜け殻のように「無」になる瞬間がある。彼には亡くなった知り合いを悼む時間すらない。

何世紀にもわたる問題がすぐに解決できるわけもない。ただ、暴力では何も解決できない。話し合いの場に、銃も石も不要だ。群集心理、自分を守りたいという保身、家族や友人を殺されたとして生じる復讐心…。下記の解説などを聞くに、これほどの被害を出さずに済む方法は確実にあったはずだし、それを多くの人間が怠ってしまったのだろう。歴史は繰り返すというが、歴史から学ばなければならない。本作の持つストレートなメッセージは多くの人々に響くはずだ。この暴力を排除できない世の中だからこそ、価値ある作品であり続けているのだろう。

【音声解説1】
 

参加者
├ポール・グリーングラス(監督/脚本)
├ジェームズ・ネスビット(アイヴァン・クーパー役)

上記2名による対話形式の音声解説。本作を製作する上での話し合い、ロケ地や撮影手法、この2名の考える問題の原因、エキストラの演技、撮影時のスタッフやキャストの結束など、本作の理解を深めることのできる話をたくさんしてくれる。

【音声解説2】
 

参加者
├ドン・マラン(原作/共同製作)

「血の日曜日事件」の発生時に現場に居合わせ、本作の原作を著したドン・マランによる音声解説。本作でも神父役で出演している。

ドン・マランは15歳当時に「血の日曜日事件」を経験しており、その際に感じたことや覚えていること、当時のマスコミの力を軽く見ていたこと、もし当時18歳ごろだったら事件後にIRAに入っていたかもしれないという話、本作を通じて伝えたいこと、映画化の話をもらってから3年越しに実現した話、原作がポール・グリーングラス監督によって脚色されていく様子など、時折沈黙の時間はあるが、聞き応えのある話をしてくれる。

 



取り上げた作品の一覧はこちら


 

【配信関連】
 

<Amazon Prime Video>

 

言語

├オリジナル(英語)

 

【ソフト関連】

 

<DVD>

 

言語

├オリジナル(英語)

├アメリカ劇場公開版(英語)

音声特典

├ポール・グリーングラス(監督/脚本)、ジェームズ・ネスビット(アイヴァン・クーパー役)による音声解説

├ドン・マラン(原作/共同製作)による音声解説

映像特典

├「ブラディ・サンデー」再び語られる歴史

├アイヴァン・クーパー本人が語る 1972年1月30日

 

【ソフト関連】

 

<U2「Sunday Bloody Sunday(1983年のアメリカでのライブ映像)>