池袋西武のリブロで図書券で購入。吉本隆明の住居の変遷史。もう少し内容があるかと思ったが大したこと
はなかった。吉本の生家跡を尋ねてみたいと思っていたので場所の確定には役立った。学生の頃、この本に
も書いてある団子坂上の吉本の家を見物に行ったことがある。小さな建売の家だったが当時の僕の家よりは
良かった。路地の奥にひっそりと建っている家だった。それから吉本は昭和五十五年(1980)に本駒込三丁目
の家に移る。埴谷雄高との論争の時「シャンデリアのある家に住んでいる」と言われた家だ。延べ132.2平方
メートルで一階は和室10畳、洋室7畳、DK10畳、二階和室8畳、洋室8畳、洋室7.5畳である。まあ広い家と
言えるが僕の家もそんなに変わらない。功なり名を遂げた人物がいい家に住んだって構わないだろうと思う。
左翼系だった作家や思想家が貧乏でなければいけないという事はない。だが80年代頃からか、吉本はアンアンに
出たりY’Sの服を着るようになった。どう考えてもアンアンがまともに吉本を思想家として取り扱っていたように思え
ない。ちょっとアンアンって知的でおしゃれでしょつう感じがみえみえで何かいやだった。吉本くらいの大家になると
誰も諫言できなかったのだろうか。アンアンとか「鳩よ!」に出ているのはいい印象はなかった。
十年くらい前、散歩で谷中の三崎坂を下りたあたりで、汚いママチャリに乗っている黒いY’Sの服を着ているおやっさん
に出くわした。吉本隆明だった。噂どおり、いかりや長助に似ていた。全然Y’Sが似合っていなかった。
僕は若い頃、ヨシモトリュウメイがこんなに有名になるとは思わなかったし、吉本の身辺や経歴がこれほど知られるよう
になるとは思わなかった。まして娘が流行作家になるとは!この本では吉本の肉親のことが色々書かれている。確かに
作家の思想や作品を理解するのには作家の生活も理解の助けにはなるが、反面第一義的には著作であり、「共同幻想
論」や「言語にとって美とは何か」のより良い把握に吉本の兄弟の消息は必要だろうか。何か市井の人のプライバシーを
覗き見るようであまりいい気持ちはしない。
「エリアンの手記と詩」のミリカのモデルについても書いてあり、門前仲町のいいところのお嬢さんで白百合女学院生だっ
たらしいが、ミリカのモデルがいるとすれば予想通りで、だからどうよ。と思ってしまう。作家と親しい編集者の間で普段交わ
されている内幕話を聞かされている気分になる。
有名になった人は段々、プライバシーがなくなるのは仕方がないことなのか。でも作家の生活を知るのは作品のより深い
理解のためだという前提を忘れてしまうと単なる覗き見趣味になってしまう。
それにしても本書の帯の「生活者」というコピーは今では古いなあと思う。