【タイトル】
チョコレート(原題:Monster's Ball)
【概要】
2001年のアメリカ映画
上映時間は111分
【あらすじ】
死刑囚の夫ローレンスの死刑執行当日、妻のレティシアは息子と共に刑務所で最後の別れを告げた。その刑務所で看守として働くハンクと彼の息子ソニーはローレンスの死刑を執行することになる。
【スタッフ】
監督はマーク・フォースター
撮影はロベルト・シェイファー
【キャスト】
ハル・ベリー(レティシア)
ビリー・ボブ・ソーントン(ハンク)
ヒース・レジャー(ソニー)
ピーター・ボイル(バック)
【感想】
主演したハル・ベリーが非白人として初のアカデミー賞主演女優賞を受賞をしたことでも話題になった作品。原題は「怪物の舞踏会」を意味する「Monster's Ball」だが、そのままカタカナ表記するとポケモンを連想しないわけもなく、「チョコレート」という邦題が付けられた。
映画の舞台となるのは黒人差別のなくならない南部のジョージア州。主人公は親譲りの黒人差別意識を持っており、小さな黒人の子供2人が私有地に入って来たくらいで銃を使って脅している。その子供たちと仲良くしているのがハンクの息子ソニーである。ハンクは自分の思うように成長しないソニーにきつく当たり、そのことが要因でソニーはハンクとバックの目の前で自殺してしまう。ハンクもバックもソニーの死で涙を見せる場面はない。非常に保守的な土地柄もあり、白人の男は強くあるべきと考えており、自殺するような弱い人間は必要ないと考えているようである。しかし、息子を失ったダメージは後からじわじわやって来る。
同じくレティシアも「黒人の子供は太っちゃいけない」と言って、チョコレートを食べ続ける過食症で肥満体になる息子タイレルにきつく当たる。彼女もこうあるべき(あるいは、こうあってはならない)という姿を息子に押し付けている。そして、レティシアは夫を死刑によって失った上に、息子をひき逃げ事故で失ってしまう。ハンクとレティシアを同じ状況に置く意図は分かるが、次から次に登場人物がどんどん死んでいくのはやや気にはなる。
ハンクはレティシアの息子が轢かれた現場を通りかかって病院まで連れて行くがレティシアの息子は助からなかった。ハンクはレティシアに「なぜあの時助けてくれたの?」と聞かれると、「分からない」と答えている。目の前で息子に自殺されて失ったハンクが、目の前で息子を失いそうになっている女性を無意識的に助けたのだろう。もしソニーが自殺していなかったら、ハンクは黒人のレティシアを助けようともしなかったのではないかと思う。
彼らはともに息子を亡くすという共通点こそあるが、異なるのは親の存在の有無だろう。レティシアには親の描写こそないが、ハンクには家に父親がいる。その父親はハンクと同じく黒人差別をしている。また、ハンクが変わったことで、バックと態度が異なる存在になり、ここで初めて自殺したソニーの気持ちに気付くことができている。まさか40を過ぎたおじさんが、付き合っている女性が黒人だという理由で親と対立しなければならないなんて考えもしなかったことだろう。そんなバックをハンクは施設送りにしている。それはかつて自分が働いていた刑務所を思わせるところがあり、ハンクによるバックへの私刑にすら見える。
ちょっと気にかかるのは、レティシアはハンクを訪ねて家に入ると彼の父バックと出くわす場面だ。黒人差別のある場所であることは十分承知のレティシアが白人の家に勝手に入るというのはやや違和感がある。レティシアとバックを対面させるという意図があるのは分かるが、例えばレティシアが家の裏手に回って、家の軒先にいるバックと会うとかでも良かったとは思う。ただ、好意的に解釈するなら、レティシアが逃げもせずに正面口から入ってくるところに意味があるとは思う。
ラストで、レティシアは自分の夫の死刑執行をしたのがハンクだと気付く。レティシアの夫が死刑に相当する罪を犯したかまでは分かりかねるが、死刑判決が覆らない以上死刑は看守の手によって執行されてしまう。ハンクは確かに黒人差別主義者だし、この刑務所の囚人は黒人ばかりである。だから、憎い黒人を処刑できるからこの仕事に就いているとも取ることはできる。ただ、ハンクは職務として死刑を執行しているというのが客観的事実になる。レティシアはハンクの父バックの強烈な黒人差別を目にして絶望し、息子のハンクも同然だと感じている。ただ、ハンクはその父を施設送りにし変わり始めた。チョコレートアイスはいつかは溶ける。黒人差別もいつかきっとなくなる。共に息子を亡くした同士。前を向いてやっていかなければならないのだ。
時代の変化には犠牲が付き物である。保守の土地だからといって、周囲の環境が変わっているのにずっとそのままで良いとはやはり思えない。ハンクは良い年した大人になってようやく気付けた。何かに気付いて行動するのに遅すぎることなんてない。彼のせいで息子を自殺に追いやった事実は変えられない。ただ、同じ息子を失ったレティシアとまた新たな家庭を築いていけば良い。そんな小さな希望が持てそうなラストは悪くない。
21世紀という新たな時代の幕開けに、本作のような作品が作られたことには大きな意義を感じる。共に子供を失った同士が動物のように体を求め合うシーンは、当時アンジェリーナ・ジョリーと結婚していたビリー・ボブ・ソーントンを離婚に追い込む契機になったとも言われるくらいに強烈で生々しいものである。オスカーを受賞したハル・ベリーもさることながら、ビリー・ボブ・ソーントン、ヒース・レジャーらも好演していたと思う。
取り上げた作品の一覧はこちら
【配信関連】
<Amazon Prime Video>
言語
├オリジナル(英語)
【ソフト関連】
<DVD>
言語
├オリジナル(英語)
├日本語吹き替え
音声特典
├マーク・フォースター(監督)による音声解説
映像特典
├未公開映像
├メイキング
├インタビュー
├劇場予告編
├撮影現場映像