元お笑い芸人の中田敦彦氏のyoutube動画を初めて見た。なかなか示唆に富む内容である。

(以下緑字は中田氏の意見についての説明;茶色はブログ筆者による動画へのコメント)

 

現在の日本経済の状況を解説し、如何にして不況から脱出させるかについてまで話している。直近の参議院選で勝利した国民民主や参政党の積極財政論にはかなり辛口の意見となっている。https://www.youtube.com/watch?v=g1yMZxeqiCk 

 

 

中田氏は、先ず貨幣の誕生から不換紙幣までの発展を説明し、不換紙幣になって以来膨張を続ける世界の金融経済の問題点を議論している。日本がこの膨らんだバランスシート(BS)の問題をどう解決するかは、世界が見ていると話す。

 

その中で、特にアベノミクス政策の本質について解説している。三本の矢のうち放たれたのは一本目であり、それは円安政策で輸出企業を元気にする政策であったとしている。その"異次元の金融緩和"の結果として、中央銀行の日銀は金利を上下させるという金融政策をまともに実行できなくなったと指摘している。その上で、国債を発行して減税する国民民主や参政党の政策を批判している。

 

市中銀行は十分すぎる預金を日銀にため込んでいる現在、中央銀行が預金準備率を上下させるだけで金融を調節出来るなんて、遠い過去の話になってしまったのである。

 

日銀当座預金は貸借対照表(BS)の負債の部(右欄)に記されているが、資産の部(左欄)にはほぼ同額の国債を抱えているので、金利を上げることはその含み損を大きくすることになり、日銀の純資産を。

 

日銀総裁は国会で国債は満期まで持つので国債の含み損は問題ないというが、それがあまり積み重なれば通貨「円」の信用が低下し、いつ何時「円」の空売りを仕掛けられるかわからない。1992年の英国ポンド危機では、ジョージソロスが膨大な空売りを仕掛けてポンドを急落させ、買い戻しで巨利を得た。

 

また、日本国政府は現在GDP比200%を優に超える国債残高を抱えており、順次借り換えて行く必要があるが、全額借り換えるには単純計算でも1%の金利上昇は10数兆円の利払い増加となる。(補足1)政府の子会社である日本銀行は、独立性をある程度確保しているとはいっても国の支払金利を膨大にしてしまうことは、実質的な財政破綻(超インフレ)の危険性を大きくするので出来ない。

 

 今、国債をもっと発行して、それで減税をするとか子育て支援金を増額するなんて話は、まともにマクロ経済を勉強している中田敦彦氏にとっては、無茶苦茶に見えるのである。

 

2)中田氏の景気浮揚策についてーちょっと無理ー

 

景気浮揚策としては、アベノミクスで元気になり溜め込んだ内部留保を法人税増税などで吐き出してもらい、消費税を減税する。そして、国債残高を米国並みの対GDP120%くらいにして、日銀も金融操作可能にすると言っている。これはちょっと無理だろう。 

 

更に、租税特別措置法や政治資金規正法を改善することで、政治の構造改革を実現する。それによって、10年かかれば日本が変わると言っている。そのために日本国民が経済を学び言葉で説明する能力をつけて、正しく一票を投じることが大事だと中田氏は話す。

 

政治の構造改革には賛成である。日本の既得権益層を大掃除することで、政府の無駄遣いが減り、有効な規制撤廃などが出来れば景気に大きくプラスになるだろう。

 

日本人の政治に対する無関心は病的であるので、参政党のように自分たちが政治を造るのだという気概が日本国民に充ちれば、政治は自ずと改善されるだろう。

 

この景気浮揚作についての私の考えを、この動画に対するコメントとして投稿した。それらをここに再録する。

 

 素晴らしい動画だと思います。ただ、根本治療の部分はもう少し踏み込んでほしい。内部留保といってもそれは既に会社の設備投資などに使われています。ほとんどの会社はキャッシュをそれほど持っていません。大企業への増税は、株価暴落で経済の収縮を招きます。

 

根本治療は:能力本位の給与、労働流動性の確保、既得権益層排除、能力重視と能力を発揮できる労使関係、それらによって労働生産性を拡大を目指すことと、社会全体の活力上昇を目指すことだと思います。これらは日本文化の下では非常に困難なことです。(追補)

 

中田氏の話す政治改革を、政治改革だけでなく労働法や会社法などにまで広げることで、日本経済の立て直しは可能だというが、10年では無理かもしれない。日本文化を自由主義経済に適合させるまでには世代を跨ぐ必要があるだろう。

 

3)中田氏の動画に対する反論について

 

中田敦彦氏のこの動画は反響があったようで、何人かが反論の動画を作っている。その中で、令和新選組の長谷川ういこ氏のものを引用しておく。
https://www.youtube.com/watch?v=O_REKCAkygY

 

 

この動画についてもコメントを書いたので、それを再録しておく。要するに中田氏の動画より出来が悪いというのが結論である。

 

7:00、売り手インフレなんて、独禁法が有効に働いて居れば防げる筈。こんなくだらない話で中田氏の動画に突っ込みを入れたつもりなのか? 

 

8:15、アベノミクスについては既にコメント済(コメント欄参照)で、中田氏の方が正しい。アベノミクスにおける本来の目的からずれた消費増税などがそれを示している。円安誘導の効果についても全く分かっていない。(異次元の金融緩和の目的は国際的な批判を避ける形での円安誘導である。輸出企業を元気にすることによる景気浮揚を狙った)

 

12:00、国債発行して減税することで日銀が金融操作が不能となったことについて、長谷川氏は全くわかっていない。昔は預金準備率で金融操作が出来たが、それは日銀当座に市中銀行の預金が積まれている今は無理。

 

金利での金融操作も、国債の含み損(日銀総裁は満期まで持つので問題ではないと言っているが)があがれば、為替に影響が出る可能性大。為替ディーラーの態度決定は複雑。ただ、金利を上げる時ではないという意見には賛成。(ブログ本文のジョージソロスに関する記述参照)


長谷川氏も中田氏も、マクロ経済政策で日本の景気が回復するかのことを言っているのは思慮不足。

補足:

 

1)借り換えまでは金利上昇はないので、すぐにこれだけの資金が必要というわけではない。このあたりは簡単な話なので、細かく記すことはご容赦願いたい。
(差し当たり以上とします)

 

追補: これらの問題は数年前に何度も本ブログに書いてきた。その一つを以下に紹介する。このコメントと返答も是非お読みください。https://ameblo.jp/polymorph86/entry-12500444209.html

 

(8・16早朝、誤字訂正と追補を追加)