【作品#0288】陽はまた昇る(2002) | シネマーグチャンネル

【タイトル】

 

陽はまた昇る


【概要】

2002年の日本映画
上映時間は108分

【あらすじ】

1973年。日本ビクターの加賀谷は、不振にあえぐ横浜工場のビデオ事業部長に任命される。本部からは人員削減を要求されるが、家庭用ビデオの開発に手応えを感じて部下とともにその開発に着手する。

【スタッフ】

監督は佐々部清
音楽は大島ミチル
撮影は木村大作

【キャスト】

西田敏行(加賀谷静男)
渡辺謙(大久保修)
緒形直人(江口涼平)
真野響子(加賀谷圭子)
仲代達矢(松下幸之助)

【感想】

佐藤正明が発表したルポ「映像のメディア世紀」を元にした作品で、主人公の加賀谷はソニーのベータマックスとともに規格競争を繰り広げた日本ビクターのVHS開発の父と言われる高野鎮雄をモデルにしている。人物名は松下幸之助以外は仮名が使用されている。ちなみに、降旗康男監督作品などで助監督を務めてきた佐々部清の監督デビュー作となり、その降旗康男は居酒屋の客役で出演している。

本作は108分という上映時間だが、この短さにまとめる作品ではないだろう。あまりにも駆け足で、ダイジェストを見ている感覚である。3時間クラスの作品にするか、もしくは連続ドラマにすべき題材だろう。とてつもない苦労があったであろうことは察するが、主人公が情熱を口にすればすべてうまくいくように見えてしまう。

その一方で、そこまで手を広げなくても良いのではないかと思う場面もある。例えば、ソニーの研究員で江口と交際している柏木が登場する場面も何度かあるが、この程度の描写なら丸々カットで良いだろう。存在意義はまるで感じず、若い女性キャストが1人は必要だからという理由で登場しているようにさえ思える。さらには主人公の家族とのやり取りはそこそこの尺を取って描かれる。理解のある妻は病気になっても夫に何一つ文句を言わない。多感な時期を迎えた長男は、仕事ばかり優先する父のことをよく思っておらず、母が脳梗塞で倒れたのに仕事を優先する父を非難する場面があったのに、その仕事を終えてようやく病院にやってきた父に対して怒ることはない。そしていつの間にか長男は良い子になっている。家族の描写はどこまで実話に基づくものかは分かりかねるが、主人公に対して理解が良すぎる気もする。この程度の薄い描写になるなら家族との場面も丸々カットで良かったと思う。

あまりにも駆け足に進んでいくので、放ったらかしになったエピソードもちらほらある。主人公は横浜工場に来た時から人員削減についての話もあったのに、気付けばなかったことのように途中から話題に出てくることはない。序盤に母を亡くす従業員がおり、この従業員のためにも主人公は人員削減できないと思っているという描写だろうが、この登場人物は後に顔と名前が一致するほどの出番はなかった。主人公や社員の努力で人員削減の必要がなくなる展開になるわけでもなく、このエピソードだってなくて良かった。

結局、どうやってVHSが完成したかというと、当然社員が頑張ったからということになる。どういう問題があってどう乗り越えたかは基本的には描かれず、気付けばVHSは完成していたという感じで、主人公が工場へ来て完成を知るのと観客は同じ感覚を抱いたのではないだろうか。技術畑で生きてきた主人公が、事業部長という管理職のポストに就いたという設定もほとんど生かされておらず、技術畑だからこそできたこと、初の管理職ポストで苦労したこともあまり描かれない。特に開発の面々は何かに苦労したり、長時間の労働で疲れたりしているのは何となくわかるが、ただそれだけだ。

また、演出面で気になる箇所もある。まず、加賀谷は異動を命ぜられる場面で高卒であることは説明される。その後、横浜工場に赴任すると退職が決まった高卒から勤めてきた男たちと話す場面があり、そこで加賀谷は自身も高卒であることを言うのだが、この場面まで彼が高卒であることは伏せておくべきだと思う。また、終盤に加賀谷と大久保が思い立って松下幸之助に会いに行く場面がある。序盤に1シーンだけ松下幸之助が登場する場面があるのだが、こちらも終盤に登場するまで伏せておくべきだろう。誰が松下幸之助を演じるのかという興味を引っ張ることができるのに、序盤に出てきたら意味がない。

とにかく超特急で駆け抜ける、ビクターがVHSを開発して発売するまでの物語。いかなる苦労もとにかく気合で乗り越えましたという、いかにも昭和っぽい雰囲気の作品。それ以上のものはあまり伝わって来るものがなく、結局のところ役者頼みになっているし、そのキャスティングも無難と言う言葉がぴったりなくらいに意外性がない。加賀谷を主人公としない群集劇の方がまだ良かったと感じる。




取り上げた作品の一覧はこちら

 

 

 

【配信関連】

<Amazon Prime Video>

言語
├オリジナル(日本語)

 

【書籍関連】

<陽はまた昇る>

形式
├紙

├電子

出版社

├文春文庫

著者

├佐藤正明

長さ

├683ページ