【作品#0275】17歳の肖像(2009) | シネマーグチャンネル

【タイトル】

 

17歳の肖像(原題:An Education)

 

【概要】

 

2009年のイギリス映画

上映時間は100分

 

【あらすじ】

 

1961年のロンドン郊外。中流家庭の1人娘として育てられた16歳のジェニーは、親の保守的な教育に反発しながらもパリに憧れを持つ女子高生である。雨の降るある日、傘を忘れたジェニーに車で送ろうかと年上のデイヴィッドという男が声をかけてくる。

 

【スタッフ】

 

監督はロネ・シェルフィグ

脚本はニック・ホーンビィ

音楽はポール・イングリシュビィ

撮影はジョン・デ・ボーマン

 

【キャスト】

 

キャリー・マリガン(ジェニー・メラー)

ピーター・サースガード(デイヴィッド・ゴールドマン)

ドミニク・クーパー(ダニー)

ロザムンド・パイク(ヘレン)

エマ・トンプソン(校長)

アルフレッド・モリーナ(ジャック・メラー)

カーラ・シーモア(マージョリー・メラー)

オリヴィア・ウィリアムズ(スタッブズ)

サリー・ホーキンス(セイラ)

 

【感想】

 

イギリス人のジャーナリストであるリン・バーバーの自叙伝を映画化した作品。映画の原題は「An Education(教育)」というストレートなものである。弱冠22歳のキャリー・マリガンはアカデミー賞で主演女優賞にノミネートされ、本国の英国アカデミー賞では主演女優賞を受賞した。

 

本作では保守的な家庭(特に父親)と学校に対して、多感な高校生の時期を過ごすジェニーが、リベラルな大人と付き合うことで感化され、そして騙されて、何かに気付いていくという話になっている。物語としてはよくあるものだが、ジェニーが騙された後の尺(多分10分から15分程度)がどう考えても少なく感じる。高校を中退してまで結婚しようとしたのにその相手は既婚者だったなんてこんな恥ずかしい話はない。オクスフォード大学行が決まったのが事実だったとしても、この屈辱を克服するにはうまくいきすぎているようにも感じる。

 

ご存じのようにイギリスは階級社会であり、ジェニーの家庭は中流階級である。父親は保守的な「教育」をジェニーに押し付けるだけ押し付けておいて、自分より上の階級の人間が現れると何も言えなくなる。ジェニーへの「教育」にまるで何の信念もなかったかのようにデイヴィッドの言われるままになる。この父親が映画内に登場するのは基本的に家の中ばかりであることも面白い(家の外の場面は、家の玄関先とデイヴィッドの車の中くらいか)。演じたアルフレッド・モリーナの図体が大きいのでその空間内での狭さも閉塞感を演出していたと思う。結局、父親は「保守」がすべてでそれ以外の物を何も知らないのだ。ちなみに母親は娘とある程度同じ考えを持っているが、夫がいる手前本心は表に出せないでいるところが当時のイギリス家庭の姿だったのだろう。

 

また、学校では社会に出ても使える知識を教えてくれるわけではない。本作ではラテン語がその象徴として描かれ、ジェニーは憧れのパリで使われるフランス語を少し話すことができる。デイヴィッドらと付き合っていくうちに学校での勉強に身が入らなくなり、優等生だったジェニーの成績はどんどん落ちていく。校長先生から叱責を受けても、学校での教育を終えても卒業後にはそれが意味をなさず、教師や公務員になるくらいにしかならない現実を追及しても答えが返ってこないことに呆れてしまう。これは現代の日本の教育現場にも言えることだろう。学校教育を受けた者が学校以外の場所を知ることなく教師になったとしても、子供たちに社会についてどれだけ教えることができるだろうか(別に教員の方を批判している訳ではない)。この家庭や学校で感じる閉塞感は、おそらく1960年代のイギリスが抱えていた「英国病」も要因の一つと言えるだろう。

 

そんな家庭や学校という映像的な閉塞感に対し、デイヴィッドといる外の世界は割と広く見えるように描かれる。ただ、一度外の世界に飛び出すと、たとえ騙されてもその行動は自己責任になる。外の世界をほんの少し知ったくらいで良い気になって学校内でも良くも悪くも浮いた存在になり、頼まれてもいないのに旅先のパリで買った香水を担任にプレゼントする。オリヴィア・ウィリアムズが演じた担任は受け取りを拒否しているが本当は欲しいという感じが絶妙だった。

 

デイヴィッドの連れであるダニーとヘレンのカップルも良い味を出していた。オーランド・ブルームが降板したことで急遽ダニーを演じることになったドミニク・クーパーの何とも言えない色気。そしてジェニーからすると少し年上のお姉さんをロザムンド・パイクが好演。彼らもデイヴィッドの素性(既婚者であること)は知っていても、ジェニーには話さない辺りなかなか罪深い。ただ、彼らもデイヴィッドも基本的に悪気はなく、そういうものなのだと捉えているような冷たさも感じる。終盤にダニーはデイヴィッドと絶交すると言っていたが、ダニーらも大概の連中である。結局、何も知らない若者を外の世界に連れて行ってくれる存在って、ちょっと極端というか変わり者というかそうでもなければこんなことしないと思う。時代は違っても、普通は30代の男が女子高生と付き合って結婚するなんてありえないからね。

 

ジェニーにとってはとてもとても大きな経験となったデイヴィッドとの付き合い。受けたであろうダメージを考えると、やはり回復、克服するのが映画的にあまりにもあっさりしている。デイヴィッドと別れてからがモンタージュで処理されているが、もう少しじっくり描いても良かったとは思う。主演したキャリー・マリガン含め役者陣は概ね好印象。

 

【音声解説】

 

参加者

├ロネ・シェルフィグ(監督)

├キャリー・マリガン(ジェニー役)

├ピーター・サースガード(デイヴィッド役)

 

上記3名による対話形式の音声解説。若干の空白こそあるが、3人の関係の良さが伝わって来る。デンマーク出身のロネ・シェルフィグ、本作の舞台となるイギリス出身のキャリー・マリガン、アメリカ出身のピーター・サースガードというトリオなので、文化やアクセントの違いなどについても興味深い話をしてくれる。監督として納得のいかなかった箇所に対する俳優側の印象や、俳優が自身の演技に言及する箇所などの話も聞き応えがある。また、ピーター・サースガードは演じたデイヴィッドを比較的擁護しており、役作りで俳優がどこまでその役について考えているのかも垣間見ることができる。本作が気に入った人なら聞いてみてほしい。

 

 

 

取り上げた作品の一覧はこちら

 

 

 

【配信関連】

<Amazon Prime Video>

言語
├オリジナル(英語/フランス語)

 

【ソフト関連】

<DVD>

言語
├オリジナル(英語/フランス語)

├日本語吹き替え

音声特典

├ロネ・シェルフィグ(監督)、キャリー・マリガン(ジェニー役)、ピーター・サースガード(デイヴィッド役)による音声解説

映像特典

├製作の裏側
├ロサンゼルス・プレミアの様子
├未公開シーン集
├予告編集

 

<BD>

収録内容
├上記DVDと同様