世にも不思議な物語

世にも不思議な物語

湧き出るアイデアの映像を、小説に。
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バットマン:ブラックグローブ (ShoPro Books)/グラント・モリソン

¥2,808
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グランド・モリソンによるバットマンサーガ。

この作品では、50年代のバットマンのエピソードを換骨奪胎して、現代の物語に消化している。
当時のバットマンは、今のダークナイトとしてのシリアス且つハードな作風とは一線を画し、明るく楽しい健全な空気に支配され、単純な勧善懲悪と少々ギャグタッチなチープさが漂うものだった。

いわゆる「黒歴史」そのものだ。だが、モリソンはその黒歴史から、いくつかのエピソードをとりだし、自分が紡ぐ新時代のバットマンサーガを作りだしたのだ

「これまでのバットマンのエピソードは、一人の男が経験した一つの人生の一幕」

モリソンはそう解釈する事で、バタ臭い三流ヒーローの同盟を「孤島で起こる殺人事件のキャスト」に再利用し、バットマイトと言う五次元世界の妖精を「自身を客観視するかのように話しかける人格の一つ」と言うように、上手い具合にアレンジを加えた。

長いシリーズになると、新しいエピソードを作るのが次第に困難になる。類似する作品と言うのが増えていくからだ。しかし、歴史を振り返れば、名作とはお世辞にも呼べない、忘れ去られたエピソードがたくさんあり、そこには魅力の欠片が散らばっているのも事実。そういうものに目を向ける事も、創作には必要な事なのだろう。


サザエさんはその最たるものか・・・
グリーンランタン:リバース/ジェフ・ジョーンズ

¥3,564
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初心者向けのアメコミの一冊とも言われるこの作品。確かに、事前の知識はほとんど必要ないし、絵も癖がないので、読みやすいが、それ以上に主人公や世界観に魅力がある。


主人公は、ハル・ジョーダン。「恐れを知らぬ男」「最高のグリーンランタン」と評されながらもま堂に堕ち、世界を歴史ごと変えようとしたり、かと思えば、失われた太陽を再点火しテ太陽系を救ったり、地獄から魂を召喚され、救済の精霊として転生したりと、なかなか慌ただしい人生を送っている。
これも、人気のテコ入れとして「スーパーマンの死」「バットマンの引退と復活」に並ぶイベントのせいなのだが、かつてのヒーローにそこまで悪堕ちさせるのも、アメコミならでは。

今回、ハルは十年ぶりにヒーローに帰還する。彼がどんな人物だったのかは、彼の昔の姿を知る友人の言葉でよくわかるし、彼の帰還を唯一快く思わないバットマンの言動で、悪堕ちしたハルがどれだけの事をしでかしたのか、その罪の重さもわかる(ただ、この時期のバットマンは人間不信モード)。

物語は、ハルが悪堕ちした際の名であるパララックスと言う存在が戻ってくると言う不気味なメッセージとともに始まる。同時に、ハルの身の回りに不思議な現象が起こり始め、ジャスティスリーグやグリーンランタンのメンバーは警戒を強める。
そして、衝撃の事実が明らかになる。パララックスは本来、知的生命体の恐怖と言うものに寄生する存在で、遠い昔に封印されたはずだったが、自ら復活するために、強い意志を持つ知的生命体を探し求め、ハルに寄生したのだと言う。心の奥底に芽生えた小さな不安や恐怖は次第に理性を蝕み、凶行に走らせてしまうのだが、だれしもが思ったように、その時点で彼はもうハル・ジョーダンではなくパララックスになってしまっていたのだ。
隠して、ハルは自分の名誉を取り戻すため、傷つけられた誇りをもう一度手にするため、再びハル・ジョーダン=グリーンランタンとして現世に舞い戻る。


一度地にまみれた男が、細かい理由は抜きにして、己の誇りをかけてもう一度立ち上がる。熱いぜ!
一度は裏切られながらも、それでもずっと友の潔白を信じつづける友たち。熱いぜ!
かつての罪は消えるわけではないが、「今はまだいい」と帰還を認めるひねくれ者。熱いぜ!


