桜の開花はまだかいな、と待ち遠しい人も多いのでは‥
私の地元、通勤路で毎日通るところに桜の名所があります。
元々、市内の中心地を通っていた川を付け替えた、その堤防。
川は天井川で、豪雨台風で氾濫の危惧もあり、堤防補強の為に沢山の桜が植樹されました。
ご存じの通り、桜は根張りが強く、また花見の人で土が踏み固められ、堤防の補強となります。
その桜の名所ですが、未だに開花してはいませんが、ぼんぼりがずらっと並び、露店も並んでいます。
昼間に通ると多くの人で賑わっています。気の早いことですが、それほど日本人は桜が大好き!
桜の開花といえばソメイヨシノが標本木ですが、沖縄は気温が高すぎてソメイヨシノが根付かず「カンヒザクラ」が。
北海道は気温が低いので「エゾヤマザクラ」が使われます(但し、本州に近いところではソメイヨシノ)。
九州は温暖で桜には良い環境だと思われますが、絶滅に瀕している樹種が結構あります。
本州のブナ林では最も普通な桜といえるカスミザクラとオオヤマザクラは、九州では数カ所にごくわずかにしか自生しておらず、しかも両種とも2000年前後に自生地が見つかった相当な希少種です。
同様に、クマがよく食べるミヤマザクラも絶滅危惧種に指定する県が多いし、本州でも個体数が少なめのキンキマメザクラやチヨウジザクラも九州ではやはり絶滅に瀕している。
「葉っぱはなぜこんな形なのか」 林将之/講談社 より
近年、クマの被害が相次いで発生している。植えていた果実、農作物、はては人を襲って怪我をさせたり、命を奪うという重大な事案も多い。
クマの捕殺数は、2014年までの10年間で約2万9千頭であったが、昨年令和5年は9千頭、令和4年は3千7百頭、令和3年は4千2百頭、令和2年が6千9百頭‥と年平均5千頭と増加している。
これだけクマの捕殺数が増えたのは、山中にクマの食料が減ったせいだ、などと言われるが果たしてそうだろうか?
環境省は、クマの生息総数は約1万5千頭と推定しているが、それならばクマはとっくに絶滅しているか、絶滅危惧種になっているだろう。
ある研究で、東京都の奥多摩に生えている桜の実を、どんな動物がどれだけ食べているか調べたそうだ。
すると、動物が食べた実のうち、約45パーセントをクマが食べ、約25パーセントをヒヨドリなどの鳥が食べ、約10パーセントをアナグマ、同じく10パーセントをサル、残りの10パーセントをテンなどその他の動物が食べたという。
それぞれの動物がタネを運ぶ距離(散布距離、つまりタネを含む糞をした距離)は、アナグマは100~150メートル、サルは100~600メートルぐらいが多く、最大1キロ余り運ぶといわれる。
さらにテンは、普通500~1000メートル、最大で5キロ前後運ぶという。
ヒヨドリなどの鳥はさぞかし遠くにタネを運んでくれると思いきや、意外に概ね300メートル以内といわれ、食べた木のすぐ下に糞が落とされることも多い。
鳥は空を飛ぶために少しでも体を軽くする必要があり、食べてから糞をするまでの体内滞留時間は10~30分前後しかなく、タネを運ぶ距離は概してほ乳類より短いことがわかっている。
ヒヨドリの観察例だと、6分で排泄されることもあるというから驚きだ。
では、最も多くの実を食べたクマはどうかというと、体内滞留時間は人間と同等の平均18〜20時間で、タネを運ぶ距離は平均で1キロ前後、最大で22キロ以上にもなるといわれる。
さらに、垂直方向の散布距離を調べた研究では、クマは平均約300メートル、最高で700メートル以上も標高が高い場所にタネを運んだという(テンは平均約200メートル)。これは、春に山麓からサクラが開花するのと同様に、初夏には山麓から果実が熟し、次第に山頂に向かって熟していくのに合わせて、クマも山を登るためと考えられている。つまり、体が大きくて移動距離も長いクマは、他の野生動物以上に遠い場所に、重力にも逆らってタネを運ぶ、貴重な撒布者である可能性がわかってきたのだ。
なお、クマは一日5〜6回糞をするといわれ、巨大な糞には何百個ものタネが含まれる。その糞にはネズミが集まり、タネをさらに運ぶ(食用・貯蔵用にする)こともあれば、センチコガネなどの糞虫も何種類も集まり、糞ごと地中に引きずりこむこともある。
そのような過程を経て、タネが拡散し、次世代のサクラが発芽していくのだろう。
「葉っぱはなぜこんな形なのか」 林将之/講談社 より
2012年、環境相は九州のクマが絶滅したと発表しました。
先に掲載した通り、九州では多くの桜が絶滅の危機に瀕しています。
桜の減少とクマの絶滅についての相関関係は、これから研究が進むことでしょうが、何事も「極端」であってはバランスが崩れるということでしょう。
自然のありよう、生態系というものは微妙なバランスの上に成り立っている(アメリカのイエローストーン国立公園のオオカミの例が面白いです。オオカミの再導入で同公園の自然が回復したというもの)ということは間違いありません。
クマが生態系に及ぼす影響は種子撒布以外にもある。
クマが木に登って果実を食べる際には多数の枝を折って、樹上に重ね合わせる「熊棚」。
大量の枝が折られることで「林冠ギャップ」と呼ばれる穴が森の天井に空き、林内に日光が差し込むことになり、陽地を好む植物が良く育つようになる。
林冠ギャップは、自然界では強風、落雷、大雨による倒木や幹折れ、枯死などで発生し、動植物の多様性を高める重要な「攪乱」として知られている。
ツキノワグマは、木の幹の皮をはぐ「クマはぎ」と呼ばれる行為を行うことがある。
樹皮をはいで内部の形成層の樹液を食べるのであるが、クマはぎのターゲットとなるのは大抵針葉樹で、特に植林されたスギやヒノキに多い。樹皮をはがされたものが幹の全周になるとその木は枯れてしまう。
これは「巻き枯らし」と呼ばれる、冠状に樹皮をはぐ間伐手法にそっくりである。
クマはぎが全周に及ばず幹の一部だけになると、樹皮がはがされた部分が樹洞(じゅどう・うろ)になることが多い。
そうした樹洞にはニホンミツバチの巣がしばしばできる。
もしかしたら、クマは好物のハチミツを食べるためにニホンミツバチの巣を作らせているのかもしれない。
いずれにしても、ニホンミツバチにとっては有り難いことである。
人と自然(クマも含めて)の共生というのは難しいテーマです。人と人でさえ共生できない私たちに突きつけられた難題なのでしょう。
ちなみに、桜の葉には抗菌作用を持つ物質があり、適度な香りもある(女性が特に敏感らしいですよ)ために、桜餅に使われるのはそのためです(桜餅に使われるのはオオシマザクラの若葉)。
その物質を「クマリン」といいます、可愛い名前ですね。