リーマンのゲイの同僚との悩み
ゲルマント公爵夫人が窓の外で育てる花の挿話(H、八〇五-八〇七)のように、「ソドムとゴモラー」での全面的な開示の予告となる箇所はあちこちにある(H、六七七、八六一など)。 プルーストは十分な準備を重ねたうえで、この場面に臨むのである。 シャルリュスについていえば、『スワン家のほうへ』の第二部「スワンの恋」に、嫉妬深いスワンがシャルリュスと一緒なら恋人オデットとのあいだに何も起こりえないと喜ぶ(I、三一〇)ところがある。 このとき読者の心にふと兆す、シャルリュスとはどんな男なのかという疑問は、『花咲く乙女たちのかげに』後半でいよいよ彼が前面に出て、その挙動がつぶさに報告されるなかでしだいに解決に向かう。 あらゆる女性化を拒否し、極端なほどの同性愛者嫌いを標榜する彼に、奇妙に女性的部分があることが順次明らかになる。 祖母は彼のうちに女性的な感受性を認め(Hこ一一)、彼の声からは不思議にも「若い男と女との交互の二重唱」が聞こえる(H、一二二)。 ゲルマント公爵夫人が彼のことを「女性的な心」(H、七九七)だというのは、たぶんその本性を知ったうえであろう。
バリウケでガテン系な俺の悩み日記
小説の設定は多少ステレオタイプであることを免れず、ときとしてメロドラマに類しさえする。 主人公が自分の性衝動をただただ「運命」として甘受する姿勢も、一抹の物足らなさを感じさせずにはいない。 このころまでにプルーストは、のちにファロワ版『ザンドーフーグに反論する』に、「呪われた種族」としてまとめられる断章を書き上げていた。 シャルリュスの前身ゲルシー氏も、もう姿を現わしている。 内容は大筋において『ソドムとゴモラー』に近い。 今日私たちが読むような、異様といえば異様、しかし鋭く心を打つテクストが、もうそこには見出される。 三百ページそこそこの『リュシアン』と、その十倍以上の『失われた時を求めて』とを対等に論じることはできない。 それにしても、小説『リュシアン』には、才能豊かな青年(リュシアンは劇作家である)の繊細かつ良心的な行動パターンはあっても、同性愛行動を包む広角的な視点はない。 おそらくは、プルーストにすれば、問題はそんなに単純ではないといいたいのであろう。 主人公を、ありうべき同性愛の「英雄」のように、理想化して描くことが、彼の目に無意味に映ったことは十分に考えられる。
尺犬のゲイと仲良くなる方法
「彼女の歌聴いてると、これまでいろいろあったんだろうなあって、ぐっときちゃうんだよ。 でも結婚してそうだな。 指輪してたし」伴奏の男が夫ということはないのだろうか。 指輪はなかったが、演奏のときは取るのかもしれない。 それにしても瞬は守備範囲が広い。 昔から、好きだったりつきあったりしている女性の年齢や雰囲気にまったく統一性がない。 「じゃあ、今はあの人だけか」「つIか本腰入れて恋愛してるゆとりがないんだよな。 会いたいときに会いに行って一方的にながめて気分よく帰るみたいな、そういうのが今はラクなの。 ちょっとまずい傾向だなって、自分でもわかってはいるんだけど」「枯れたなあ、瞬くん」瞬は声をだして笑い、笑いをおさめてから「祐司は」と云った。 「だれかいないの」「いないよ」「即答だな」「瞬ががっかりすることないだろ」「がっかりするよ」「え?」瞬はくるりと向きをかえ、祐司の行く手に身を置いた。
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いや、べつにだれと来たから何ってわけじゃないんだけど」神月の頬から表情が消えた。 「ごめん。 やっぱりいい」祐司は急いで云い足した。 「単純にだれとなんだろって思っただけなんだ。 はやく酒、」「息子です」「えっ」「僕の息子です」神月は開けかけた襖を閉めた。 「いずれ話すつもりでした。 でも、いずれと思いなから先延ばしにしてしまったかもしれない。 訊いてくれてよかったです」座らないかと神月は目で促した。 祐司は座らなかった。 正確には、身体がこわばって動かなかった。 「十年まえに、いちど結婚しました。 相手は以前勤めていた会社の同僚で、当初は飲み仲間のような間柄だったのがだんだん二人だけで会うことが多くなって、しばらくして交際を申し込まれました。 悩みましたが、うやむやにすれば傷を広げるだけだと考えて打ち明けたんです。 すると彼女は、それでもいいと云った」聞きたくない。 ただ神月の手を見つめていた。 「ふざけているのかと思いました。 正直、怒りもおぼえた。 もしかすると彼女は、少し疲れていたのかもしれません。 僕といると楽しい、いやな気分になる瞬間がひとつもないと云ってました。 僕のほうもそれはまったく同じ気持だったんです。 これだけ心を波だたせずに過ごせるどうしなら、いつまでもうまくやっていける。 -話し合っているうち、次第に可能なことなのではないかと思って」「結婚したんだ」おかしな声がでた。 ええ、と神月は応えた。