はじめに

 

高市早苗氏の自民党総裁への選出を契機に、公明党が連立解消を決断した。この政治動向の背後には、靖国参拝をめぐる近隣諸国との外交及び歴史認識の問題(靖国問題)、そして日本国内の戦争を含む近代史の総括を棚上げしてきた問題など、重要な問題が複雑に絡み合っている。

 

靖国問題は、「中国や韓国による内政干渉」として片づけられることが多かった。しかしそれでは、戦後日本が自らの歴史とどう向き合ってきたか、あるいは向き合ってこなかったかという、より深い問題を覆い隠してしまうことになる。本記事では、以下の三つの視点からこの問題を考察する:

  1. 高市氏の総裁選出と公明党の連立離脱に見られる政治的背景

  2. 靖国参拝をめぐる歴史認識と外交的意味

  3. 新しい世界へ対応する際の課題としての近代史の復習・評価

これらを通じて、靖国問題が単に中国の外交カードではなく、日本の政治文化と歴史認識の「鏡」であること、更にはこの問題の解決が現在進行形の多極化した世界に対応するカギともなることを明らかにしたい。

 

1. 公明党・中国問題と靖国問題の関係性

高市早苗氏が自民党総裁に選出されたことで、これまで連立を組んでいた公明党が連立解消を決断した。公明党が提示した連立維持のための条件:

 

首相として靖国神社に参拝しないこと; ② 外国人との共生を政策として受け入れること; ③ 政治と金の問題に毅然と向き合うこと、の三条件を高市氏は完全には受け入れなかったためである。

 

高市氏は、以前から「首相になっても靖国に参拝する」と明言していたので、①の靖国参拝に象徴される対中国の政治姿勢が連立解消の主因であると見る向きも多い。その他、高市氏の政治姿勢は保守的民族主義的な面があり、グローバリスト的政党(綱領参照)には受け入れ難いとの分析もあるだろう。

 

自民党総裁として高市氏を応援する右派政治家の中にはもっと過激な意見を出している人もいる。或いは、そちらの方がより本質的かもしれないので引用する。現職議員・北村晴男氏(日本保守党)が以下の動画で過激に語っている。https://www.youtube.com/watch?v=MqWklRiJoOc

 

公明党側は③の「政治と金の問題」が決裂の理由だと説明しているが、これは表向きの理由であり、実際には高市氏のような対中強硬姿勢の政治家が首相になることは、中国と親密な関係を築いてきた公明党にとって何かと好ましくないからだろうという。

 

公明党斎藤代表と自民党高市新総裁との会談の4日前に、駐日中国大使が国会議事堂を訪れ斎藤代表と会談しており、公明党の毅然たる姿勢からも中国の意見が影響を与えた可能性が高いと思われると北村議員は語っている。

 

 

政治と金の問題は高市新総裁誕生と同時に発生したのでない以上、このあたりの経緯を明確にすることは、公党である公明党の日本国民に対する責任だろう。

 

なお、公明党と中国共産党政権との深い関係の構築とそれが田中角栄による中国共産党政権との国交正常化において重要な役割を果たしたことについては、前参議院議員・浜田聡氏がyoutube動画で詳細に解説している。この動画は日本国民全員が視聴すべきであると思う。ただこのテーマは今回はこれ以上議論しない。https://www.youtube.com/watch?v=sHRmaMCC5A0

 

 

 

2. 歴史認識問題と靖国参拝の意味

中国が対日外交で用いる「歴史認識問題」は、日本の保守層からは「中国による歴史の捏造に基づく外交カード」と見なされることが多い。しかし、果たしてそれだけで片づけてよいのだろうか。

 

日中平和友好条約の締結によって、日中戦争を含めて中国との過去の国家間の関係は決着している。平和条約とは、これまで敵対してきた二国がその歴史に終止符を打ち、今後は未来志向で行こうと言う国家間の約束である。実際、日本は条約締結後に当時の金額で3兆円以上の無償援助を含む政府開発援助(ODA)を行い、中国の経済発展に貢献している。

 

それにも拘らず、中国では現在でも小中学校で「反日教育」が行われており、これは条約精神に反する行為である。ただ、日本の首相の靖国神社参拝を中国が「戦争の正当化」と受け取っているのなら、これも平和条約の精神に反する部分もあり中国での反日教育実施の理由づけになり得る。

 

日本のアジア太平洋戦争(1937年に始まった日中戦争から1945年に終わった対米戦争とその他連合国諸国との戦争)とそれに至る明治以降の近代史の総括なしに、首相らの靖国参拝に対する近隣諸国の批判を“難癖”或いは感情的な敵対行為と評価できない筈である。

 