とにかくこの熱さは、日本の少年漫画に通じるものがある。その上、「ぐらいんランタン」と言う作品が持つ設定も、日本に大変馴染みがあるものなのだ。
・広大な宇宙をセクションごとに守護する警察機構
・武器は、意思の力を具現化するパワーリング
・24時間ごとの充電や黄色の物体には無効
・敵はかつての師
どこかで聞いたような設定が、盛りだくさんだ。絵も、鮮やかな緑と黄色がページ一杯に描かれ、カラフルな戦いを見せてくれる。まるでどこぞの宇宙警備隊や宇宙刑事を見ているようだ。


映画は壮絶に失敗したのだが、もう少し知名度が上がってもいいヒーローだ。
一年近くにわたって連載され、この後の展開に大きく影響を及ぼすこのシリーズ。最後の最後まで黒幕がわからず、登場人物がすべてコマとして動かされる展開で、ミステリーの体裁を持っているのだが、それ以上にこの作品では、バットマンとキャットウーマンの関係に一つの結論がでてしまう。


バットマンは、決して犯罪者を許さないし逃さない。そのため、妥協のない姿勢が時には仲間にすら溝を作ってしまう。仲間がそれでも離れていかないのは、放っておけないという感情が彼らにあるからだ。
キャットウーマンは、誰かに束縛される生き方を嫌う。どう生きるかは、自分の意思で決めるし、どんな結果であっても責任は持つから自由でいられる。

ダークナイトと泥棒猫は、互いの生き方を曲げられない。曲げたら、人生を否定することになるから。だから、二人は最も近く、最も遠い関係に終わってしまう。そして、別々の道を行き始める二人は、ここがターニングポイントになっていく。


バットマンはこの事件の後、周囲がきな臭い雰囲気になっていく。ジャスティスリーグ内で起こった事件により、ヒーロー達を信じられなくなって監視態勢を強めたり、自身の最大の罪と考える二代目ロビン・ジェイソンの死と向き合う事になる。その後も、突然現れる実の息子のダミアンの登場や、自身の死(?)など、毎年のように面倒な事が発生する。
キャットウーマンも、盗人稼業にずぶずぶになった挙句にブラックマスクを報復で殺害したり、父親が不明の娘を産んだり、安息とはほど遠い生活を続ける。

それでも、それは彼らが自分の意思で選んだ人生なのだ。それに、万が一二人が結ばれたとしても、穏やかな日にはならないだろう。二人が結ばれる世界であるアース2で、彼らの間に生まれた娘ヘレナは、リランチによって昔の設定で復活し、ハントレスとなるのだから。

バットマン:ハッシュ 完全版/ジェフ・ローブ

¥3,888
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フラッシュポイントの世界におけるサイドストーリーのフラッシュ編





リバースフラッシュの場合

この人も、フラッシュ大好きな訳なのだが、ローグスと違うのは、元々がひねくれすぎて、好きが病的になり、殺意を抱いたストーカーに発展したこと。諸事情でフラッシュを殺せないジレンマを解消すべく、子供の頃のバリーに嫌がらせしたり、友達を殺しちゃって孤立させたり、あげくの果てにバリーの母親を殺して一家を滅茶苦茶にし、フラッシュポイントの布石を打つなど、完璧にいかれている。しかも、スペックが上位互換になるなど、手のつけようがない。



フラッシュがいないと、ローグスはどうなる?

精神を病み、殺しあいます。

薬と女子供には手を出さず、フラッシュを殺してはならないと言う掟があるこのフラッシュファンクラブ。情熱とエネルギーを向ける場がなくなれば、そこにいるのはただのゴロツキ。フラッシュは、彼らにとっては部活動そのものだと言うことを、陰惨なストーリーで知らしめてくれる。





しゃべるゴリラの生き甲斐

それは、己に障害となって立ちはだかる存在。ゴリラの身体能力に、人類に匹敵する知能。無敵である。実際、圧倒的な力でアフリカを支配する。グロッドの心は満たされない。グラディエーターのような果たし合いを設定しても、誰も自分と戦わない。暗殺に来たのは子供だけで、あっさり洗脳して殺し遇わせて撃退する。成長して、俺を殺しにこいと一人だけ逃がすなど、自分の心の空虚を満たそうと必死なのだが、そもそも、自分が何を求めているのかすら定かでない。やがて、大西洋でのアトランティスとセミッシラの最終決戦に参戦することを決意するが、それすら意味を理解していないのだ。無理もない。彼が求める存在はこの世界にはいないことになっているフラッシュなのだから。





キッドフラッシュはどこへ?

