春を背負って | 今日もこむらがえり - 本と映画とお楽しみの記録 -

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備忘録としての読書日記。主に小説がメインです。その他、見た映画や美術展に関するメモなど。

2014年 日本
監督: 木村大作
原作: 笹本稜平 『春を背負って
 
 
先日読んだ原作小説『春を背負って』がとても良かったので、早速映画も観てみました。敢えてキャストや監督などの映画情報はあまり見ないまま観始めたのですが、オープニングの大自然を映し出すカメラワークと音楽に、ついこの間観たばかりの「追憶」と同じニオイを感じました。チェックするとやはり!日本映画界の名キャメラマンとしてご高名だという木村大作さんが、監督・脚本・撮影を手掛けてらっしゃいました。
 
 
まず一番の特徴は、原作とは大分内容変更されているということ。梓小屋ならぬ「菫小屋」のスタッフ3人は長嶺亨(松山ケンイチ)、ゴロさんこと多田悟郎(豊川悦司)、原作では美由紀にあたるポジションには何故設定だけでなく名前もわざわざ変える必要があったのかは謎ですが、高澤愛(蒼井優)。場所も原作では奥秩父ですがよりピクチャレスクな景色を求めて立山連峰へ。梓川の近くではなくなったので「梓小屋」の名称変更は、まぁわかるんですけれど。
 
 
山小屋があり、父親(小林薫)の死後にサラリーマンをしていた息子が引き継ぎ、3人体制で運営し、母親の菫(檀ふみ)は麓で民宿経営。の骨子は原作と同じなんですが、彼らにしてもキャラ設定やエピソードはほぼ全部アレンジされていて、その他小説にいる人たちが登場せず、逆に小説には存在しない人たちが登場します。キャストも皆、実力も人気もある名優揃いですしだいたい好みの顔ぶれですが(蒼井優さんだけ、他意の無い好き嫌いでいうとあまり好きではないけれど)、原作のイメージと(これは全員が勝手にイメージしているものだから別にいいのですが)設定が違いすぎて、小説の映画版と思って観ると大いに違和感^^;。
 
思うに、小説の世界観を忠実に映像化しようという意図はなく、小説の骨子を借りて木村大作さんがイメージを膨らませて創り上げた、あくまでも大作ワールドの映像化。幸いにも?設定も個別エピソードもことごとく映画オリジナルバージョンなので、あ、これはある意味別物なんだな、と早めに気持ち切替えちゃえば、小説は小説、映画は映画、似てる部分もあるけど全くの別物として楽しめます。小説の内容にこだわっていたら、ガッカリしか残らないリスク。もし、小説を先に読んでいるなら、いっそ無関係の映画と最初から割り切って観てください。もしまだ小説も映画もみていないならば、先に映画を観てから小説を読むのがお勧めです。
 
 
小説にはない、愛の洗髪シーン。ドキっとする亨。これは、サービスなのか何なのか?(笑) 愛と亨に関るシーンはラストの”あはははは””ぐるぐる”といい、かなーり古いセンスのベタを感じます^^;。以下、小説ファンの軽い心構えの為に大きく違う点を多少書きとめておきます。
 
小説では、右も左もわからない新米小屋主の亨が一人でスタートし、そこへ不思議な縁でゴローさんが現れ、次いで最初は登山客のひとりとしてすれ違い後に従業員として美由紀が加わり、ゼロからだんだんと梓小屋が形作られていますが、映画ではゴロさんも愛も既にいて菫小屋の既存のコミュニティに、後からポンと亨が加わる形です。なんなら、小屋経営に反対のスタンスの母親ですら積極的に小屋に協力して参加しているくらいです|ω・)。
 
短編6本分を1本の映画に纏めようとゆうのだから、最初の構築部分はいっきに省いてありもの前提でのスタートというのも、アリかなとは思います。が、小説で「春を背負って」のタイトルの意味するところが分かった瞬間のあのカタルシスと言い知れぬ感動が、かなり薄れるというか映画では正直なぜ「春を背負って」というタイトルなのかはよくわからないのが個人的な残念ポイント。そもそも、別に6作品纏める必要はないんだから、ゼロからスタートでだんだん増えてく仲間と出来上がっていく小屋の大勢に絞ってもいいと思います。
 
最初の始まりの部分を大幅ショートカットした割には、それ以外のエピソードが充実しているわけでもなく、なんだか薄いまま終わってしまった感じなのも残念さを覚える理由。やりたいこと、言いたいことはだいたいわかるんですけれど・・・思うに、木村大作さん、自分のイメージを上手く脚本に落とし込み、手ごたえのある内容に構築するスキルはいまひとつ・・・もしくは、まだ慣れないため未熟・・・なのかなぁ?と大御所に向かって失礼な感想を^^;。
 
 
原作にはいない、亨の幼馴染で家具職人の中川聡史(新井浩文)も自分の夢や理想と家族を養う難しさに悩んでいたりしながら、菫小屋のファミリーとして溶け込んでいきます。小屋の名前の由来と思われる亨の母親も、元気なおかん的イメージから優しい美人さんのマドンナキャラに。逆に愛は元不倫女子という設定。あ、ちなみに亨は理系男子ではなく、為替のディーラーで上司に目をかけられた稼ぎ頭でしたが最近は読みが上手くいかず9億円の損失をはきだし中。そんな中、マネーゲームに身を置くことに虚しさを覚えて転職決意。まぁ、みようによってはなんだかなって思わなくもない設定変更なんですよね。
 
亨の父親の死因も、交通事故ではなく自分の命と引き換えに遭難者の命を助けたことに。脳梗塞からカムバックしたゴロさんが語る鶴の話など木村大作さんオリジナルのメッセージも鑑みて、人間の優しさや思いやり、愛情(美由紀の名前が「愛」になったのもそういうわかりやすさかな、と思ってみたい)、自分の「居場所」、絆で結ばれる「家族」、そういったものを描きたかったんだろうな、と感じます。
 
 
私は前作小説が大好きなもので、やっぱり”残念”の思いをぬぐいきれなかった・・・全く別のワールドだと割り切って観ても、それならそれで”言いたいこと””伝えたいこと”のうわべの箇条書きをなぞっただけという印象が強くていまひとつ入り込めなかったから、”残念”の心境を打ち消せなかったような気もします。
 
が、本物の自然の美しさを余すところなく映し出したいというこだわりで1年かけて四季折々の風景を撮影しただけあって、周囲の自然風景は迫力の美しさ。オープニングとエンディングはザ・木村大作ワールドです。逆に言えば、間のストーリーはなくても、最初と最後のイメージ動画だけでも十分。やはり餅は餅屋。撮影技術は木村大作さんだけが実現可能ではないか、と思わせる他者の追随を許さない素晴らしさです。
 
観おわった後の感想と余韻は、景色、綺麗だったな~。映像と音楽で癒されるな~。と、それはそれで、ウットリ余韻に浸れた映画でした。
雄大な立山連峰の豊かな大自然で目の保養。それが私にとってこの映画の最大の魅力です^^。そういうのも、アリで。
 
 

 

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