十分に歴史学会のレビューに耐えられるレベルの近代史の理解なしに、思慮浅い右派の票を得る目的で靖国参拝を主張し実行しているのなら、その政治家は日本に対する悪感情を近隣諸国に喚起することで日本国民に損害を強いてきたことになる。

 

勿論、それよりも重要なのは、近代史の総括により日本国のこれまでの経済的政治的発展と明治以降の80年間の専制政治において戦争の犠牲になった数百万人数の兵士や市民の犠牲との関係を国民に提供することは、大日本帝国を引き継いだ日本国の責任である。

 

筆者自身は保守的な立場にあり、国政政党の中では歴史の総括とそれに基づく教育の重要性を主張している参政党に共感する部分が多い。従って、日本政府が近代史の総括をしてこなかったことには強い不満を抱いている。現時点での政治家の靖国参拝は、日本国家の傲慢な姿勢の反映だと思う。

 

繰り返すが、数百万人の犠牲の上に何を得て何を失ったのか。その問いに答えないまま80年が経過したことは、国民の政治不信を深める一因ともなっている。石破総理の半分私的な80年談話など、全く不十分でその発表の趣旨すらわからない。

 

3. 首相の靖国参拝問題:倫理と制度の視点から

 

靖国神社には、大東亜戦争で命を落とした一般兵士だけでなく、戦争指導者とされ東京裁判で死刑となった人たち合祀されている。その中には誤った方向に国家を導いた人物も含まれる。その評価を抜きにして無批判に彼ら全員を合祀した靖国へ首相らが参拝することは、近隣諸国に過去の戦争を正当化する政治的行為と感じる可能性が無いとは言えない。

 

そのように近隣諸国が感じる背景に、日本の現在の憲法は旧憲法の改正手続きに基づいて制定されており、官僚制・司法制度・教育体制なども含め、日本国は大日本帝国の延長線上にある。ドイツがナチ体制との法的断絶を明示したのとは対照的なのだ。

 

筆者は戦争で死亡した兵士に対して敬意を抱いている。その慰霊施設の中に誤った判断によって国民に多大なる犠牲を強いた指導者たちも合祀されていることは全く理解できない。被害者と加害者を同じ施設で祀っている可能性が高いからである。

 

あたかも日本の戦争指揮者も等しく日本の明治以降の近代史の被害者だったと主張する行為のように見える。それが、戦争指導者の末裔も多く含まれる現在の日本の政治指導者たちが、父祖の過ちを隠蔽するために行っているのか、非論理的な日本の文化の産物なのか分からない。

 

無責任の国家の代表が、戦場で亡くなった多くの若い命の慰霊をするのなら、まず過去の戦争の経緯や意味、そしてその責任の在り処を明確にすべきである。

 

国家のトップが、戦場で犠牲となった人たちの慰霊のために参拝したいのなら、戦場以外で亡くなったひとたちは分祀した後にすべきである。分祀は簡単ではないという人もいるが、制度的に実施可能なはずだ。国会で法を定め、靖国神社にその伝達を行うだけで良い。

 

中国や韓国が靖国を外交カードとして使うのは事実だが、それを許しているのは、日本自身が過去と真剣に向き合ってこなかったからである。そして単純に「首相の靖国参拝が当然」と反発するのではなく、「何故彼らは反発するのか」「なぜ今、参拝するのか」と冷静に問う社会こそ、成熟した民主国家である。

 

靖国問題は、右か左か、愛国か反日かといった単純な対立で終わらせてはならない。歴史と政治倫理を大切にし、それと正面から向き合う政治的文化的成熟度が、多極化するグローバル世界の入口で日本人が問われるのだと思う。

 

4.終章

現在の世界情勢は非常に流動的である。その一つの理由は、米国の権威と権力の相対的低下である。世界は多極化の時代をむかえつつある。

 

いままで、世界を一極支配してきた米国の友好国として、日本は平和と経済的繁栄を経験してきた。

しかし、その時代はもう終わりである。日本は米国の権力が去った東アジアで、地域の覇権国となる中国或いはロシアから吹く寒風のなかで生きていく必要がある。

 

その準備のためにも、日本は過去の戦争を含む明治以降の近代国家建設とアジア太平洋戦争による挫折を正確にレビュー(復習、再評価)すべきである。

 

その結果、米国の威光で一極支配のスクリーンに射影された中国やロシアの像ではなく、異なるロシアや中国を見る可能性がある。既にウクライナ戦争や中東戦争における米国の書いた物語は誤りに満ちていると本ブログでも指摘してきた。日本に与えられた時間は限られている。

 

(この記事の作成には、部分的にchatGPT及びCoPilotの協力を得ました)