【作品#0230】捜索者(1956) | シネマーグチャンネル

【タイトル】

 

捜索者(原題:The Searchers)

 

【Podcast】

Podcastでは、作品の概要、感想などについて話しています。


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【概要】

 

1956年のアメリカ映画

上映時間は119分

 

【あらすじ】

 

南北戦争が終わって3年が経過した1868年のテキサス。南軍側の兵士として従軍したイーサンは戦後3年もしてようやく故郷に帰って来る。程なくして、近くの牧場から牛が盗まれてその奪還に向かうが、それが罠であると気付いて家に戻るとイーサンの弟夫婦はコマンチ族に虐殺され、2人の姪っ子はコマンチ族に連れ去られてしまった。イーサンは姪っ子を取り戻すべく、コマンチ族を追跡し始める。

 

【スタッフ】

 

監督はジョン・フォード

音楽はマックス・スタイナー

撮影はウィントン・C・ホック

 

【キャスト】

 

ジョン・ウェイン(イーサン)

ジェフリー・ハンター(マーティン)

ナタリー・ウッド(デビー)

ヴェラ・マイルズ(ローリー)

 

【感想】

 

公開当時はヒットもせず、評論家からも評価されなかった作品だが、後になって大きな評価を得ることになったジョン・フォード監督、ジョン・ウェイン主演による西部劇。ジョン・フォード監督の西部劇ではお馴染みのロケ地「モニュメント・バレー」を映すショットはとにかく美しい。

 

1950年代当時の西部劇においては「ネイティブアメリカン=悪者」という構図は当たり前で、1960年代後半からのカウンターカルチャーや、「ゴッドファーザー(1972)」でアカデミー賞主演男優賞を受賞したマーロン・ブランドが「ネイティブアメリカンの映画内での描かれ方が不当である」として受賞を拒否したことから徐々にそういった映画が作りづらくなり、西部劇自体も廃れていったという歴史がある。ただ、現在の物差しでこの当時の映画をすべてを批判すべきでもないだろう。確かにマーティンが不本意ながら結婚したネイティブアメリカンの女性を蹴飛ばす場面は不快だが、付いて来るネイティブアメリカンの女性をそのまま返すと彼女の顔が立たないとしてイーサンは招こうとする場面はある(これは彼女を帰すことでネイティブアメリカンに逆恨みされる可能性があるし、故郷に白人の婚約者がいてネイティブアメリカンの血を引くマーティンがネイティブアメリカンと結婚することを面白がっている可能性もあるが)。

 

ただ、死の描かれ方にははっきりとした差がある。罠に気付いて家に帰って来たイーサンがマーサの死体を発見する場面ではマーサの死体は描かれず、姪のルーシーが死んだことも後にイーサンが説明するだけでルーシーの死体は描かれなかった。一方で、岩の下に埋められたネイティブアメリカンや、マーティンが不本意ながら結婚したネイティブアメリカンの女性、チーフのスカーはすべて死体が画面内に映っていた。とはいえ、本作で一番強烈な場面は、ネイティブアメリカンに娶られた女性たちをイーサンとマーティンが目撃する場面だろう。彼女たちは明らかに普通ではない状態で、落ち着かなかったり、ずっとニコニコしていたりと、もし仮にデビーが生きていてもこんな風になっているかもしれないとイーサンが察する。この場面は誰かの死を描くよりよっぽど強烈なインパクトがあった。

 

そして本作の主人公はネイティブアメリカン(本作ではコマンチ族)へ差別的な偏見を持つイーサンという男である。冒頭にデビーが隠れに行ったお墓には、イーサンの母がコマンチ族によって殺されたことが記されており、イーサンがネイティブアメリカンに対して敵対していることは分かる。また、イーサンは南北戦争が終わって3年も経ってようやく故郷へ帰って来た。本作ではこの3年間イーサンが何をしていたのかは一切語られていないので推測することしかできないが、イーサンがネイティブアメリカンに風習や特徴に通じているのは、この間にネイティブアメリカンと戦っていたか、あるいは何かしらの交流があったからではないかと考えることはできる。映画の舞台となるのは、1868年のテキサスである。アメリカ連合国(南軍)の一員として戦ったテキサスだったが、南北戦争終結後、南部の州にいた奴隷たちは解放された。テキサスでは帰還兵がこれを受け入れることができず、各地で暴動や略奪を繰り返すなど戦後は落ち着かない状態が続いていた。そしてその被害はネイティブアメリカンの居留地にも波及している。

 

さらにその主人公を演じたのはジョン・ウェインである。彼は実生活ではタカ派の代表格のような存在で、映画界もその標的となった赤狩り時代においても、保守の立場を明確にする「アメリカの理想を守るための映画同盟」では4年間議長を務めたことのある人物だ。冷戦下における敵国ソ連に代表される共産主義を徹底的に排除する運動を進めたジョン・ウェインと、不本意ながら敵の手に落ちた姪っ子デビーですら殺そうとしてしまう狂信的なイーサンが重なるところがある。ではなぜイーサンはラストでデビーを殺さずにつれて帰ったのか。それはおそらく監督のジョン・フォードが赤狩りの活動をよく思っていなかったからであろう。ジョン・フォード監督は「静かなる男(1952)」で歴代最多となる4度目のアカデミー賞監督賞を受賞したが、ハリウッドにおける赤狩りの風潮を嫌って受賞拒否をしたことでも知られるのだ。ジョン・フォード監督自体も保守の人間だが、ジョン・ウェインの行き過ぎた活動をよく思っていなかったから、ラストで盟友ジョン・ウェインが自分の信念を覆さざるを得ないラストにしたのではないかと考える。

 

【音声解説】

 

参加者

├ピーター・ボグダノヴィッチ(ジョン・フォード監督のドキュメンタリーを撮った映画監督)

 

本作の監督ジョン・フォード、主演のジョン・ウェインとも生前交流があり、ジョン・フォード監督のドキュメンタリー「Directed by John Ford(1971)」(2006年に「映画の巨人 ジョン・フォード」として再編集された)を監督したピーター・ボグダノヴィッチによる音声解説。他のジョン・フォード監督作品と通じる特徴、当時と後の評価の違いなどについて物静かであるが語ってくれる。描かれるテーマや本作で語られぬ設定などについてはピーター・ボグダノヴィッチ監督なりのもっと踏み込んだ解釈や分析を聞きたかったというのが正直なところではある。また、映画の本筋とは関係ないが、ピーター・ボグダノヴィッチがジョン・フォードと打ち解けるきっかけになった本の話は面白かった。

 

 

 

取り上げた作品の一覧はこちら

 

 

 

【配信関連】

<Amazon Prime Video>

言語
├オリジナル(英語)

 

【ソフト関連】

<DVD(2枚組/スペシャル・エディション)>

言語
├オリジナル(英語)

音声特典

├ピーター・ボグダノヴィッチ(映画監督)による音声解説

映像特典

├イントロダクション
├オリジナル劇場予告編
├称賛の声
├メイキング
├ “撮影の裏側”より
├オリジナル予告編
├The Assassination of Jesse James by the Coward Robert Ford