【作品#0367】レンタネコ(2012) | シネマーグチャンネル

【タイトル】

 

レンタネコ


【概要】

2012年の日本映画
上映時間は110分

【あらすじ】

たくさんの猫を飼っているサヨコは、寂しい人のために猫を貸し出すサービスを営んでおり、彼女は次々に猫を貸し出し始める。

【スタッフ】

監督/脚本は荻上直子

【キャスト】

市川実日子(サヨコ)
草村礼子(吉岡敏子)
光石研(吉田悟朗)
山田真歩(吉川めぐみ)
田中圭(吉沢茂)
小林克也(隣人)

【感想】

市川実日子にとって荻上直子監督作品への出演は「めがね(2007)」以来となった。

愛猫家を公言する荻上直子監督が脚本も書いた本作だが、猫への愛情は全くと言って良いほど感じられない。寂しさを抱える人のために猫をレンタルに出すという基本設定だが、この時点で頭がおかしいのではないかと感じる。例えば寂しさを抱える人がいるとして、そんな人に「猫でも飼ってみたら」と勧めるならまだ分かるが、炎天下の中、猫をあちこち連れまわして見ず知らずの人間に猫を貸すという考えはさすがにヤバイ。一応猫を貸しても大丈夫な環境かどうかをサヨコがその相手の家まで確認に行くが、結局「よし!この人なら大丈夫そう!」くらいのノリで猫を貸し出している。猫にとって家の中に危ない物がないかを確認するとか、初めて猫を飼う人に向けて注意事項を伝えるとか、そういった描写がないのも猫への愛がないと思われても仕方ない。ただの猫好きの馬鹿が「なんか大丈夫そう」ってだけで猫を貸しているようにしか見えないぞ。監督がいくら愛猫家と言っても、猫は人間の寂しさを埋めるための道具としてしか捉えていないのだろうな。

本作の構成としては、4人に猫を貸すと言うことで4つのエピソードが続けて語られていくと言うスタイルである。1人目と2人目のエピソードでは、貸し出す際のお金に関する一言一句違わぬ問答を繰り返し、最後に聞かれた職業だけ違うものを答えると言うやり方をとっているが、そもそも全く同じ問答が繰り返されるわけもないし、ただ長ったらしいだけだ。そして、その最後に職業を言うと、サヨコが実際にその職業で働いている場面が少し挿入されるのだが、株、占い、作曲という仕事をやっているということで、お金には困っていないと言う話になっている。今までの荻上直子監督作品ではお金のことについては触れてこなかった。「かもめ食堂(2006)」では主人公の食堂に半年間客が1人も来ていないのにお金に困る描写はなかったし、また前作の「トイレット(2011)」でも日本からカナダに来たバーチャンに金をせびると財布からお金がどんどん出てくるという謎の設定があった。基本的にお金に困るとかお金がないとかそういう嫌なことは描いて来なかったが、本作はそんな過去作への彼女なりの回答として、当てつけの如くあえてふざけたものを用意したのだろう。株にしても占いにしても作曲にしても、ここまでいい加減に描くと、それは却ってその職業で働く人の心証も悪くするよ。

1人目に猫を貸すおばあさんは、残り短い人生で死ぬまでの間に猫をレンタルすることになり、猫を借りた後すぐに死んでしまう。せめてこのおばあさんが猫と一緒にいる時にとても幸せそうにしているところをサヨコが目撃して役に立てたことを喜ぶ描写とかは必要じゃないかな。そして、その猫を引き取りに行くと、そのおばあさんの息子らしき人が出てきて、「いかにも」嫌そうな人物として描いている。この息子は猫アレルギーで猫がいることを嫌がっている。このおばあさんは、自分が死ぬまでこの猫をレンタルすることになるが、もし死んでしまったら家のことや猫のことはまずこの猫アレルギーの息子がやることになる。仮に猫が好きだとしても、この優しそうなおばあさんなら自分が死んで猫アレルギーの息子に猫のことを託すことになるのは可哀そうだろうと思うはず。ただこの場面では、荻上直子の世界に入って来れない嫌な人間として描くことが優先されている。荻上直子の世界に浸れない人間に対しては極端なくらい嫌な嫌な人間として描いているが、そこに荻上直子監督の嫌な人間性を感じる。


