近松心中物語(2018.01 新国立劇場) | 今日もこむらがえり - 本と映画とお楽しみの記録 -

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近松心中物語  いのうえひでのり × 堤真一 × 宮沢りえ
(WOWOW放送時の番組名)
 
収録: 2018年1月31日 新国立劇場(中劇場) シス・カンパニー公演
作: 秋元松代
演出: いのうえひでのり
 
〈キャスト〉
堤 真一(亀屋忠兵衛) ・・・ 飛脚屋「亀屋」の養子
宮沢りえ(遊女梅川) ・・・ 遊女
池田成志(傘屋与兵衛) ・・・ 小道具商「傘屋」の婿養子
小池栄子(お亀) ・・・ 「傘屋」の一人娘、与兵衛の妻
市川猿弥(丹波屋八右衛門) ・・・ 忠兵衛の同業者で友人
立石涼子(亀屋後家妙閑) ・・・「亀屋」の女主人、忠兵衛の義母
銀粉蝶(傘屋お今) ・・・ お亀の母親
小野武彦(槌屋平三郎) ・・・ 梅川を抱える遊郭の主人
 
 
公演パンフレットを見てちょっと気になっていましたが日程その他の取捨選択の結果スルーした舞台。後から知人が観に行ったことを知り、すごくよかったと聞いたのでWOWOWでの放送を見つけて録画しました。今年の公演なのにもう放送!早!ラッキー。そしてなるほど、これは観に行ってもよかったかも。
 
元々は劇作家の秋元松代さん原作&蜷川幸雄さん演出で有名だった演目らしいですね。生前の蜷川さんの「いのうえ演出の近松心中物語がみたい」という言葉を受けての新演出・新キャストによる再演が実現したようです。いのうえひでのりさんと言えば、去年『髑髏城の七人』のシーズン・コンプリートによって初体験した人気の劇団☆新感線を主宰する演出家(ってことも去年覚えたのですが^^;)。
 
秋元松代さんによる『近松心中物語』は、世話物の第一人者、近松門左衛門の『冥途の飛脚』『ひぢりめん卯月の紅葉』『跡追心中卯月のいろあげ』をベースにしながら大胆に再構成して独自の物語に仕立てた作品とのこと。歌舞伎や浄瑠璃でお馴染の心中ものと、スピーディーでロックで賑々しい劇団☆新感線と、私の中でなかなか一致するイメージがなかったのでどんな風になるんだろうと、その辺も興味津々。
 
 
時は元禄、ひとときの享楽に身を預ける人々で賑わう大坂新町。飛脚屋亀屋の跡継ぎ養子である忠兵衛(堤真一)は奉公人が拾った封書に1分のお金が入っていたため、差出人である遊郭の主人・槌屋平三郎(小野武彦)を訪ねます。たった1分であっても義理堅くわざわざ届けてくれた忠兵衛の人柄に感心した平三郎は歓待したがり、道中で一緒になった忠兵衛の同業者で友人の八右衛門も誘いかけますが堅物で女遊びには無縁の忠兵衛は固辞しそのまま立ち去ります。が、去り際に出先から戻ったところの美しい遊女、梅川(宮沢りえ)とすれ違い、一瞬無言で見つめ合います。忠兵衛はその一瞬で心を奪われ、吸い込まれるようにして郭の敷居をくぐります。
 
 
慣れぬ郭で緊張していると、遊び慣れした八右衛門が遊女たちを引き連れて姿を見せます。忠兵衛がいることに驚いたりからかったり励ましたりと陽気ですが、忠兵衛が梅川を指名したと知ると、梅川は自分のごひいき筋の旦那の声掛かりだから無駄だと忠告。ですが予想に反して、梅川が姿を現し忠兵衛を部屋へといざなった為、八右衛門は唖然。この日から、忠兵衛と梅川は切っても切れない深仲となり、梅川に身も心も溺れた忠兵衛は三日とあけず梅川の元へ通い詰めます。
 
