こんにちは。
一万円選書5冊目はこちらの詩集です。



詩は好きですが、あまりいろいろな方のを読んだことがなくて、この長田弘さんの詩も今回はじめて読みました。




これは非常に良かったですね〜。
美辞麗句ではない実感を伴った、それでいて透明感のあることばの連なり。
光を含んだ秋の風に吹かれているような、そんな感じがしました。




掲載詩をひとつだけご紹介します。




「原っぱ」


    原っぱには、何もなかった。ブランコも、
遊動円木もなかった。ベンチもなかった。一
本の木もなかったから、木陰もなかった。激
しい雨がふると、そこにもここにも、おおき
な水溜まりができた。原っぱのへりは、いつ
もぼうぼうの草むらだった。
   きみがはじめてトカゲをみたのは、原っぱ
の草むらだ。はじめてカミキリムシをつかま
えたのも。きみは原っぱで、自転車に乗るこ
とをおぼえた。野球をおぼえた。はじめて口
惜し泣きした。春に、タンポポがいっせいに
空飛ぶのをみたのも、夏に、はじめてアンタ
レスという名の星をおぼえたのも、原っぱだ。
冬の風にはじめて大凧を揚げたのも。原っぱ
は、いまはもうなくなってしまった。
    原っぱには、何もなかったのだ。けれども、
誰のものでもなかった何もない原っぱには、
ほかのどこにもないものがあった。きみの自
由が。




どうですか?素敵でしょう?
改行も掲載されていた通りに引用いたしました。



この本は
「あのときかもしれない」
というおとなになった瞬間を掬い上げた連作詩と、引用させていただいた詩を含む
「おおきな木」
という章の二章からなっている散文詩集です。
どちらもとても良くて、こころの中に散らばっているいつか感じたことのある小さな気持ちに光を当ててもらったみたい。




詩のことばって、すっと胸に入ってきますね。
谷川俊太郎さんのもの以外は、ぽつんぽつんとしか読んだことがなかったんですけど、詩もいろいろ読んでみようかなあと思いました。