バートが目覚めたのは、ブレイニアックに支配された未来。彼は未来で生まれたバリーの孫。しかし、未来はこんな世界ではない。さらに、スピードフォースを失うなど、状況はさっぱりつかめない。そこへ、コズミックモトサイクルに乗ったバリーの同僚のパティと合流し、ここが改編されてしまった世界だと知る。バートは、何とかして事態を打開すべく、スピードフォースの流れに乗り、フラッシュポイントと言う狂った世界の歴史、運命を狂わされたスピードスターの仲間を追い、世界を救う力をもつバリーを探す。そして、バリーの力となるべく、スピードフォースをと一体化する。





駆け足だった本編を補完するものもあるのだが、邦訳されることはないだろう。

Flashpoint: The World of Flashpoint Featuring T.../Sean Ryan

¥2,003
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一大クロスオーバーであるフラッシュポイントの前日譚であり、旧ユニバース最後の物語であるこのエピソード。

フラッシュは世界最速の男。しかし、正体であるバリーアレンの仕事は監察官。つまり、バリーもフラッシュも、事件が起こってからではないと動けない。そのジレンマがじわじわとバリーの心に影を落としていく。

フラッシュ一家は、とにかく幸せだ。それぞれ家庭を築き、ヒーローとしても助け合う。このエピソードでも、みんなでピクニックに出かけるのだが、バリーは殺人事件にかかりきりですっぽかしてしまう。この事が原因で、孫のバートともギスギスしたものが生まれる。

でも、みんなバリーの事が大好きなのだ。歴代フラッシュがバリーに対する率直な思いを告げ、妻のアイリスも「あなたは立ち止まらるべき」と、世界最速の男の悩みを理解した上での忠告をする。


しかし、バリは皆の気持ちをわかってはいるものの、防げなかった過去の事件、宿敵であるリバースフラッシュによって行われた母殺しの事件への思いがいまだに整理をつけられずにいる。さらにそのリバースフラッシュが脱獄し、新たな力を得てバリーを挑発してくる事で、とうとうバリーは心の中である決断をする。

「明日は母さんの誕生日。だから、明日一日だけ時間が欲しい。そうしたら、少しずつでも変われるかもしれない」

バリーはアイリスにそう約束し、母の誕生日、その墓前に花を供えるのと同時に姿を消す。

しかし、約束した『明日一日』は永遠に来ることはなかった。バリーのささやかな、そして切実な願いは、多大な犠牲を持って実現してしまう。約束も果たせぬまま。


リブートを控え、このころのDCはヒーロー達が自分と向き合う傾向の作風が強くなっている。スーパーマンは徒歩でアメリカを横断し、アメリカと言う価値観と向き合う。ワンダーウーマンは、自身の生き方の様々な可能性と向き合いながら『ワンダーウーマン』と言うアイデンティティを探す長い旅に出る。バットマンは、一種の死を体験する事でもう一度自分の原点を見つめ、何でも一人でやろうとしてきた姿勢を改め、意思を託せるものを探し、ファミリーとの関係も少しずつ修復する。

フラッシュは、犯罪から人を守りたい。でも、動けるの悲劇が起った時。その矛盾に対する悩みが爆発した時、純粋な願いは狂った世界と言う最悪な形で実現してしまうのだ。リブート後の世界を読んだ後にこれを読むと、バリーとアイリスの最後の会話がたまらなく切ない。The Flash Vol. 2: The Road to Flashpoint (Flash.../DC Comics

¥価格不明
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バットマン:アーカム・アサイラム 完全版 (ShoPro Books)/小学館集英社プロダクション

¥2,730
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バットマン史上、最大の問題作と言われる作品。


この作品でのバットマンは、非常に脆く弱い。自身の心の奥底に潜む狂気に恐怖し、自分の弱さの正体を知らないことに不安を覚える。そして、精神鑑定を受けることによって、その根源が母親の記憶、政婚から来るものだとえぐりだされ、犯罪者専用の精神病棟のアーカムアサイラムの中を、狂人たちに追われながらさ迷い歩く。


