- いつものように参内した俺は、執務室に向かう途中、ものすごい勢いで駆け抜けていくモノを見た -
「あれは・・・」
- 何年経とうと、俺の目は勝手に彼女を捕らえ、追いかけてしまう -
「宰相、一度わが家へいらっしゃいませんか。妻が腕によりをかけてご馳走を用意すると言っています。それに、娘も喜びますし・・ぜひ」
「失礼。朝議には少し遅れると伝えてください」
「は、・・・え?ちょ、宰相?!」
- 自分はもう敦賀蓮ではないのだから。別人なのだからと何度自分に言い聞かせようと、身体が、心が、彼女を求める -
「っく、ひっ・・ふえぇえ~・・・ダメなのに、なんで出て来ちゃうのよぉ~」
「・・・なにが、ダメなんですか?」
「!!!」
「王妃であるあなたが、どうしてこんなところで一人・・・蹲って泣いてるなんて、誰かに見られでもしたらどうするんですか」
- 目の前で、子どものように涙を流す彼女の姿に、懐かしさを覚えた -
「っ・・・だ、て・・・」
「・・・」
「泣いちゃ、ダメなのに・・・」
「そうですね。まずはなぜ泣いていたのか 「笑って、おめでとうって言わなきゃいけないのに・・・」・・・」
- あれから何年も経って、お互い大人で、王妃として振る舞う彼女の姿も知っているのに -
「め、めちゃくちゃに・・・しようとしたっ!」
「?」
「え、縁談なんかダメって、そんなこと言っちゃいけないのに・・・っ」
「縁談・・・?」
「蓮がっ・・・結婚するって・・・今日は顔合わせだって、でも、私っ・・・」
- しゃくりあげて、何度も詰まらせながら、それでも一生懸命に話してくれる -
「嫌だ・・・いやだよぉ・・・蓮、蓮、蓮。うぅぅ~~」
- 初めてあった頃の、幼い少女のような彼女の姿に、胸が締め付けられる。喉が詰まったように、うまく呼吸ができない -
「・・・・・・・キョーコ・・・」
- 彼女の涙を、早く止めてあげたいのに・・・俺を想って流してくれていることが嬉しくて -
「・・・これ・・・魔法の石・・・キョーコが想いを込めてくれたから、俺・・・」
「っ・・・れん・・・」
「今度は、キョーコの涙が早く止まるように、俺が想いを込めておいたから」
「っうぅ~~~~~~~」
- 久しぶりに触れた彼女の手のぬくもり、涙を一滴でさえ愛しい -
「キョー 「はい。そこまで」 !?!?」
「2人とも、ここがどこだかわかってんのか?」
- 十年以上、抑えていたものが溢れて、自分でさえどうすることもできなくなった感情が、急速に冷やされ、現実に引き戻された -