朝までの雨が上がり薄日が差し始めた庭、鳥が数羽、取り残しの柿をついばみにやって来ている。
NHK杯は青嶋未来五段の早指しで、どうやら大勢決した様だ。
両親を連れて紅葉でも観に行こうかと、椅子から立ち上がったその時だった。
今、庭で何か動いたぞ。
柿の木の下あたりだ。
トムが生きていれば、「また逃げ出したな」と思うところだ。
近所の野良猫だろうか。
柿の枝から飛び立った鳥たちが「キーキー」と奇声を発している。
そおっと近づいた。
落ちた柿の実を一生懸命食べている。
狸だ。
数年前に無人化された近所の測候所を根城にしているとは聞いていた。
夜陰の中に光る眼を見たこともある。
家の庭の雪の上に足跡が付いていたこともある。
タヌ公め、とうとう現れたな。
目が合ったのも気にせず食事を続けていたタヌ公だが、僕の様子に気付いた両親が隣の家の窓を開けると、食べかけの柿を咥えてひょこひょこと庭から出て行った。
後ろ姿に何となく愛嬌があった。
珍客に、落語よろしく「タヌ公」と名付けようかと思ったが、もしメスならそれは気の毒だ。
どちらでもいい様に「たーたん」と名付けることにした。
我が家の柿が気に入ってまた来るだろうか。
雪が降る前に来ればいいのに。
これから暫くは時々庭を見て、「たーたんチェック」をすることになるな。