東南アジアのミャンマーにつきまして。長らく軍事政権下にあったものの、著名なアウン・サン・スー・チー氏率いる民主化運動が実り、2015年に文民政権が誕生した。明るい話題に思われた。いや基本的には明るい話題だったでしょう。

しかし、そのミャンマーで「自称・テロとの戦い」とでも言いますか。イスラム系少数民族に対する迫害が起きていて、軍がその先頭に立つことで人気を回復しているという。


悪名高き軍がミャンマーで復活
Myanmar's New War on Muslims
2016年11月29日(火)10時40分
ボビー・マクファーソン Newsweek日本版

今、この国を統治しているのが誰なのかはっきりしない。嫌われていた軍の人気が急上昇しているのだ。なぜか。軍が長年悪役に仕立ててきた「敵」が再び頭をもたげ始めたからだ――現実はさておき、少なくとも人々のイメージの中では。イスラム教徒の少数民族ロヒンギャとの戦いを通じて、軍は政治的な力を取り戻しつつある。
(中略)
ミャンマー軍は最近、ロヒンギャの組織的な武装反乱が起きていると主張している。その主な舞台とされるのが、バングラデシュと境界を接する西部のラカイン州だ。先月、ラカイン州北部マウンドーの警察施設3カ所が、刀とピストルで武装した集団に襲撃された。警察官9人が死亡し、その後の戦闘でさらに兵士5人が死亡した。
(中略)
政府によれば、武装集団はパキスタンでイスラム原理主義勢力タリバンの訓練を受けたロヒンギャのテロリストだという。根拠とされたのは、身柄を押さえた一部の「実行犯」から(おそらく力ずくで)引き出した証言だ(スー・チーは後にこの判断を撤回した。証言者が1人にすぎず、信頼性に欠けるというのが理由だ)。


この引用部最後の記述からは、スー・チー氏はロヒンギャに対する迫害に待ったをかけているように見えます。しかし……?


「ミャンマーには2つの政府が存在している。文民政権と軍事政権だ」と、国際NGO「人権のための医師団」のウィドニー・ブラウンは言う。国防省や内務省、警察、移民・人口問題省といった重要機関は、今も軍が押さえているのが現状だ。

文民政権が軍に対して無力だという可能性以上に気掛かりなのは、文民政権が軍の行動に暗黙の了解を与えている可能性があることだ。スー・チーがロヒンギャについてどう考えているかは誰も分からないが、問題解決に動いていないとして批判されていることは間違いない。


スー・チー氏はミャンマーを、国民の権利が正しく尊重される民主主義国家にしようと運動してきたはずだ。が、この状況でロヒンギャ族の人権を守るべく強いリーダーシップを発揮しないばかりか、政権内から軍の動きを支持する発言が出てくるとしたら、どうか。最悪、スーチー氏にとって「ロヒンギャは国民ではない」のかも知れないし、少なく見積もってもスーチー支持者の一部は「ロヒンギャは追いだせ」と考えている様子だし、国民の一定数は「ロヒンギャとか怖い、付き合いたくない」と思っているんじゃないですかね。


民主化運動の旗手として、自由や人権を重んじる人間としてはスー・チー氏は「善玉」に見える。が、我々はスー・チー氏のことをどれだけ知っているだろう。もしかしたら我々は我々の理想をスー・チー氏に投影しているだけかも知れない(個人的にはヒラリー・クリントンについても同じことが言えるんじゃないかと思ってますが……)
そして、異質な者への不寛容は、世界のありとあらゆる国と地域で問題になっているらしい。ヨーロッパがシリアからの難民問題で揺れているからだけではなく、アメリカのかつての工場労働者が職を失っているからでもなく、それはもっと根深いところから世界中に広まっているムーブメントなのかも知れない。

不気味なことです。