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マーラー交響曲第9番は有名どころの指揮者が大きな節目の公演などで選ぶことが多いスケールの大きい楽曲である。
しかしこのマーラー交響曲第9番ほど指揮者によって印象ががらりと変わる曲も又無い様に思われる。
ネットで評価が高いマラ9の演奏の中で特に目立っているバーンスタインとカラヤン、ブルーノ・ワルターを聴き比べてみた。
バーンスタインのCDは一度きりの共演となったベルリンフィル・ハーモニとのライブレコーディング盤とアムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団(現ロイヤルコンセルトヘボウ管弦楽団)のライブレコーディング盤が出版されている。
バーンスタインファンの間で一度きりの共演として語り草となってるベルリンフィル盤はファンの間では伝説と化しており話題性が高いが演奏としては抜けや間違いも多いと言われ漠然と聴いてもまとまりに欠ける演奏と感じられる。
ベルリンフィル盤は音の響きの美しさには部分的にはハッとさせられる物もあるが全体として聴くとまとまりに欠け不安定な演奏と感じられる。
多分練習時間が十分取れなかった為演奏としては失敗作なのだろうと思うがその不安定な演奏の為なのかその分マーラーがこの9番に込めた死の痛みが反ってまざまざと浮かび上がってきて心に棘を持って突き刺さる不思議な効果がある。
これは不完全で不安定な演奏であるが為に生み出された副産物なのだろうと推測する。
このバーンスタイン指揮のベルリンフィル盤のマラ9は死の痛みが過剰に感じられ聴くのが辛くなるが逆に尾を引き時たま聴き返したくなる不思議な魅力を持つ演奏となっている。
同じバーンスタイン指揮でも付き合いの深いアムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団との演奏の方は一度きりの付き合いであったベルリンフィル盤の様な不安定さはなく十分なリハーサルの時間が取れた為格段に安定しており完成度が高くその分死の痛みが程よく緩和され安心して聴くことが出来る。
とりあえず一枚選ぶのならこのアムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団の物が完成度の高さと聴き安さからはずれがないであろうと思う。
バーンスタイン指揮のマラ9ではアムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団盤が決定版だろう。
マーラー交響曲第9番のCDを一枚だけ選ぶとすればバーンスタインのこのアムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団の演奏を推す。
しかし一方で演奏において失敗であったはずの一期一会のベルリンフィル盤も死の痛みが強烈に尾を引く不思議な魅力がある。
ユダヤ人であるバーンスタインとかつてユダヤ人を迫害した経緯を持つドイツ民族で構成されるベルリンフィルハーモニー管弦楽団との異色のコンビネーションにも興味をそそられる部分が大きい。
一度は試しに聞いてみたくなる演奏ではある。
ちなみにバーンスタインのマーラー交響曲第9番にはイスラエルフィルハーモニー管弦楽団との1985年の日本公演がありその演奏はバーンスタイン最高の名演と名高いが正式に録音されていなかったため正規の音源が残っておらず幻の名演奏としてファンの間で語り草となっている。
(追記:上で述べたバーンスタイン史上最高の演奏と専門家やファンの間で言われている伝説のイスラエルフィルとの日本公演の貴重な映像がyoutubeにアップされている動画を見つけたので巻末に貼っておきます。本当に貴重な音源と映像なのでお見逃し無く!!)
だがこの日本公演の直前にイスラエルのテルアビブにある本拠マン・オーディトリアムで公演されたイスラエルフィルとのマラ9の演奏は正規の音源が現存し現在CD化されており購入出来る。マーラーはユダヤ人だからマーラーの本質に迫るには同じユダヤ人のバーンスタインとイスラエルフィルとの組み合わせが本来的にベストの組み合わせだと思われる。このバーンスタインとイスラエルフィルの演奏にも興味が沸く。
もう一方の20世紀を代表する指揮者であるカラヤンの指揮だがマラ9をそれまで避けていたカラヤンがバーンススタインのベルリンフィルとのマラ9の演奏に触発されて公演したベルリンフィル演奏のライブ盤にも興味が惹かれる。
カラヤンのライブ盤マラ9はバーンスタインとベルリンフィルとの即席の一回限りの演奏と違ってベルリンフィルの専属指揮者であるだけにオーケストラとの息がピッタリでまるでスタジオ録音を思わせるような完成度の高さである。
更にスタジオ録音盤もあるがこれはもちろんライブ盤以上の完成度である。
どちらか一枚を選ぶならスタジオ録音盤の方がより完成度が高く間違いがないだろうと思うがyoutubeなどで聞き比べて自分の好みで選べば良い。
でもカラヤンのマラ9は本来のマーラーの解釈の演奏なのか疑問が残る。
演奏があまりにも不自然なほど美しすぎる。
デコレーションの装飾を思わせる人工的な美しい演奏によってバーンスタインのマラ9より聴き安くなっているがマーラーがこの曲に盛り込んだ死の痛みがその分すっかり殺されているように感じられる。
デラックスな舞台装置で壮大な演奏を心掛け聴き手をグングン引き上げる高揚感が持ち味のカラヤンは元来内傷的な心のブレを持つマーラーの楽曲はあまり得意ではないのだろう。
このカラヤンのマラ9の演奏はこの上ない美しさは実現しているもののマラ9の本来のテーマである死に際する心の痛みを無視しているように感じられカラヤンのマラ9に対する解釈に不満が残る。
しかしカラヤンのこの上なく美しい装飾をふんだんに施したゴージャスな人工美的なマラ9の演奏もこれはこれで素晴らしいと思う。
このカラヤンの独断的なマーラー9番の解釈と自己流の演奏もありかなと思えてくる。
カラヤンのマラ9の公演では1982年のザルツブルク音楽祭の演奏が最高の名演と名高いが正規の音源としては録音されておらず熱心なファンが当時のFMラジオでの生放送を個人として録音した貴重な音源がyoutubeにアップされているので巻末に貼っておく。
でもそうなると本来のマーラー交響曲第9番の解釈とは何なのだろうか?
