【作品#0277】ベルファスト(2021) | シネマーグチャンネル

【タイトル】

 

ベルファスト(原題:Belfast)

 

【Podcast】

Podcastでは、作品の概要、感想などについて話しています。


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【概要】

 

2021年のイギリス/アイルランド合作映画

上映時間は98分

 

【あらすじ】

 

舞台は1969年の北アイルランドの都市ベルファスト。そこではカトリックとプロテスタントが対立し、次第に激しい暴動が起きるようになっており、少年バディの家族も巻き込まれていく。

 

【スタッフ】

 

監督/製作/脚本はケネス・ブラナー

音楽はヴァン・モリソン

撮影はハリス・ザンバーラウコス

 

【キャスト】

 

ジュード・ヒル(バディ)

カトリーナ・バルフ(マー)

ジェイミー・ドーナン(パー)

ジュディ・デンチ(グラニー)

キアラン・ハインズ(ポップ)

 

【感想】

 

俳優で監督のケネス・ブラナーが生まれ育ったベルファストを舞台にした半自伝的作品。音楽を担当したヴァン・モリソンもベルファスト出身の偉大なアーティストである。本作は大きな評価を得、アカデミー賞では、ケネス・ブラナー個人が本作でのノミネートで、アカデミー賞史上部門別最多となる通算7部門ノミネートを記録し、脚本賞の受賞で自身初のオスカーを受賞した。また、ジュディ・デンチは「タイタニック(1997)」でグロリア・スチュアートが助演女優賞に史上最高齢でノミネートされた記録に続く形となった。

 

ちなみに、舞台となるベルファストはイギリスとアイルランドの領土問題の中心地となる北アイルランドの州府である。カトリック国家のアイルランド島へ、プロテスタントのイギリス人が入植してから衝突が発生し、本作が描く1969年のベルファストはその衝突が激化した時期である。20世紀のうちに問題はある程度の収まりを見せたが完全に解決したわけではない。さらに、イギリスはEU離脱をすることになり、一時は税関がなくなったアイルランドと北アイルランドの国境だが、これにより税関が復活してしまうなど、新たな問題も生じることとなった。

 

本作を見て最初に思い出したのは、アルフォンソ・キュアロン監督の「ROMA/ローマ(2018)」である。アルフォンソ・キュアロン監督の育ったメキシコシティを舞台にし、時期は本作とほぼ同時期で、モノクロで映像化されたものであった。「ROMA/ローマ(2018)」の割とゆったりとしたリズムを考えると、本作は割とテンポよく進んでいき、上映時間も98分と比較的短めである。シーンとシーンを当時流行した味わい深い歌で繋いでいく。現在のベルファストを映すポップな始まりから、過去のベルファストに映り徐々にモノクロへ誘うオープニングも素晴らしい。

 

本作はベルファストがどのような場所なのかの説明は一切ない。ただ、本作は子供の目から見た大人、紛争を描いているので、ベルファストの事情を知らない日本人でも、本作の主人公が周囲で何が起こっているか分からないのと同じ体験ができるとも言えるだろう。その意味で本作は間口の広い作品と言える。

 

そして、その主人公となる子供バディは、映画が好きで、気になる女の子がいて、祖父母とも仲良くやっている普通の少年である。そういう子供らしさと、子供故の無茶、また子供故の無力さなどが良いバランスで描かれていると感じる。

 

本作でも一番印象深かったのは、バディが仲間に入りたいと思って入ったら暴動を起こす側だった場面である。こんな間抜けな話もないが、バディはその暴動の中で「環境に良いと思った」と言って家に洗剤を持って帰って来る。そんなバディを見て母親は暴動の真っ只中の店に入って洗剤を元の棚に戻すようにと叱責する。母親が暴動の最中でも親としての役割を果たすことを最優先にしている姿が頼もしく、演じたカトリーナ・バルフも見事だった。

 

結局、この家族は祖父を亡くし孤独になった祖母を残してベルファストを後にすることを選択する。戦争や紛争で故郷を離れざるを得なくなるのはこの上なく悲劇的なことだろう。そして母親が言っていたように、新たな土地に行ったとしても差別や迫害を受ける可能性がある。そしてまさに本作公開時にロシアによるウクライナ侵攻で同じ目に遭う人たちが大勢いる。「この地域に“サイド”などなかった」というセリフが登場する。本作ではキリスト教内での宗派の違いという意味合いになるが、一度線引きをしてしまうと“サイド”ができてしまう。それが原因で争いが絶えないことも、その争いが原因でその土地を離れる者がいるのも歴史である。主人公は好きな女の子も、好きな祖母もいるこの生まれ故郷を離れたくなかったが、そうせざるを得なかった。夫に先立たれてもう先が長くないであろう祖母のラストのセリフと眼差しは忘れ難きものがあり、出演時間は短いながらもジュディ・デンチは流石だと感じさせられた。

 

他者を理解することはとても難しい。本作では上辺だけで理解しようと試みる場面がちらほらある。例えば、名前だけで宗派を当てようとする場面が印象深い。人間って他者を本気で理解する気はほとんどない生き物なんだと感じる。聞きかじった噂程度で他人にレッテルを貼り攻撃する。自分の力で真実を確かめようとすることすらしない。カトリックかプロテスタントかだけで他者と区別し、殺したり傷つけたりする必要がないのに狂ったように暴れ出す。宗教と言う長い長い、本当に長い歴史を簡単に否定することはできないが、その存在自体が罪深きものではないかと改めて感じる。

 

この手の映画にしては感情に訴えかける場面も早めに済ませ、良くも悪くも淡泊な作品である。ただ、映画内に登場したメインキャラクターはきっちり描かれていた印象だし、語り甲斐のある作品であると感じる。イギリスのEU離脱による新たな問題、そして撮影時には起こっていなかったロシアによるウクライナ侵攻などを鑑みると、この時期に作られた意義は大いに感じる。

 

【関連作品】

 

「真昼の決闘(1952)」…1952年アメリカ製作の西部劇。本作の主人公がテレビで鑑賞している場面がある。

「リバティ・バランスを射った男(1962)」…1962年アメリカ製作の西部劇。本作の主人公がテレビで鑑賞している場面がある。

「チキ・チキ・バン・バン(1968)」…1968年アメリカ/イギリス合作のミュージカル映画。本作の主人公一家が映画館で鑑賞している場面がある。

 

 

 

取り上げた作品の一覧はこちら

 

 

 

【予告編】

 

 

【配信関連】

<Amazon Prime Video>

言語
├オリジナル(英語)

 

<Amazon Prime Video>

言語
├日本語吹き替え

 

【ソフト関連】

<BD>

言語
├オリジナル(英語)

├日本語吹き替え

音声特典

├ケネス・ブラナー(監督)による音声解説

映像特典

├もうひとつのエンディング(監督/脚本 ケネス・ブラナーによる音声解説付き)
├未公開シーン(監督/脚本 ケネス・ブラナーによる音声解説付き)
├メイキング
├みんなの子供時代