前回、ある心理実験の話を書きました。
迷路の中で、
学生たちはそれぞれのネズミを見守りながら、
少しずつ違いがあると感じ始めていました。
けれど、この実験には
誰も予想していなかった結末が待っていました。
ところがある日、
この実験を指導していた
ロバート・ローゼンタール先生が、
学生たちに驚くべき事実を告げました。
「実は、能力の高いネズミも低いネズミも
特に、能力に差はなかったのです。」
この、先生の言葉に、
学生たちは、
きっと、とてもショックを受けたことでしょう。
あの迷路の中で見てきた光景は、
確かに自分の目で確かめたものだったからです。
早く進むネズミ。
何度も迷うネズミ。
その違いは、
毎日のように繰り返し目にしてきたものでした。
それなのに、
「最初から差はなかった」と言われても、
心のどこかが納得しなかったのかもしれません。
「私が担当したネズミたちは、
たしかに、初めから優秀だったのです。」
そう主張したくなったのは、
自然なことだったのでしょう。
もしかすると、
自分の観察が間違っていたと認めることは、
思っているより難しいことなのかもしれません。
けれども、
もし最初から差がなかったのだとしたら・・・
違いは、
いったいどこにあったのでしょうか。
ローゼンタール先生の行った実験で、
利口なネズミとのろまなネズミとで違っていたのはどこでしょう。
手続き上では、どちらのネズミについても
特に大きな違いはありませんでした。
ただひとつ、違っていたのは、
担当する学生に、
「こちらは迷路学習能力の高いネズミです」
と伝えたことと
「こちらは迷路学習能力の低いネズミです」
と伝えたこと
との違いだけだったのです。
ただこれだけの違いで、
一方のネズミだけが利口になってしまうなんて、
私には、とても信じられないことでした。
いったい、
どうして一方のネズミたちだけが利口になってしまったのか、
「このネズミは優秀だ」
と信じるだけで、
ネズミは変わってしまったのでしょうか。
不思議です。
この理由を考える前に、
学生たちに嘘をついて、
ネズミたちに迷路を解かせる実験をするなんて、
ローゼンタール先生も、
面白いことを考えたものです。
いったい、どうしてこんな実験をしようと思ったのでしょう。
どうやら、
当時の心理学の世界では
ある問題が話題になり始めていました。
実験の結果が、
実験者の思い込みによって、影響されているのではないか。
いわゆる
「実験者効果」と呼ばれる現象です。
実験者が、
初めから「思い込み」を持って実験をすると、
実験の結果に影響するのではないか、
ということを、
学生とネズミを使って、実験しようとしたようでした。
そして、
実験の結果は、
ローゼンタールの予想通り、
結果の違いとして現れたのです。
けれど、
本当に変わっていたのは、
ネズミだったのでしょうか。