一方、ジョーカーはまさにホームグラウンドと言わんばかりに絶好調で、最初から最後まで主導権を握り、バットマンを精神的に追いつめる。ジョーカーは狂い過ぎ、外部のあらゆる情報を受信し、毎日人格を変えると言う、狂気が一周回って最もまともな人格とまで評されるほど、イカれている。挙句の果てに、性的な嫌悪感を抱かせる上、時系列的にロビンをジョーカーに殺されたばかりのバットマンに、『あいつ、元気にしてる?』みたいなことを平気で言うなど、表紙を見てもわかるように、狂っているとはこういう事だと言わんばかりの言動を繰り返す。


80年代のバットマンは、試練の時を迎えている。突然ジャスティスリーグを脱退する。ヒーローの晩年を描いた『ダークナイトリターンズ』では、強迫観念にとらわれた高潔なクライムファイターと言う側面を確立し、スーパーマンと激突する。オリジンもまた、この時期に新たに作り直され、『イヤーワン』が発表される。
試練は、仲間にも及ぶ。紆余曲折を経て、ロビンはナイトウイングとしてバットマンの元から去り、ヒーローとして完全に自立する。その後、ストリートチルドレンのジェイソン・ドットが二代目ロビンを襲名する。だが、犯罪の内容がえぐくなっていったジョーカーの手にかかり、バット-うマン=バーバラ・ゴードンはジョーカーによって下半身不随にされ、前線から去ることになる。そして、最悪の事件である『デスインザファミリー』で、ジョーカーの手により、二代目ロビンはバールで滅多打ちにされた揚句に爆殺されると言う、悲惨極まりない最期を迎え、バットマンの心に深い傷を与え、三代目となるティム・ドレイクが現れるまで荒れてしまう。

この作品は、そんな試練続きの作品が続く時期の最後に発表されたものである。ヒーローとしての側面を破壊し、危険な犯罪者すれすれのクライムファイターとなり、その心に潜む狂気と弱さと向き合い、それらを飲み込んだ事で、バットマンは再びヒーローとして復活することになる。的に勝利するためならば、ひたすら狡猾にあざとい手を使い、誰も信用しない。それでも、その心の奥底に眠る弱さと高潔な願いを併せ持つダークナイト。この作品は、存在意義を問い直されたバットマンがヒーローに返り咲くための最後の通過儀礼である。
スーパーマン:アースワン (ShoPro Books)/J・マイケル・ストラジンスキー

¥2,100
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マンオブスティールのベースとなった作品。

弾丸より速くを飛び、銃弾を弾く鋼鉄の体を持つ男・スーパーマン。しかし、彼がスーパーマンになるまで、一体どうやって生きて、なぜこの生き方をしなければならなかったのか?

スーパーマンのオリジンは、クリプトンの難民が地球で超人となり、悪と戦うと言う骨格が基本。問題は肉付であり、スーパーマンになるまでどういう生き方をしていたのかと言う点が、彼の人格を決定する。旧シリーズやヤングスーパーマンでこの辺りは描かれているが、アースワンではさらに深く踏み込んでいる。

超人的な力を使えば、どんな生き方も出来たはずである。スーパーコンピューター並みの頭脳を生かせば、ビジネスも成功できたはず。でも、彼は地味で平凡なクラーク・ケントの生き方をしてきた。それは何故なのかと言う事を、現代を舞台に考察していく作品ともいえる。

映画でも描かれるのだが、どういう生き方をするかは彼の自由なのだが、周りが超人や宇宙人を受け入れるか、そっちが重要なのである。受け入れられないのがわかっているから、力を隠す生き方を選ばざるを得ない。しかし、その力を必要とされ行使した時、自分の大切な人はどうなるのか、そこにも責任を持たなければならない。義父から力を使うなと命がけで戒められたのは、人類は異星人であるお前の力をまだ必要としていないから、人として助けられない命がある事を受け入れろと言う事だったのだろう。
アイデンティティを見つけた時と同じタイミングで気が来た事で、超人としての力と存在を求められた事で、ようやく本当の自分を世にさらけ出す事が出来たのだ。

自分の生き方は自分で決める。しかし、そこには周囲の思惑もからむし、それを受け止めなければならない。移民国家であるアメリカ人が創造した、『滅亡した惑星の難民が救世主』と言うヒーローであるスーパーマンの根本が、決してボリュームのある本ではないが見えてくる。
バットマン:ノエル/小学館集英社プロダクション