2人目に猫を貸すのは単身赴任中の中年男性である。年頃の娘からは「臭い」と嫌われ、その寂しさから猫を借りることになる。サヨコが「臭いのが好きな猫もいる」と言ってその中年男性に適した猫をあてがっている。これもどうかと思うが、適材適所ということなのだろう。この男は単身赴任が終わると猫を返す予定だったが、猫に入れ込んでしまって買い取ることになる。しかも妻は猫アレルギーだそうだが(またかよ)、何とか説得したらしい。いやいや、アレルギーは説得ではどうにもならないぞ。その後の家庭の様子がその中年男性だけのショットで描かれる。出勤前に靴を履こうとすると靴下が破れており、台所でおそらく洗い物をしている奥さんが何も言わずに靴下を放り投げてくれる。そもそも台所に常に靴下は置いていないだろう。ここでは中年男性だけをカメラが捉えており、家庭は充実していないが猫という代わりを見つけたという感じになっている。もし奥さんが靴下が破れることを見越して常備しているならとてもいい奥さんじゃないか。というか娘の話はどこへいったんだよ。結局、この中年男性の問題は何一つ解決しておらず、家庭内で居場所をなくしたお父さんが猫に走っているだけである。これは離婚に向かうぞ。それでいいのかい。

3人目に猫を貸すのはレンタカーの受付をやっている女性である。貸し出す車にランク付けをしていることが気に食わないサヨコは「ランク付けするのはおかしい」とその女性にいちゃもんをつける。「うちの猫はCランクかもしれないけど、みんな良い子たちです」とサヨコは言っているが、お前もランク付けしてるやないか。挙句、サヨコはその女性に「あなたは何ランクですか」と聞く。初対面で(というか初対面でなくてもだが)、これほどのことを言ってくる人間はどう考えても頭がおかしい。するとその女性は自身の過去や思いを吐露し始める。そしてこの女性には友達がいなくて寂しいからということで猫を貸すことになる。そして後日、その女性はレンタカー屋さんで働いているのに車をレンタルしたことがなく、車をレンタルすることが条件の懸賞に当たってハワイ旅行に行くことになる。この後日談的な展開に何の意味があるのかさっぱりである。友達がいなくて猫を借りて楽しくなったとかなら分かるが、友達がいないままハワイ旅行が当たったとして一人で行くのかい。というか社員が懸賞に応募して当たるなんてダメだろう(多分、荻上直子監督にこの辺の倫理観が欠落しているのだと思う)。

そして最後の4人目に猫を貸すのはかつての同級生の男である。というか結局猫は貸さないのだが。今までの3人は自分のルールに相手が勝手に感化され、3人ともが主人公側の人間になってしまっていた。その点でこの4人目だけはちょっと違う。この男は「暑い時はビールだ」と言ってビールを買って来てくれる。そして主人公がビールを飲むと「本当だ」と暑い時のビールの良さに気付くのだ。この主人公が初めて自分の世界と違う世界を味わい、彼女なりに成長していく話かと思ったが、尻切れトンボのようにこのエピソードは終わってしまった。結局、荻上直子監督の世界の中でしかこの映画に登場する人間は輝かないし、それ以外の人間は極力排除したり、嫌な人間として描いたりしている。今までもお金や異性としての男といった、おそらく荻上直子監督の考えたくないことや面倒だと思っていることが極端に排除された世界が描かれてきた。それは本作においても同じだし、凝り固まった考えを押し付けてくる様子には尋常じゃない嫌気を感じる。

 

あと、どうしても突っ込んでおきたいことがある。レンタカー屋でサヨコが「デジャブー!!」と言う、おそらく映画的に笑いを取りに来た場面がある。サヨコが夢で見た光景をレンタカー屋で体験した時に発言するものであるが、もしそこで何かを言うなら「デジャブ」ではなく「正夢」が正しい。

 

映画を見てこれだけ感じたことを書けるのだから、総じて楽しんだとも言えるが、私が見た映画の中で間違いなく「ワースト10」には入る。



 

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【予告編】

 

 

【配信関連】

 

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言語

├オリジナル(日本語)

 

【ソフト関連】

 

<DVD>

 

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├オリジナル(日本語)

映像特典

├メイキングスライドショー
├レンタネコのはなし 市川実日子×荻上直子監督
├猫の達人に聞け! 

  ├「キャットプリン」の岩佐さん

  ├「猫美術館」の鈴木さん
├コトバネコ
封入特典
├ブックレット(12P)
├歌丸師匠カード(借用書つき)
├「レンタネコ」猫の写真集

 

<BD>

 

収録内容

├上記DVDと同様