【作品#0577】西部戦線異状なし(2022) | シネマーグチャンネル

【タイトル】

 

西部戦線異状なし(独題:Im Westen nichts Neues)

 

【Podcast】
 

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【概要】

2022年のドイツ/アメリカ/イギリス合作映画
上映時間は148分
2022年10月28日にNetflixより世界独占配信

【あらすじ】

第一次世界大戦が始まってから3年目の1917年。17歳のパウルは友人らと共にドイツ帝国陸軍へ入隊する。意気揚々と戦場に向かう彼らだったが…。

【スタッフ】

監督はエドワード・ベルガー
音楽はフォルカー・バーテルマン
撮影はジェームズ・フレンド

【キャスト】

フェリックス・カマラー(パウル)
ダニエル・ブリュール(マティアス・エルツベルガー)

【感想】

エーリヒ・マリア・レマルクによる1929年の同名小説の3度目の映画化。2022年10月28日からNetflixで全世界独占配信され、英国アカデミー賞では14部門でノミネートされ、作品賞含む7部門を受賞した。また、アカデミー賞でも作品賞含む9部門でノミネートされている。

特に1930年版と比べると別物と言っても良いくらいに異なる。当然、1930年から92年も経過しているので技術的な部分での向上は言うまでもなく、映画自体のルック、当時の戦争映画には到底使われることのない電子音を使った音楽などが本作をオリジナルなものに仕立て上げている。ちなみに、ダニエル・ブリュール演じるマティアスが休戦交渉する場面は小説にはない本作オリジナルの要素である。ちなみに、1930年版とも重なる箇所は、戦場行きを望んでいない者を嗾ける場面、戦場で見つけた女性のポスター、敵のフランス兵と2人きりになる場面などが挙げられる。また、1930年から大きく削除されたのは、パウルが休暇を利用して故郷へ帰る場面であろう。

また、当然のことながらモノクロ映画だった1930年版と違い、本作はカラー映画である。ただ、本作はかなりモノクロ映画を意識した色調で統一されており、カラフルな場面などほとんどない。強いて言えばパウルが登場するドイツの平和な街は戦場に比べれば遥かに色調豊かである。それ以降の戦場の場面となると、晴れた空も登場せず全体的にどんよりしており、皆が同じ色の軍服を着て、背景色も暗い色が多く、塹壕内の泥や泥水に使用される灰色が目立ち、これがモノクロ映画らしくしているところである。そんな中でもカラー映画らしい表現となっているのは炎の表現だろう。そして、悲しみや怒りといった感情を表現してきたパウルが無表情になるラストもそのモノクロ表現に呼応している。

本作はあらゆる要素が円環構造になっている。本作の最初の映像と最後の映像は西部戦線を遠くから映した自然の映像である。また、冒頭の戦場のシーンでハインリヒはあえなく死んでしまい、死んだ彼の軍服やブーツは回収されて洗濯され、工場で働く女性たちが洗い終わった軍服の破れた箇所をミシンで縫っている。そして、その軍服は巡り巡って新兵のパウルのもとへ辿り着くことになる。そして、そのパウルの登場シーンは自転車で坂道を下って来るところであり、パウルはラストで塹壕の中にある坂を下った部屋の中から上へ登ってくるところであった。そして、新兵だったパウルは最後の戦いではすっかりベテラン兵。そこへまだ汚れていない新兵がやって来る。パウルが死んだ戦場でその新兵はパウルが最初に塹壕に来た時にさせられた認識票の回収をさせられる。この円環構造になっているという事実こそ、人間が戦争を繰り返しているという事実にも重なる。そして、本作製作以降に始まったロシアによるウクライナ侵攻は重ねて見てしまうのも当然である。

休戦交渉の末、11月11日11時に休戦の効力が発揮されることになる。そして、友人も感情も失ったパウルは残り15分の段階で再び戦場に放り出される。11月11日11時の時点で勝ち取った戦地が自分たちの領土になるわけである。そのために再び若い命が犠牲になってしまう。この場面を見ると、朝鮮戦争を描いた「高地戦(2011)」を想起させる。2時間以上にわたって本作を鑑賞してきた観客も、多くの若い命が失われる戦場を目撃して、さすがに疲労の色が見え始めているころだろう。そんなところへ追い打ちをかけるようにパウルは失った塹壕の奪還を目指して銃弾が飛び交う戦場に飛び込んでいく。意気揚々と陸軍入りを果たした10代の若者もすでに1年半以上戦地で生き延びている。戦地での経験から銃や手榴弾の扱いもうまくなり、他の兵士よりも逞しくなったのかもしれない。パウルだって死にたくないし、人を殺したくない。でも戦地に放り出されて銃や刀を向けられると、感情ではなく体で反応していることだろう。そんなパウルも休戦の効力が発揮される11時ごろに殺されてしまう。

戦争映画を見ていると人の死は戦場での死ばかりであるが、人間は戦場でも戦場以外でも死ぬものである。パウルが友人カットの手紙を代読する場面があり、カットは息子を天然痘で亡くしていることが分かる。カットという戦場に送り出された若者が故郷で死んだ息子の哀しみを戦場で背負わなければならないのは何重にも悲しい場面である。

1930年版でも大きな印象を残したパウルが休暇を利用して故郷に戻る場面は本作では描かれていない。戦場での悲惨な経験をした若者にとって唯一の拠り所だと思えた故郷が受け入れてくれないという描写は本作のテイストを考えるとやや説教臭く説明的な展開になったのかもしれない。

その代わりに追加されたのはドイツ軍上層部とフランス軍上層部による交渉の場面である。そこでは本作で製作にも入っているダニエル・ブリュールが演じるマティアス・エルツベルガーという実在の軍人視点を中心に展開する。敗色濃厚のドイツ軍上層部の中で唯一現実的な考えを持つ人物として描かれており、これ以上の犠牲を出さないためにも一刻も早い休戦を依頼している。また、その軍の上層部の場面になると画面内は落ち着き、整ったテーブルなどの配置が、雑然とした戦場との対比をなしていた。

本作には重低音の電子音が要所で使用されている。本来、歴史ものの映画や戦争映画では、その当時に使用されていた楽器こそ使えど、以降に発明された技術の音楽は使わないというのがお約束である。なので、どう考えても当時には出せなかった音を使った音楽作りを本作がしているのは意図的なものだろう。

そして、「西部戦線異状なし」というタイトルの意味。たった数百メートルの陣地を取るために何万人もの命が短い間で失われた。百メートル陣地を取った取られたなんていうのは外から指揮する軍人からすれば「異状なし」と判断されるものだったのだろう。

本作は音響や戦場での表現だけでなく、画面を横一杯あるいは奥行きを使った表現も素晴らしかっただけに劇場のスクリーンで見たかった。キャラクターによる主義主張はなく、極力戦争に参加した若者を中心に淡々と描くからこそそのメッセージも十二分に伝わった。

【関連作品】

西部戦線異状なし(1930)」…同名小説の1度目の映画化
「西部戦線異状なし(1979)」…同名小説の2度目の映画化(テレビ映画)
「西部戦線異状なし(2022)」…同名小説の3度目の映画化
 

 


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【予告編】

 

 

【配信関連】

 

<Netflix>

 

言語

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