すごく気になってる小説があります。
タイトルは「A Little Life」
作者はハニヤ・ヤナギハラ氏。
日系三世の父と韓国人の母を持つアメリカ人女性。
本作は2015年のブッカー賞最終候補にもなった話題作。
2020年頃からSNSなどで人気が広がりアメリカで250万部超えの大ヒット、各国で翻訳もされています。
残念ながら日本では未翻訳。今後翻訳出版される見込みも薄いです。
実写化でも決まれば可能性もありそうだけど…
作者さん自身がドラマ化されそうにない、と言ってるので難しそう。
Author Hanya Yanagihara on why ‘A LITTLE LIFE’ hasn’t been adapted into a miniseries:
— Film Updates (@FilmUpdates) 2025年3月12日
“No one wants to fund it!” pic.twitter.com/NdDiQqOyjj
それでもSNSではいまだに翻訳を望む日本人の声が多いです。
こうしてたびたび話題に上がるのも、舞台化などで作品の根強い人気が伝わってくるからですよね。
▼2023年に英ウエストエンドで舞台化
ただ、この小説が日本でなかなか翻訳されない理由も分かる気がするのです。
さきほどのXのポストにはたくさんの人が英語でコメントしているのですが、それを読むとギョッとします。
「私が今まで読んだ中で最も最悪な小説」とか「ドラマ化されなくて当然」とか「ただのトラウマポルノ」とか…
そうとう辛辣で悪意あるコメントが多い。
文学的評価は高く、舞台も連日満員の大成功だったはず。
それなのにこの温度差は一体なんでしょう。
賛否両論、好き嫌いが真っ二つに分かれる作品なの?
すっかりこの小説に興味がわいてしまったので、あらゆる英文レビュー、ネタバレ記事、唯一日本語で読める書評など読み漁ってみました。
そして納得しました。
▼ラストまでのあらすじと書評が読める
この小説、私のようなタイプの読者には、ある意味馴染み深いものです。
だけどまったく受け付けない、理解できない人たちが多いのも分かります。
「A Little Life」は幼い頃から性虐待を受け続けて心と身体に深い傷を負った青年を、親友が愛で救おうとする悲劇的で重いストーリーでした。
※以下ラストまでの要約につき注意
「才能豊かで美しく人々を魅了する弁護士の青年ジュードは友人たちにも恵まれているが、親の愛も知らずに育ち幼少期から壮絶な性虐待を受けた過去がある。大人になってからも性暴力に晒され続け、その心の傷は癒えず自傷行為を繰り返す。親友の一人ウィレムと恋人同士になるも幸せな未来は見えず、ラストは自ら命を断つ」
英語や韓国語のネタバレレビューで私が掴んだストーリーは大体こんな感じ。
なんだか「救いがないBL」みたいな印象を受けたのは私だけでしょうか。
言ってみれば懐かしの80〜90年代の小JUNEのテイストというか…
ジュードの容姿についても、美しいが幼少期に受けた虐待のせいで小柄で細身で儚げなイメージとなっています。
私世代の当ブログ読者さんなら「終わりのないラブソング」や「風と木の詩」「残酷な神が支配する」あたりの作品を思い浮かべるのでは。
「A Little Life」のレビューで多く見られる「性虐待の描写が執拗で辛い、読むのが苦しい」という感想もまさしく「残酷な…」に近いです。
そういえば「BANANA FISH」のアッシュも性暴力を受けていた設定でしたが、他にもこの界隈の古典作品にはいちいちタイトルを数え上げていたらキリがないほど「男性が性暴力を受ける」話が多い。
なので私たち、ハニヤ・ヤナギハラ氏のリトルライフのあらすじに一種の懐かしさを感じこそすれ、困惑したり憤ることはありません。
でも一般の人たちにはフィクションとして読むにはヘビーすぎるし、そもそも女性作家がゲイ男性主人公の小説をこんなにも長々と書き上げ、その大半が性暴力や自傷行為のシーンに割かれてることが理解できない。そしてその描写を延々と読まされることが非常に苦痛なようで、しまいには怒り出す人も多いということです。
(そういえば「終わソン」の二葉も何度も強姦されたり、あれこれ悲劇が繰り返し襲ってきて、いつまでたっても竜一との幸せは遠く絶望とどこにも行き場のない閉塞感で、まぁ読んでて長かった…あれをずっと読まされてた私たちならこの本も耐えられそうな気がします)
この小説については米大手新聞社のWEB書評もいくつか読みましたが、「女性作家」があえて「男性同士の恋愛」や「男性間の性暴力」を取り上げる特異性に触れているものはありませんでした。
大手ウェブサイトのレビューは文学的表現を賞賛する内容が全体的に多いイメージ。
私は小説自体読んでないのでなんとも言えないけど、ハニヤ・ヤナギハラ氏にYAOI的な感性があるというアプローチで探った方が、この小説はしっくりくるように思えます。
作者さんはインタビューで日本の文化や文学に興味があると語ったことがあり、来日もされているそう。
1974年生まれで年代的にはJUNE世代、アメリカ在住アメリカ人作家さんではありますが、さきほど上げたような日本の作品に触れた可能性もひょっとしたらあるかも…
とにかく日本にはこの小説を完全に理解できる土壌がありますので、出版社さんは怯まず恐れず、ぜひ翻訳出版してほしいです。
ちなみに、ハニヤ・ヤナギハラ氏の小説で、日本語翻訳され出版されているものが一つだけありました。
こちらは絶版なので、図書館で借りて読了しました。
【あらすじ】
引用 Amazon
「森の人々」は彼女の一作目です。
これが多くの新聞や雑誌で絶賛されて、一躍注目の作家さんとなったようです。
SFかファンタジーか。
なんとも不思議な小説でした。
ノートンという若い医師が主人公。
未開の島で、食べると不死になれるカメを発見しノーベル賞を受賞する。
しかしその島から引き取った養子たちに性的虐待をしていたとして起訴される、というあらすじです。
主人公の医師が、島に同行する人類学者と初めて対面するシーンがやけに印象的。
その人類学者は一目見た途端に心を奪われるような美しさで、主人公が衝撃を受けて動揺する様子がやたらドラマチックに描かれます。
ただ、この人類学者がここまでイケメンな必要あった?という感じで、主人公が彼に心奪われるわりにそこから二人にはっきりした展開もなく、物語の要素としてチグハグにも思える。
その他にも島の神話のストーリーに、男性の神様同士が結ばれて子を授かるなどの同性愛要素が出てきたり、島の儀式で男性同士の性行為があったりと、まるで昔のJUNEの前衛SFみたいな不思議テイスト。
でもだからこそ、この作家さんのもっとダイレクトに男性同士の感情にフォーカスしたものも読んでみたい、と思わされました。(で、それがたぶんリトルライフだと思うのですが)
「森の人々」は同性愛、成人男性による少年への性加害など、リトルライフと被る要素も多いです。
また、作者さんの未翻訳作品「To Paradise」も三部構成のうち、二作品がゲイ青年の恋愛要素を含むストーリー。
こちらもやはり、ラストに幸福が訪れるような明るいストーリーではないみたいです。
ハニヤ・ヤナギハラ氏の作品傾向は、日本のやおい、耽美と韓国の恨(ハン)の感性がミックスされたような雰囲気で、ものすごく興味深い。
翻訳されている韓国や中国が羨ましいです。
日本の出版社さん、リトルライフの日本語翻訳出版待っています!