¥1,890
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風変わり。この本を一言で言い表すならこうだろう。

バットマンは、基本的に犯罪をテーマにした作品なので、どこか冷たい雰囲気が漂う。しかし、この本のベースはなんとクリスマスキャロル。イラストも絵本調。クリスマスを舞台に、バットマンが体験する不思議な物語である。


この作品のバットマンは、人間の屑と言っていいだろう。両親を強盗に殺されたことをきっかけに、ゴッサムシティの犯罪を一掃しようと活動を始めたはずなのに、いつの間にか目の前の事にとらわれ過ぎ、やることが一線を超え始め、危険な域に達している。

生活に困り、やむを得ずジョーカーの運び屋をやらされる気弱な男も、バットマンは決して容赦しない。『人間の屑』と罵り(どっちがだよと、この時点で思う)、生活に困窮している事情も一切考慮せず、挙句の果てに貧しい父子家庭をジョーカーの餌にしてしまう。
犯罪者を取り締まることに腐心するあまり、犯罪被害者の事を忘れているのだ。アルフレッドも、さすがにこれには一言口をはさむが、一切耳に入れない。

寒さにやられたか、肺炎を起こしかける状態になり、意識が朦朧としたところにある精霊が訪問する。それは、死んだはずの相棒・ロビン(死んでいると言う事は、二代目であるジェイソン)。このまま生きる姿勢を改めなければ、悲惨な人生が待っていると忠告する。幻とは言い難い体験に不安を覚えるバットマン。さらに、ロビンは自分以外に三人の訪問者が現れると言う。その間に、生き方を変えなければならない。時間はないとロビンは警告する。

第一の訪問者は、バットマンに過去を見つめさせる役目を負ったキャットウーマン。余裕をなくし、異常犯罪者ばかり血眼になって追う姿を、『昔は違った。世界の果てまで私の事を追いかけてくれた。でも、今のあなたは変わってしまった』と、どこかがっかりした様子で言う。ここで言う昔と言うのは、現在のダークナイトとしてのバットマンではなく、バカ騒ぎをしてコミカルなことを繰り広げていた時代のバットマンの事。殺伐とした今のバットマンとは違う時代があったことを、読者にも思い出させているのだ。
第二の訪問者はスーパーマン。いつもは、バットマンに現実を突きつけられて受身に回ることが多いが、この作品の彼はまさに聖人。空の上にバットマンを連れていき、街の灯のもとでは、ささやかな幸せをかみしめている人がいるし、自分達の役目はそれを守ること。なのに、君はそんな弱い子ヒツジではなく、狼ばかり見ていると指摘する。おとりに貧しい親子を使っていることもぴしゃりと指摘する。『巷にあふれる犯罪者が一人減るだけ』『子供が悪の道に進まないように、たっぷりと恐怖を味あわせればいい』』と言うところまで落ちたバットマンに、はっきりとそれは違うと否定する。たまたま通りがかったゴードンの家で会話を聞くことになるが、信頼関係を結んでいるはずの彼もまた、バットマンが一線を越えて犯罪者の道に行くことを恐れていると本音を漏らしている事を聞いてしまう。自分こそが犯罪者を取り締まる唯一の存在だと思っているバットマンにとっては、誰も信じないとはいえ非常にきつい一言であった。
最後の訪問者はジョーカー。まさに死神としての登場だが、死と言う未来をバットマンに考えさせる(墓に埋める嫌がらせ!)。自分が死んだらどうなるか?誰も自分の死を悼むことはない。ただ、ジョーカーと同じような異常な犯罪者が一人消えたと言うだけ。協力者だったゴードンは終身刑。ウエイン邸は売却され、アルフレッドもどこかへ去っていく。自分の行為は何ももたらしはしない。だからこそ、今ここで生き方を変えなければならない。せめて一人ぐらいは、『あいつはいい奴だった』と言われる人生でありたいと。

結果、ジョーカーの犯罪を止め、報復をしようとする父親に、『お前は悪人じゃない』『子供にヒーローの姿を見せてやれ』と信じられない言葉をかけてやめさせる。そして、今まで迷惑を賭けた親子には仕事のあっせんや生活保護の補償、壊した家の修理、そしてクリスマスを迎えられる準備を施す。

