古い文献を調査していると、しばしば距離の表記がメートル法ではなく、マイル・チェーン法(哩鎖法)の時代のものに出くわします。


鉄道は創始期よりイギリスの影響を強く受けており、現在も鉄道会社名はアメリカ英語の「Railroad」ではなく、イギリス英語の「Railway」を用いるのが慣例となっています。

距離の表記に関しては、米英ともにマイルを用いるのが浸透していますが、日本の鉄道も草創期にはマイル・チェーンといった単位を用いていました。


より詳しく見てみますと、

・明治22(1889)年7月5日までは哩鎖輪(哩=M:マイル、鎖=C:チェーン、輪=L:リンク)

・明治35(1902)年11月11日までは哩鎖(マイル、チェーン)

・それ以降は哩程(マイルのみで、小数点以下第一桁まで表記)

で表記し、昭和5(1930)年4月1日にメートル法が施行されて現在の表記になりました。


マイル、チェーン、リンクといった距離は日本人には馴染みがない方も多いと思われますので、換算の仕方を示します。

なお、マイルは大文字のM、メートルは小文字のmで表記されるので、その点にご注意下さい。


1M=80C=8000L

1C=100L

このように、マイルとチェーンの関係が10進法から逸脱しており煩雑だったためか、末期はチェーンが廃止され、0.1マイル単位での表記に一本化されたものと思われます。

0.1M=8C

1C=1/80M=0.0125M


昭和5年に哩程法が廃止になった際には距離の表示もガラリと変わります。


1M=1.609344km(近似ではなく完全にイコールです)

1C=1/80M=20.1168m


たとえば開業当初の品川駅〜大森駅(大井町は未開業)は、2M57C95L(2マイル57チェーン95リンク)となっています。

これを換算してみましょう。

計算を簡単にするために、まずリンクをチェーンに直します。

95リンクは0.95チェーンなので、

2M57C95L=2M57.95Cです。

(ちなみに哩鎖輪から哩鎖へ改定された際には、品川駅〜大森駅の距離は2M58Cに改められています。

哩鎖輪から哩鎖への換算は、原則としてリンクの十の位を四捨五入していたようです。)


1M=80Cなので、57.95Cをマイルに直すには、80で割れば良く、

57.95C=0.724375M

すなわち、

2M57C95L=2.724375M

これはメートル法に直すと、1M=1.609344kmなので

2.724375M=4.38445656km

が厳密な値です。


実際には哩程法末期はチェーンもリンクも使われていないので、品川駅〜大森駅間は最終的に2.9M(途中で哩鎖法時代に大井町駅が開業し、哩程法に変更した際に品川〜大井町、大井町〜大森がそれぞれ1M39Cから1.5M、1M33Cから1.4Mに切り上げられたため数値が変わっています)でした。


現在では品川駅〜大森駅間は4.6kmですが、哩程法時代の2.9Mを計算に用いると、

2.9M×1.609344=4.6670976km

で、現在の営業キロの4.6kmに近い値になります。

より当時に忠実に換算すると、大井町が開業済みのため、

品川〜大井町が

1.5M=2.414016km≒2.4km

大井町〜大森が

1.4M=2.2530816km≒2.2km

で、品川〜大森は4.6kmとなるのです。

どうも、小数点以下第二位は四捨五入ではなく切り捨てになるようですね。

実際には哩鎖輪の時代から、しばしば移設を伴わない改キロ(という表現は適切ではないですが)がなされていたので、測量のし直しなどによっても変動してきたものと思われます。


まとめると、

1M=80C=8000L

1C=100L

1M=1.609344km=1609.344m

1C=20.1168m

これを覚えておけば、後は計算機で計算すれば良いというわけです。

しかし桁数が多いので、大雑把に、1Mは1.6km1Cは20mと思っておけばイメージは掴みやすいでしょう。



余談ですが、競馬などでは「マイル」とともに「ハロン」という単位をよく目にしますが、「ハロン」は「furlong」と綴り、単位としては「fur」と表記し、1furは10チェーン、つまり1/8マイル、したがって約200メートルです。

マイルも現代では「mi」と表記するのが一般的ですが、明治の日本の鉄道では大文字の「M」での表記をよく見かけます。

しかし現在ではキロ程などにおいてはキロメートルを大文字の「K」、メートルを大文字の「M」で表すことが多いです。

さらに余談ですが、面積の単位である「エーカー」もよく聞きますね。

1エーカーは1ハロン✕1チェーンの長方形の面積に相当し、約200m✕約20m=約4000㎡です。

さらに、100㎡は1a(アール)なので40a、

100aは1ha(ヘクタール)なので0.4ha、

つまり1エーカーは0.4ヘクタール、

逆に1ヘクタールはおよそ1/0.4=2.5エーカー

ということになります。

現代ではリンクやチェーンより、インチ(in)、フィート(ft)、ヤード(yd)の方がよく用いられますが、日本の鉄道史ではインチやフィートが車両やコンテナの規格などに出てくることがある程度で、個々にメートル法の単位の近似値を取ることが多いので計算は割愛しますが、

1チェーン=792in=66ft=22yd

と換算されるそうです。

つまり、1yd=3ft、1ft=12inということですね。



今回は古い文献に出てきては私の頭を悩ませる距離の単位のお話でした。

要するに私自身のための覚え書きのような記事なのです。

お目汚し、失礼致しました。