路線図や時刻表を眺めていると目に付きやすい平仮名、片仮名の駅名。

決してキラキラネームで付けたわけではない、そんな駅名が生まれた背景をちょっとだけ探ってみました。


・JR鹿児島本線 ししぶ駅(福岡県古賀市)

西日本にはJRグループでは数少ない片仮名駅名、平仮名駅名が多いですが、とりわけ珍しい片仮名駅名の一つ、スペースワールド駅からも近いこの「ししぶ駅」。

漢字で書くと「鹿部駅」になり、難読なうえ函館本線の「鹿部(しかべ)駅」と同字になってしまうので、平仮名表記にしたようです。


・平成筑豊鉄道 あかぢ駅(福岡県鞍手郡小竹町)

漢字で書くと「赤地」となり、同線にある「赤池(あかいけ)駅」と大変紛らわしいので、平仮名表記になりました。

赤池駅は平成筑豊鉄道に転換する前、国鉄時代の昭和12年開業なので、転換後の平成2年開業のあかぢ駅が譲る形になりました。

なお、読みに「ぢ」を使う駅は珍しく、他には予土線の「家地川(いえぢがわ)駅」があります。

「あかじ駅」とすると「赤字」を連想させて縁起が悪いということで「あかぢ駅」となったそうです。


・松浦鉄道 いのつき駅(長崎県佐世保市)

平成2年開業の新駅です。

漢字で書くと「猪調」となり、やはり難読になります。

同線には国鉄時代からある「調川(つきのかわ)駅」もあり、平仮名にすることで混同しにくくする狙いもあったのかも知れませんね。


・松浦鉄道 すえたちばな駅(長崎県佐世保市)

ここも平成2年開業の新駅です。

漢字で書くと「末橘」。

実際に駅名標には漢字表記も併記されているようですが、正式な表記は平仮名となっています。

新駅ということで、平仮名表記にして親しみやすくしたケースと言えます。

単純に漢字表記だと読みにくいというのもあると思われます。


・予讃線 みの駅(香川県三豊市)

元々は「高瀬大坊(たかせだいぼう)駅」といいました。

隣には「高瀬駅」もあります。

平成6年に当時の所在自治体だった三野町の要望で、町名を冠した駅名に改称しましたが、徳島県にも三野町という自治体があり、区別するため平仮名の「みの駅」としたとのことです。

古くは石北本線の仮乗降場にも「美野(みの)」というのがありましたが、両者が同時に存在していたことはありません。


・函館本線 ほしみ駅(札幌市手稲区)

JR北海道では唯一の平仮名のみの駅名です。

近くの「星観(ほしみ)橋」から命名され、星置地区を「星」のイメージで一体感を持たせる狙いがあったようです。

「星置」は「星観橋」が架かる星置川にもその名があり、アイヌ語地名に由来しますが、たまたま「星」の字が当てられた結果、こうした地域のイメージが根付くことになりました。


・札沼線 あいの里公園(札幌市北区)

元々は「釜谷臼(かまやうす)駅」といいましたが、あいの里教育大駅の開業とともに当駅も移転の上、改称されました。

あいの里というのはこの地域に新規開発されたニュータウンの名前で、「あい」は元々この地域に入植した徳島県の人たちの地元の特産であった染め物の「藍」に因んでいるそうです。


・井原鉄道 いずえ駅(岡山県井原市)

かつてはこの地に路線を有した軽便鉄道、井笠鉄道にあった駅名で、当時は漢字表記で「出部駅」としていました。

新路線の駅名としては堅く、また難読でもあるため、新線として開業した際には平仮名駅名となりました。


・東武鉄道 つきのわ駅(埼玉県比企郡滑川町)

平成14年開業の新しい駅です。

東武鉄道の公式HPによると「月輪」という地名は江戸期から村名であったほか、平安期の荘名にも見える、由緒正しい地名であり、周知度や響きの良さも勘案して命名したとのことです。

現在の住所では「月の輪」という表記ですが、駅名が平仮名になった経緯は不明です。

乗り入れ先である地下鉄有楽町線に「月島駅」があり、混同を避ける狙いもあったのでしょうか?

(乗り入れ絡みで混同を避けるために改称した例として、京急の「谷津坂駅」を、京成が「谷津遊園駅」を「谷津駅」に改称としたのと、能見台の住宅地の開発を契機に「能見台駅」に改称したケースや、北総開発鉄道が新規開通し同線に「白井駅」ができたことにより京成の「京成臼井駅」を行き先表示などでは「うすい」と平仮名表記にした(現在は「京成臼井」に戻されています)ケースなどがあります。なお京成臼井駅は国鉄上山田線に「臼井駅」があったために「京成」を冠しています。)


・湖西線 マキノ駅(滋賀県高島市)

昭和49年の開通に際して出来た駅で、当時の自治体名が「マキノ町」という片仮名表記であったので、それを踏襲しました。

マキノ町は、「マキノ高原スキー場」から取った町名で、観光で売り出していた当時の世相を表しています。

「マキノ町」は昭和30年に発足し、自治体としては初の片仮名地名でした(平仮名表記の自治体は昭和35年に「大湊田名部(おおみなとたなぶ)市」から改名した「むつ市」が初)。

マキノ町に合併する前の西庄村に漢字表記で「牧野」という地域があり、ここに位置するため「マキノ高原」となりました。


・石勝線 トマム駅(北海道勇払郡占冠村)

元々は「石勝高原(せきしょうこうげん)駅」を名乗り、「トマム」は隣の信号場の名称でした。

「石勝高原」という名前自体も観光開発に伴う造語でしたが、リゾート地として発展していく中で、国鉄民営化の2か月前にそれぞれ「トマム駅」「ホロカ信号場」に改称されました。

国鉄時代に付けられた片仮名駅名は当駅が最後で、「ニセコ駅」「マキノ駅」「トマム駅」の3駅だけとなりました。

この後、JRになって「オレンジタウン駅」「スペースワールド駅」など次々と片仮名駅名が誕生していきます。


・吉都線 えびの駅(宮崎県えびの市)

加久藤駅として開業、所在地としては昭和41年に3町合併により「えびの町」、昭和45年には市制施行し「えびの市」となりました。

飯野町、真幸町、加久藤町が対等合併した結果、えびの高原の「えびの町」を名乗るようになったものの、国鉄駅は飯野駅、上江駅、加久藤駅のまま残されました。

平成2年になってようやく市名を駅名に取り入れ、えびの飯野駅、えびの上江駅、えびの駅となりました。

加久藤駅はえびの市役所(えびの市大字栗下)と同じ大字にあり、市を代表する駅として市名を名乗るようになったものと思われます。

えびの高原をなす山塊の中には「蝦野岳」があり、「えびの」の名をあえて漢字表記するならば「蝦野」となりますが、既に平仮名の「えびの」の方が定着していますので、町名を平仮名にするのも尤もかと思われます。


他にも多数存在しますが、ほんの一部の例として、挙げてみました。

駅名は町の表札みたいなものでもあり、その命名には様々な思惑が働き、駆け引きの上で決められていく場合が多く、その歴史を覗いてみるのもまた地域の背景を知る上でその理解を深める一助となるように思います。