「では、今日の会議としてはこの辺で…。」


「そうですね、ではまた後日。」


「解散。」



 大人たちは席を立ち、静かに部屋を出るとそれぞれがいつもの彼らへと戻っていった。



 “不在着信3件”


 ある男の携帯の画面。うち1件は息子からのものだった。



「もしもし?電話何だった?」


「あ、いや、今日さ、母さんの誕生日だから何か買って来てくんねーかなと思って。俺はもうケーキ買ったんだけど父さんからも何かあると喜ぶだろーなと思ってさ。あ、でもあれだからね、忙しいならいいよ!」


「そうだな…せっかく今は日本にいるしな。何か買ってくよ。あ、別に忘れてたわけじゃないぞ。」


「わかってるよ、そんなの。って忘れてただろ?まぁいいよ。とにかくさ、今日は帰って来てよ。じゃ、ちょっと電車乗るから俺。じゃーね。」


「ああ。気を付けてな。」



 そうか。今日は誕生日なんだな。俺のいない間にまた歳を取って…。



 1年のうちほとんどの日数を海外で過ごす国際的な政治ジャーナリスト、サトウは、早めの夏季休暇ということで、3日前から日本に帰って来ているのだった。と言っても、何か重大な事件が起これば即出国ではあるが。家族は妻と高校生の息子、中学生の娘。日本にいる間は、なるべく家族と家で過ごすようにしている。



 花にしようか。ユリが好きだしな。



 その時、日本上空で起きた、とある小さな変化。それを知らせる電話が、サトウのもう1台の携帯を鳴らした。



「サトウさん、今解散したばかりですが、早速変化が見られたようです。そんなに規模は大きくないので、大丈夫かと思いますが…。」


「A-20か?またいつものやつだろ。もし大ごとになりそうだったら知らせてくれ。」


「はい。ではまた。」



 サトウは電話を切りながら、高くそびえ立つ塔に目をやった。ちょうど1年前に出来上がった、世界最高の高さを誇る電波塔である。いつ、どこからでも見える。青い空に良く映える、高い高い、真っ白な塔。天まで届く、リーチ・ヘヴン。



 さ、ユリを買って、シャンパンでも買って帰るかな。



 気だるい暑さの、よく晴れた午後だった。