若すぎて垂れていない
けれど細くて柔らかな枝の先に
うす桃色のひらひらをつけて
朝の光を跳ね返しながら
微風にゆらゆらちらちらしているのを
その静かな賑やかさと華やぎに
見とれるように眺めていたのに
雨が降ってきてしまった。
風にまかせて揺らめく花びらの
残像を重ねながら
今は雫に濡れ寒そうに俯く
白い塊と背景の灰色をチラリと見て
懐かしいような 切ないような
なんとも言えない気持ち。
昔々これと同じような光景を
見たことがあるような気が
一瞬したけれど
そうではなくて
同じような気持ちになったことが
あるのだと思い至った。
なんと表現したらいいのか
わからないけれど
生きていることの喜びと
切なさと悲しみと寂しさと
途方にくれるような思い。
落ち葉と小石を踏みしめる小道で、
人気のない休耕田の用水路で、
赤土がむきだす造成中の空き地で、
ひとり静かに抱いた感情。
子どもの私でも同じ気持ちを
抱いたことがあったのなら
これは人間に本能的に
備わっているものなんだろうか。
静かな灰色の冷たい空の日に
ひとりでいると
なんだかへんになるね。
こんな時間、こんな日が、
自分は好きなのか嫌いなのか、
ずっとこの空気に浸っていたいのか
今すぐ逃げ出したいのか、
それさえもわからなくなる。
もし雨が音を立てて降っていたなら
この世界は壊れてなくなるだろう。
自分はどうなって欲しいのか。
自分はどうしたいのか。
もう少しだけじっとしていよう。