書を捨てよ町に出よう | やるせない読書日記

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書評を中心に映画・音楽評・散歩などの身辺雑記
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 昔、タモリの芸の一つに寺山修司ごっこというのがあった。「日常という親や教師など一般的な


権威に縛られているものがあるわけなんですが、僕たちわあ、そういった存在をですね、捨てて


新しい価値のもとにですねえ」とか云って青森訛で寺山修司のものまねをする芸である。これ


いつ頃、こんな事やってたのか良く覚えていないが72、3年の頃でしょうかねえ。浅井信平と酒場


で延々と寺山修司ごっこをやっていたらしい。まあ、そんな具合に寺山修司って何か底が浅く、田舎


者でこ難しいことを話す奴とういうイメージだった。「アングラ」の主催者という事も世間に揶揄、嘲笑


される存在だったかな。


僕もずっと寺山修司についてはそんなイメージだんだが、彼の詩人としての優れた詩(俳句や短


歌も勿論詩の含まれる)に知るにつれて大変な人ではないかと思うようになったが、この映画は、


元の寺山の評価に戻るかな。


 「トマトケチャップ皇帝」「田園に死す」「草迷宮」に比べて、この映画は数段、落ちるのでは。


 71年公開の懐かしのATG作品。寺山初の商業映画なんだが、芸術映画の約束通り意味がよく


分からない。出鱈目な話の骨子は大体、以下のようなものだ。 祖母、父、私、妹の四人家族。祖母


(キングコングの梶原に似ている)は万引きの常習犯。父親は戦争に行き、今はプラプラしている。昔は


屋台でラーメン屋を営んでいた。全然、権威のない父親。戦争に行って人を殺したの負け犬と息子に評さ


れている。妹は如何にもベタな設定で、自閉気味で兎にしか心を開いていない。この家庭は貧しいはずだが


息子である私は浪人生。昔、本当に貧乏だったら倅はすぐ働いたし、引きこもり気味でプラプラしてる娘も


いなかった。兎がどうのとかアンニュィなこと云ってないでみんな働いていた。


 馬鹿々しい設定ではある。どう見ても当時の生活とはかけ離れた設定だと思う。そこが寺山修司の「天井


桟敷」なんだが。登場人物全部にリアリティなんてないが、特に父親は二十二、三歳で70年当時で47歳くらい


だとしても、長髪で若く見える。昔の僕たちの父親はああいう髪型はしていなかった。


 話の展開として私が知り合ったプチブルの大学生の生活の対比がある。私の先輩のようだが(何回か


DVDを見たが関係が良く分かなかった)彼は私と違って金もあり女にも不自由せず青春を謳歌している。


先輩の所属する大学のサッカー部に私も顔を出す。


 先輩に連れられて私は歌舞伎町の娼家を訪れ、童貞をすてる。寺山得意の「劇」の分解が行われ、私


は映画の私ではなく青森から映画に出るために上京した「私」の土俗的な青森の思い出がインサートさ


れる。娼婦の部屋のカーテンを引くと青森の田んぼの風景が出現する有名なシーンもある。


 祖母に頼まれた隣家の朝鮮人(いかにもな展開)に兎は殺されてしまい、放心した妹は、サッカー


部のシャワー室にまぎれ込み、部員たちに輪姦されてしまう。その間、私は何もすることができない。


 その後、妹は先輩の女になりプチブルの生活を愉しむようになる。そして私は父親の自立のために


屋台を盗むが捕まってしまうのがラストになる。 


 いくら70年でもこんな馬鹿馬鹿しい事はありはしなかった。浪人してる脛かじりの息子が親父を自立


させるために、屋台を提供するなどというトンマ話、成立するわけないだろうが。


 例によって「劇」の分解作業は行われていて、「息子」は映画の中の役と、東北から出てきた「現実」の自


分が無秩序に混合していてる。


 いつものことだが。冒頭で息子が観客に津軽弁で喧嘩を売ったりする。


 だが、固い事、云わないで上記の粗筋に無秩序に挿入されるイメージのコラージュを楽しめばいいのだ。


 傷痍軍人が都電の路線をゾロゾロ歩いたり、売春宿に浅川マキが娼婦で佇んでいたり、部屋を間違える


と六十歳くらいのメガネをかけたばばあの売春婦が裸で客の相手をしている。ピンク色の卑猥な画面で語ら


れるホモの恋人募集。当時、バリバリだった丸山明宏の異形の美。おお、1970年の東京、まだマルクス主


義による人間の全的解放が盲信としても有効性があった時代はこんなにも美しかったのだろうか。


 プロパンガスが板張りの貧しい家々に備え付けられている光景。歌舞伎町のうっとりする美しさ。


 デジタルリマスターされたフィルムの発色が美しい。

 

映画の最後で息子がこの映画はどうのこうのと再び語り出すが、こういうの何回も見ると辟易する。


本当に馬鹿らしくなる。


 もういいですわ。こういうの。