山とともに | Never stop exploring

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きょうも どこかで よい旅を

夜になり、ガタンと突き上げられるような力にテントが揺れた。寝ぼけていた私は地震だと思った。

後に思えば、風だった。
雨と風が出始めたのである。

そこからは一睡もできず。

ビューと奥穂高の方から音が来て、テントがバサバサーっと揺れ、谷の方へ移る。次は雨。

ちゃんと固定してないから、テントが飛ぶんじゃないかと思う不安と、この先どーなるのかという不安にかられたが、テントが体に当たっても飛ぶ気配はなく、昨日と比べて、ダントツ寒さは無い。

1時、2時、、と修行のようにただじっと耐え、またかよー!と、なんとかこの状況にも慣れてきた。

こんなにも太陽が運ぶ朝が待ち遠しい経験は街ではできないだろう。
ようやく5時になってチャックを開けるが、外は真っ暗な上に霧がかかって隣のテントも見えない。電波がないから2メートル横にいる友人とも会話ができない。

結局あれだけ降っても天候は変わらず、雨、風、静寂、雨、風、静寂の繰り返しである。

6時くらいになると、ようやく周囲が見え始め、友人達とトイレに向かう。一睡もせず、長い辛い時間を乗り越えた。

友人はテント内が水没して私より大変みたいだが、もう慣れてきて皆早くもこの状況が笑えてきた。

私はこれ以上テント内にいるのは嫌だったので、雨が上がるのを待とうという友人に真っ向から反対し、ゆっくり下ろうと提案した。そもそも、晴れる保証もない。

雨のテント撤収は慣れないと大変で、まずは強風の中敷板を返しに岩場を移動。またゴーっと風音がしたら煽られるのでその場で敷板を盾に身をかがめて待機 笑 もう笑うしかない

どんなに道具を準備しても、山ではありのままを受け入れて順応していくしかないのである。

そして撤収、もう要領悪いしビチョビチョだが、無理やり畳んでザックにしまった。
財布や大事な着替えさえ濡れなければ大丈夫。

ゆっくりと降り始めて樹林帯に入った途端に風は遮られ、安心感でいっぱいになった。待つのも大事だが、うまく自分で判断して行動すれば、不安は消えてゆく、むしろ、雨に濡れる森は美しく、霧は幻想的で、徐々に空も明るくなってきた。

足元に注意しながら下るが、登りと違い、体力的にはダントツ楽である。あっという間に横尾である。

こうしてドロドロになりながらの登山は一見大変なのだが、雷さえなければ、雨は嫌いじゃない。これもまた、山の恵みであり、達成感に繋がるから不思議だ。

そして安心しきった横尾からが長かった!
ひたすら平坦な道を戻るときには疲弊で、無になった。温泉というゴールだけが私の足を動かす。

河童橋近くにある『山とともに』の石碑を見ても今はそんな気持ちになれない!笑 早く帰りたい。

さて、コロナで日帰り温泉受け入れ施設は限られていて、上高地温泉ホテルまで歩いた。やはり混んでいる。
他の人に気遣いながらで長湯はできなかったが、3日ぶりのお風呂は天国である。一睡もできず、雨にドロドロになった経験がその価値をまた格別なものにした。

怖いわ。その瞬間嫌なことは経験値という笑いのネタに変わるんだから。

今回はもうしばらく行きたくないどころか、またすぐ行きたいとまで思えた。

翌日も仕事で5時間しか寝てないんだけど、朝から心身共に爽快。年1のハード登山が効いてきて、筋肉痛はほんのりしかなかった。

辛い登り、絶景、嵐の中のテント、雨上がりの艶やかな緑、下山後の温泉、すれ違う他の登山者との一言交流、、

山の絶妙なアメとムチにやられ、また山に行きたくなる。

だから山パワーって恐ろしい。

温泉後は思えた 『山とともに』