結婚して4年目のある朝6時、早起きした私は本を持って朝風呂につかっていました。すると電話が鳴ります。こんな朝早くなんだろうとお風呂を出て電話に出ようとすると主人の「いいよ。僕が出るよ。」と言う声が聞こえ,私は不安な思いを残し、任せることにしました。
一分ほどして、主人がお風呂のドアをあけ、しゃがみこんで頭を抱えながら蒼白な顔で言いました。
「季里が死んだんだ。」
季里ちゃん。彼の唯一の兄妹。23歳の妹です。
「ママが起きてトイレに行ったらそこで季里が死んでたんだって。」
2人兄妹のうち、兄の主人は地元で優秀とされた中学高校一貫教育の学校にも受かり、また目鼻立ちのくっきりしたまつげの長いかわいい風貌もあって、両親には自慢の子供でしたが、季里ちゃんは、成績もよくなく美形ではなかったので何かにつけて駄目な子と決めつかられて育てられたようでした。
私という姉ができて、分け隔てなく心を開く家族が初めて出来たことを彼女はまっすぐに喜んでくれました。私の持ち物を欲しがり、プレゼントするともう宝物のように大喜びしてなによりも大切にし、親戚や友達たちに自慢して回るような健気な子でした。
その季里ちゃんが23歳で死ぬ。それもトイレの中で??そんなことって・・・!!。
とるもののとりあえず、私たちは実家へ向かいました。何が何だかわかりません。新幹線の中、憔悴する主人の手をずっと握っていました。私とてまだ20代後半。沢山の経験を踏んでいたわけではありません。それに私の実家はとても健康な家系でありがたいことにそれまで不幸と言えば、曽祖父の死しか知らなかったのです。
死因は「くも膜下出血」でした。でも更に痛ましい事実がわかりました。
彼女には愛する男性がいました。短大時代に出会い恋に落ちましたが、兄である主人が実家を離れ東京で私との生活をはじめたので、親を気遣い実家に戻ることを決めたとき、遠距離恋愛では彼を苦しめると、彼女から別れを決めたのです。でも好きでしたずっと。その彼が好きだった痩せている女性であり続けるために彼女は隠れて毎日寝る前に食べた食事をトイレで喉の指を突っ込んで吐いていたのです。
嘔吐による急激な血圧の上昇がくも膜下出血に繋がったのです。
健康に恵まれた家庭に育ち、不幸に触れたことのない私にとって、こんなことが起こるなど想像もできませんでした。そして悲しさに震える主人を見て、その悲しさの深さは決して私には理解できないもののはずだと痛感しました。
このとき、私の心の中に強い感情が生まれてきました。「絶対にこの人を守る!どんな不幸も私が受け止めるんだ。」
予感通り、主人の家族には次々と考えられないような不幸が続きました。そして私たち2人の間も不幸に向かっていきました。
私たちが原点に戻り自分が決めた約束を果たそうと考え直すことができた一つに彼にこれ以上不幸を味あわせたら私自身がきっと悔やむことになる。あの時私は彼を守ると決心したではないかという思いがありました。
亡くなった妹の前で、母が泣きながら言いました。「髪をきれいにしてあげて、季里は誰よりあなたを好きだったのだから・・・。」彼女が私の真似をして長く伸ばした髪を整えながら、こみ上げてきた悔しさ。この気持ちが自分勝手に彼と離れたいと思った気持ちを消してくれたように感じます。
ありがとう。季里ちゃん。あたしたちは幸せに生きてるよ。