9月14日(2015年)のまぐまぐニュースというコラムは、武田邦彦氏の定年制廃止と年金廃止の提言を取り上げている。
 
コラムの核心は年金廃止である。武田氏の有料メルマガ(注釈1)の記述を引用して、“定年制がフレキシブルになると、年金制度は損得(働いている人は80歳でももらえないことになり退職を促進することになる)が生じる。そこで、「日本人はできるだけ自分で働き、額に汗して生活をする」という原理原則をたて、教育を行い、社会常識化する。その上で、「病気や老齢で働けない人は個別の審査をへて生活保護を行う」とする”と、説明している。
 
武田氏の粗雑な意見につきあうには、注意が必要である。その第一は、現在定年制(注釈2)と年金制が存在し、ほとんどの人はそれを基礎として生活設計していることには、何も触れていないことである。年金廃止と定年制廃止が既に定着しているのなら、それも一つのあり得る社会制度である。しかし、現行制度からどう切り替えるかについて、説得力ある議論がなければ、粗雑という誹りは免れない。
 
彼は、インチキ発言をテレビで流布することで、当分は金を稼ぐことが出来るし、既に相当稼いでいるので老後の心配はない。それ故に、他人の人生を破壊するかもしれないことを、いいかげんな論理で言っているにすぎない。
 
“定年制と年金廃止を、社会に蓄積された個人資産を均等分配してから行う”というのなら、一考に値する。それでも尚、50代以降の人間にとっては、これまでの人生設計の切り替えには苦労する筈である。そんな考えなど武田氏には微塵もないだろう。
 
武田邦彦氏はそのような過激発言で食っている人なのだという了解が、一定の知的ベースのある人には存在する。従って、武田氏の発言だけで終わるのなら問題はあまりない(注釈3)。ただ、その種の発言を、実際に政治的力を持つ者や一定の評価があるメディアが、企みを持って引用する場合には注意が必要である。
 
注釈:
1) 武田氏のメルマガは有料であるので、読んではいない。従って、この記事はまぐまぐニュースに記述されたことを元に書いている。
2)定年制が厳密に存在するのは官庁など公務員と独法職員だけである。民間企業の場合は、定年制は制度ではなく単に慣例であり、以前から自由に改廃できた。従って、民間企業の定年制廃止を議論しても意味がない。
3)上沼恵美子さんが、テレビで大ボラを吹いても、問題はないのと同じ。