大のマーラー好きでマーラーのエキスパートと言えるキャリアを持つバーンスタインのマラ9の解釈もマーラーの一面しか表現していないのではないかという気にもなってくる。
そうなってくるとマーラーの15歳年下でマーラーと同じ時代を生きマーラーの直弟子としてマーラーから直接指導を受けた同じユダヤ人であるブルーノ・ワルターの演奏が本来のマラ9の解釈の手がかりになってくる。
ワルターの演奏では1938年のウイーンフィルハーモニー管弦楽団の公演が有名である。
この1938年のウィーンフィルとのライブ演奏はユダヤ人であるワルターがナチスの迫害に合いアメリカに亡命する直前のヨーロッパでの最後の公演となった物であり迫害に苦しみナチスの暴虐に抗議するワルターの鬼気迫る心の声が鋭い緊張感を生み出し迫力ある演奏となって聴き手に迫ってくる。
このワルターのマラ9はカラヤンの人工的な装飾を感じさせる美しさとは対照的に清流の流れのような自然な美しさを感じさせる。
ワルターはナチュラルな自然体の演奏を良しとし目指していたのだろうと推測する。
ワルターとウィーンフィルの自然美を思わせるナチュラルな演奏はドイツ流のカラヤンとベルリンフィルのコンビネーションによるメカニカルな人工美とは対照的と言える。
後年のコロンビア交響楽団との演奏もワルターの晩年期で緊張感と角は取れているが自然体の演奏であることには変わりがない。
ワルターはユダヤ人であるがユダヤ教の教えが自然体を良しとしそれを志す民族性なのだろうかと推測したりする。
あるいはワルターは年代的にカラヤンより自然に触れる環境で育った部分が大きいためというだけかもしれない。
カラヤンの指揮もバーンスタインの指揮もベルリンフィルとの演奏はメカニカルな人工的な演奏であると感じる。
現代のベルリンフィルの精神の根底はキリスト教の神への信仰は限りなく薄れ無神論的な科学万能主義の精神が支配的であることが演奏にも表れているのだろうと推測する。
南欧系の影響の強いウイーンフィルの演奏もひたすら真面目にメカニカルな演奏を追求する北欧系のゲルマン民族であるベルリンフィルの演奏とは違い大らかな遊び心があるように思われる。
オーケストラの国柄や民族性の違いが演奏の特徴の違いとなって表れているのだろうと思う。
しかしワルターの演奏はまとまりと完成度が高く欠点はないがバーンスタインの演奏で感じた死の痛みを特段感じさせることもない。
ワルターの演奏は完成度が大変高く演奏の流暢さも音の響かせ方も自然体で美しいがバーンスタインの様に何か聞き手に痛みを与え尾を引く物があるというわけでもない。
ワルターのマラ9はバーンスタインと比べると非常にあっさりしている印象である。
でもこれが現存するマラ9の演奏の中ではマーラーのオリジナルの解釈に最も近い演奏なのだろう。
本当のワルターによるマラ9の解釈は今後もう少し聴き込んでみないと解からないがワルターはマーラーの生前の悩みを表現しているのではないかと思う。
ともあれワルターはこの1938年のマラ9の公演でユダヤ教徒としてユダヤ教の唯一神ヤハウェに認められるべく最高の演奏を目指し彼の中での自己ベストの演奏を実現したと言える。
ワルターの1938年のマラ9の公演はナチスによるユダヤ人の迫害に直面しその受難をバネにして見事に克服し彼の中での最高の演奏に到達し奇跡的な名演奏を実現したと言えるだろう。
このマーラー交響曲第9番は各指揮者とオーケストラの演奏を聴き分けて分析するだけで様々な思いを聴き手に想起させる何か凄い含みのある楽曲である。
やはりこのマーラー交響曲第9番はマーラーの最高傑作とも言われるが大物指揮者に大きな節目の公演で選ばれることを見ても大変テーマの深いスケールの大きい楽曲なのだと改めて思う。
それが楽曲の解釈の難しさを生み演奏の難しさとなって指揮者やオーケストラによってそれぞれ違う解釈と演奏となり聞き手に印象ががらりと変わって伝わるのだろう。
クラシック音楽は楽曲も大変数が多く指揮者とオーケストラの組み合わせも様々あり奥が深いが特にマーラーの交響曲は奥深いと感じる。
その中でも交響曲第9番はマーラーが心臓病が悪化し死期を悟り死と背中合わせに書き上げた血の滲む大作なので格別奥も深いし聴きごたえも十分である。
クラシック音楽は奥が深いがその中でもマーラー交響曲第9番は特に難解で奥が深い。
新型コロナウイルスで自粛を余儀なくされている多くの人にこの機会にマーラーの交響曲第9番の鑑賞と解釈をお勧めしたいと思う。
今後は更にマーラーの他の交響曲にも手を広げていこうかと思っている。
それにしてもマーラー交響曲9番を聴いて感じる死の痛みとはなんであろうか?
