1999年刊行。インタビューを加筆訂正して文章化したもの。 十七年前で吉本
75歳。頁数も少なく、内容も大したことなく遅読の俺でも小一時間で読めた。吉本
隆明の少年期、少年A事件、いじめ等々。1996年に南伊豆で水泳中に溺れ、一命
を失いかけた。これ以降、口述筆記によるエッセィが増えた気がするがどうだろう。
吉本の少年期の一大事件は悪ガキと一緒にいた環境から小学校5年の時に、父親
勧められ上級の学校入試のため今氏乙治が運営する学習塾に通うことになった事であ
る。彼にとっての画期は有名な「少年期」という詩に描かれているので興味のある人は読
んでみてください。まあ、学習塾に行ったことが、大きな要因かどうかは分からないが、吉本
は彼のいう「大衆」から離脱することになる。昔はそりゃ大変ですね思ったが、今は吉本の言う「
大衆」なんて最初からなかったんじゃないかと思うし、あってもなくてもどうでもいい。
少し繊細な人間ならだれでも自分は集団にはそぐわないと思っているし、青年期の三島由紀
夫が抱いたゲイであることの孤絶感、色川武大のナプレコルシーの疾病がもたらす世間からの
外れ者であるという認識に比べて、自分は知識人だから(吉本は自分を知識人とは言わないが)
大衆から隔絶してるんだってのはだからどうなんだいという程度のものだろう。
少年A事件に関しては、愛情のない母親に育てられのが原因だという意見を開陳してるが、そ
りゃ誰でも分かるし、援助交際でも、どーたら、こーたら言ってるが、援助交際なんてマスコミの
ネタでどういう実態もあるもんじゃない。つい最近も若い女性の五人に一人が風俗のバイトし
てるとテレビでやってたが、そんなあるわけない。そんなどうでもいい事、七十五になるジイサン
がペラペラ喋ることでもない。
常々、不思議に思ってたのは吉本が徴兵されなかったことだ。三島由紀夫と吉本隆明は
同学年であるが、三島由紀夫は学習院高等科在学中の十九才に徴兵検査を受け、貧弱
な体で兵士としては不合格で戦争にいかなくて済んだ。吉本は徴兵検査を受けたことが
ない筈で、ここら辺の事情を編集者に聞いてほしかった。
まあ、身にならない読書で、ひどい感想しか書けない。
界隈で頭がよくて顔のきれいな子というのは、芥川龍之介風にいえばたいてい中産下層
階級から中産階級の、クラスに一人か二人の子だった。そういう子は、服装もなんとなく整っ
ていて、わたしたち悪ガキから見ると、わがままで物怖じしない澄ました(ガキたちは「スカ
した」といった)ところがあった。
スカすという言葉を俺は中学校に入学してから初めて聞いた。良く不良っぽい子供が使って
いた。その後、大学くらいになるとこの言葉は頻繁にきくことがなかったが、時々、話してる人
も古いなあと笑いながら口走っていた。その後、このスカすという言葉は命脈を保っているの
だろうか。それにしても戦前から、この言葉があるとはね。
この本で面白かったのは、ここだけ。