「先輩、『高原へいらっしゃい』ってドラマ知ってます?」
水口君はずいぶん前から僕にそう尋ねていた。
「主演が田宮二郎なんですよ」
「古いね」
「70年代ですね」
「どんなドラマ?」
「田宮二郎が高原のホテルを再建するドラマなんですけどね」
「へー」
「舞台がね、野辺山ってとこなんですよ」
「ああ、日本最高地点の駅ね」
「よく知ってますね」
「となりの清里には子供の頃から何度も行ったからね」
こんな会話を何度したことか。
「田宮二郎がいいんですよ」
「二枚目だしね」
「naotoさん、仕事辞めたら高原でホテルとかやりませんか?」
「なんだよそれ?」
「似合うと思うんだよなあ」
「水口君、自分でやればいいじゃない」
「いや、naotoさんやってください」
「考えとくよ」
だいたいこんな感じ。
年に何度か思い出したようにこんな会話をしつつ、『高原へいらっしゃい』を観ない歳月は積み重なっていった。
「一度先輩に観てほしいなあ」
「まあそういうことだよね」
YouTubeで観賞できると知り、先月ついに観た。
全16話、一気に一週間ほどで観た。
田宮二郎の自然な笑顔の清々しさ、前田吟の快演、由美かおるの若さ、杉浦直樹や大滝秀治などの多彩さと多才さ。
そして僕の大好きだった益田喜頓!
少し憂いを含んだ笑顔、優しい声、軽妙で色気のある動き、訥々としながら剽軽なせりふ回し、端に映っているだけで画面が落ち着く立ち姿。
本家バスター・キートンと益田喜頓は、僕の日米ベスト・コメディアンかもしれない。
素人ばかりでスタートした高原のホテルで、どこにも負けない一流料理を供する老シェフ。
益田喜頓をおいてこの役を輝かせる役者がいるか。
というわけで、福井への道中、水口君との会話のネタに不自由はなかった。
いや、僕が運転して福井に日帰りで行ってきたんですよ。
それについてはまた後日。
とりあえず久し振りの水口君、僕のリクエストに応えて田宮二郎のポージング。
「高原へいらっしゃい!」