五月の陽気だそうで暑いくらいである。午前中には三分咲きくらいの桜が午後には七分咲きのように見えた。
桜は美しいが少し不気味な感じがする。出張で大山まで。上着は暑くて着れない。花粉が出ているようで目
が痛くなる。左の視界に半透明のミジンコのようなものが上下左右に不規則に浮遊しているのが見える。
年をとると水晶体などが衰えてきてこんなふうになってくる。時々いらいらすることがある。そういえば芥川
龍之介の「歯車」という短編で視界に半透明の歯車が浮かぶというのがあった。家に帰って本を見るとこん
な内容。
のみならず僕の視界のうちに妙なものを見つけ出した。妙なものを?ー--と云うのは絶えずまわっている
半透明の歯車だった。僕はこう云う経験を前にも何度か持ち合わせていた。歯車は次第に数を殖やし、半ば
僕の視野を塞いでしまう、が、それも長いことではない、しばらくの後には消えうせる代わりに今度は頭痛を
感じはじめる、
いい文章である。さすが芥川龍之介だ。でも不遜なことを云えばこの歳になると芥川龍之介はちと食い足りない気
もするが。用が終わり駅近くの書店で「平凡パンチの三島由紀夫」とサドの「恋の罪」を買う。