ゴッサムシティから犯罪が減らないのは、ジョーカー達の凶悪さだけが原因ではない。犯罪の撲滅と言う目標を見失い、戦う事だけにのめり込むダークナイトの姿勢があるのかもしれない。自分のような人間を作りたくないという願いがあればこそ、バットマンはヒーローとして悪に打ち勝てるのだろう。

不思議なバットマンのクリスマス。


「この物語の教訓はなんだと思う?」
バットマン イヤーワン/イヤーツー/フランク ミラー

¥3,360
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ブルース・ウェインがバットマンとして活動を開始し、同時にジム・ゴードンを協力者に加えた一年目の物語。

1939年に誕生したバットマンは、両親を強盗に殺されたことをきっかけに、ゴッサムシティの犯罪者を一掃するために戦いを始めたのがオリジンである。『ダークナイト(暗黒の騎士)』という異名の通り、犯罪と闘うハードな設定なのだが、時代とともにヒーロー性を増し、テレビドラマでばか騒ぎをするように変質していく。
しかし、1986年に発表された『ダークナイトリターンズ』で流れが変わる。これはアメコミの歴史を変えたとまで言われる作品で、バットマンはここで、『政府非公認のクライムファイター』『崇高な精神の裏にある、犯罪者と向き合わねば生きていけない狂気をはらむ異常者』と言う側面が与えられ、以後バットマンの基本姿勢となる。この作品を踏まえた上で出来上がったのがイヤーワンだ。

危険な自警団員にどうやってなって行くのか?何故ならなくてはならなかったのか?

味方が誰もおらず、信頼に足る人間が皆無だったからだ。町には犯罪者があふれ、司法も行政も腐敗しきり、マフィアが実権を握るゴッサムシティにおいて、犯罪者を一掃するなど不可能である。しかし、それをすることを生きる目的にしてきたブルースにとっては、その目的を遂行しなければ生きている意味がない。そこで考え出したのが、『迷信深く臆病な犯罪者に恐怖を与える』と言う方法。それを具現化するために、蝙蝠の姿を見に宿すのだ。
また、協力者となるジム・ゴードンも、リアルな人物で描写される。ドラマなどでは人がよく、少し三枚目なところのある警官として描かれてきた彼だが、この作品では、ゴッサムシティに転任したことを後悔し、腐敗した警察組織を目の前にして正義感を挫かれる。挙句の果てに、現実から目を背けようと身重の妻がいるにもかかわらず不倫に走る弱い男として描かれる。しかし、強い意志で命を賭けてゴッサムシティのために犯罪者と戦うバットマンの姿を見て、彼に賭け、自分の正義を実現させるべく立ちあがる。

崇高な正義。次々と現れる異常犯罪者。命がけの活動に共鳴して仲間になる者。いつか、何らかの形で訪れる『ダークナイトリターンズ』の結末に向けたスタートがこのイヤーワンである。

正義のために、腐敗と犯罪と戦おうと立ちあがる男たちと言う子ズは、『バットマンビギンズ』の原作となる。
フラッシュポイント (DC COMICS)/ヴィレッジブックス

¥3,045
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リランチのためにいったんすべての歴史をリセットすると言う大イベント、NEW52。そのプロローグとなるのがこの作品。

地上最速の男・フラッシュが目を覚ますと、世界は変わっていた。何かがおかしい。
スーパーマンは存在しない。ワンダーマンとアクアマンの大戦争で、世界は滅亡寸前。春・ジョー弾はグリーンランタンではない。バットマンは、ブルースの父であるトーマス・ウエイン。ヒーローのリーダーはサイボーグが務める。そして、フラッシュも自身の能力を失っている。

劇中である人物が言う「素敵に狂った世界」は滅亡に向かい、フラッシュは元の世界に戻ることと、破滅する世界を救おうと駆けまわる。

単なるイベントではなく、ストーリーもしっかりしており、名作と言える作品だ。とにかく、狂った世界に生きるヒーロー達の悲壮感や狂気が輝いて見える。そんな狂った世界の思いを背負い、フラッシュは時間を超越する疾走で、新たな世界へ向かう。