私はエフゲニー・キーシンの弾く
ショパンが大好きなのですが、
神童と言われたのに受賞歴がないどころか
ショパコンに出たことさえないというのが
ずっと不思議でなりませんでした。
でもこの映像を改めて視聴して
なんだか腑に落ちた気持ちになりました。
若々しい演奏ですが、
ドスのきいた(笑)出だしは
顔にあどけなさの残る細っこい少年が弾く音
とは思えないほどの迫力がありますし、
ルービンシュタインのような明るく幸福な響きや
2楽章のドリーミーで甘やかな表現には
すでにキーシンらしい個性の片鱗が見て取れます。
ショパコンのファイナルまで勝ち上がって
そこで初めてコンチェルトを経験するという
ピアニストだって普通にいる中で、
キーシンはたった13歳で
コンサートでこの曲を演奏してしまいました。
すでに名は売れているわけですし、
受賞歴をステータスにするような
名声に執着する性格でもない限り、
コンクールに時間を割くよりは
コンサートで多くの聴衆と
楽しい時間を共有したい、
自分の演奏を望む人がいて
それに応える技能があるのだから
眼前の期待に応えたい、
と思うのは自然な気がします。
少なくとも、もし私が
才能あるピアニストだったら
そう考えると思います。
名声にこだわる性格ではないので。
コンクールのために準備することも
相当な集中と努力が必要で
精進につながる立派な行動ですから
コンクールに出ることが悪いと
言っているわけではありません。
これは良し悪しの問題ではなく、
価値観の違いであり
演奏家としてのスタイルの違いだと思います。
幼くして聴衆を満足させられる力を
自分が持っていると知ったキーシンは
コンクールに興味が沸かなかったのではないか。
自分も演奏を楽しみながら
聴衆を幸せな気持ちにすることのできる
コンサートの方に
自然と心が向いたのではないかと思うのです。
もしかしたらカントール先生の
方針だったのかもしれませんが、
キーシン自身もこのスタイルでやってきたことに
誇りを持っているようですし
(どこかのインタヴューでそれらしいこと言ってました)、
そうやってのびのびと披露される演奏を聴いて
ピアノの沼にハマった私としては
そうしてくれてありがとう!です。
萩尾望都先生の漫画から飛び出してきたような
ルックスの子ども時代でしたよね