それは多分死に際して生前の行いがすべて記憶として蘇りそれが良心の痛みを感じさせ心に突き刺さるからだろう。
マーラーは交響曲9番で死に際する心の痛みを再現し最後は死に絶えるように徐々に音が弱まっていき安らかに演奏が終わる。
マーラーはユダヤ人なのでその死生観にはベースにユダヤ教があるのは間違いないと思うがマーラーは9番の作曲の時期に中国の詩を鑑賞していたと言うから東洋の死生観の影響も色濃く反映されているように感じる。
東洋では死の直後にエンマ大王が出てきて生前の行いによって人を裁くが聖書ではヤハウェかイエス・キリストが出てきて同じように生前の罪で人を裁く。
私の解釈ではエンマ大王やイエス・キリストは宗教上の比喩的な寓話的象徴で実際はそのような物は現れずただ死の直前か死の直後にあの世の空間に心だけが晒されて生前の行いと心の持ち方が己の良心によって痛みを感じそれが死に際する生前の裁きとなるのだろうだと思うのだが皆さんの解釈はどうであろうか?
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バーンスタインファンの間で伝説化している一期一会のベルリンフィルとのライブレコーディング盤。演奏は不安定だが逆にそこが魅力?
マーラーのエキスパートであるバーンスタインのマーラー9番の決定版と言えるのがこのアムステルダム・コンセルトヘボウ盤。完成度がベルリンフィル盤より格段に高くマラ9のCDを一枚だけ選ぶならこれが一番のおススメ。もちろんバーンスタインがこだわったマラ9の死の痛みを程よく盛り込んでいます。
バーンスタインのイスラエルフィル盤。これにも興味が出る。
カラヤンのマラ9のライブレコーディング版。独断的な解釈と演奏だが完成度が高く美しい装飾を思わせるマラ9。でもバーンスタインの様な死の痛みは全く感じられない客観的演奏。
カラヤンのマラ9のスタジオ録音盤。ライブレコーディング版以上の完成度でこの上なく美しい演奏を実現している。人工美の極。死の痛みという主観は一切盛り込まれていない演奏の美しさだけに徹した客観的演奏。
クラシック音楽ファンの間で伝説として語り継がれているワルターがヨーロッパで最後に公演したマラ9の1938年ライブレコーディング盤の2013年限定版。ナチスの迫害に合いながらの鬼気迫る演奏。これも是非手元に置きたい。私が購入したのはこの限定版ですが今は中古となっているようです。新品をお求めなら下記の2002年出版の通常版と2017年の再出版の最新版の物があります。
こちらは上記と同じワルターの1938年の公演の通常版となります。限定版との違いは不明ですが出版年が違います。こちらは2002年出版。ちょっと版が古いので音質が心配。
もう一つワルターのマラ9の1938年ライブレコーディング盤を見つけました。交響曲第5番第4楽章アダージェットも入っており出版も2017年と現時点で一番新しい。ワルターの1938年のマラ9を今買うならこれが良いでしょう。
ワルターの晩年のコロンビア交響楽団とのマラ9スタジオ録音盤。
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■参考にしたyoutubeにアップされていた音源を掲載しておきます↓
◆マーラー:交響曲第9番 バーンスタイン指揮 ベルリンフィル (1979年)
◆マーラー:交響曲第9番 バーンスタイン指揮 ロイヤルコンセルトヘボウ管弦楽団 (1985年)
◆マーラー:交響曲第9番 バーンスタイン指揮 イスラエルフィル 日本公演(1985年)
評論家やファンがバーンスタイン最高のライブ演奏と評するイスラエルフィルとの日本での伝説と化した公演。お聞き逃しなく!!
◆マーラー交響曲第9番 カラヤン ベルリンフィルハーモニー管弦楽団 ベルリンフィル創立100周年記念コンサート (1982年)
◆マーラー:交響曲第9番 カラヤン指揮 (1982年ザルツブルク音楽祭)
これもカラヤンファンにとっては伝説的な演奏。
◆ブルーノ・ワルター指揮 ウィーンフィル (1938年)
◆ブルーノ・ワルター指揮 コロンビア交響楽団 (1961年)