遊び慣れない真面目な男がいきなり女性に溺れると周囲が見えなくなる、その危険なパターンの香りがプンプン(;゚Д゚)。義理の親子ながらも忠兵衛の人柄を愛し実の息子のように可愛がる「亀屋」の妙閑(立石涼子)は忠兵衛の郭通いにはまだ気が付かず、母親らしく結婚を勧めますが梅川に夢中な忠兵衛はお見合いを拒否します。忠兵衛の様子を心配した八右衛門は遊びとホンキのけじめをわきまえてホドホドにしろ、と忠告しますがそれにも聴く耳を貸しません。
 
 
お小遣いを全て梅川に注ぎ込んで蜜月に酔いしれる忠兵衛でしたが、ついに終わりの予感。梅川に見受けの話が持ち上がります。相手は、かねて梅川に執心していた、八右衛門のごひいき筋の成り上がり者です。その本命より先に自分が梅川を見受けしてやりたい忠兵衛ですが、繁盛している飛脚屋の跡取りとはいえまだ見習い中の養子。とてもそれだけのお金を用意する甲斐性はまだありません。梅川も、遊郭に身を置く女として覚悟は座っているものの、忠兵衛との愛を知ってしまったが為に、身を引き裂かれるほどの辛さ。でも、どうすることも叶いません。ひたすらおのが無力な身の上を長き哀しむ恋人たち。
 
 
どうしても梅川をあきらめきれない忠兵衛は、どうにかして手付の50両を用意します。「槌屋」の主人平三郎とその身内も、忠兵衛の人柄に惚れているし、梅川の気持ちも知っているので気乗りのしない成金者の元へ梅川を差し出さずに済むと大喜びです。が、そこへ旦那の使いの八右衛門が見受け金の全額300両を持って現れます。ぬか喜びもつかの間の絶体絶命。すると忠兵衛は、自分の養子縁組の際に実家が用意した支度金(持参金のようなもの?)だと言って、同額の小判をばらまきます。これで梅川の見受け先は忠兵衛に。
 
ここまでしてもらえて梅川は女冥利につきると、皆大喜びの中、複雑な表情の梅川と思い詰めたような忠兵衛。そして、忠兵衛がぶちまけた小判を包んでいた袱紗の側にあった紙切れに目を止めて拾い上げ中身を見た八右衛門も、いわくありげな表情で、そっとその場を立ち去ります。
 
 
進退窮まった忠兵衛が持ち出してしまったのは、やはり店のお金。この後代官屋敷まで届けにいくところだった預りものの他人様のお金だったのです。偶然にも見受料に見合うだけの大金をたずさえていたのが不運というべきか。梅川も、そんなことだろうと察しがついていました。自分のしでかした取り返しのつかないことに恐れおののく忠兵衛と、寄り添う梅川。
 
「飛脚」というと、書面や伝聞の配達というイメージが強いですが、荷物や金品も大切な取り扱い品なんですね。特に、銀行や電信送金なんてなかった時代、幕府や奉行所を行きかう「御用金」の運搬は忠兵衛の「亀屋」のような飛脚屋にとって重要な仕事だったんですね。
 
 
お上の御用金を横領してしまった忠兵衛は大罪人。間を置かず事実は明るみになり、打ち首は免れません。罰を覚悟した忠兵衛ですが梅川だけはなんとしても救いたい。人目を避けるようにして、梅川の実母がたった一人暮らす故郷へと逃避行が始まります。
 
 
近松の心中物と言えば、女性が頭にかぶった白い布の端を口で噛む、という構図が定番のイメージですが、そういえばそれって元々はなんだっけ?追いつめられるところまで追い詰められた2人は、死でもって愛を貫く決意をします。舞台だし紙吹雪の雪だけれども、まるで本当に雪の中を敗れ傘と草鞋で歩いているかのような錯覚を覚える、残酷で美しいシーン。
 
忠兵衛と梅川が出会って見受け事件が持ち上がるまで40日、そこから逃亡し心中するまでが20日。『ロミオとジュリエット』ほどではないものの、なかなかのジェットコースター転落。大人になった分、主人公2人への感情移入よりも、残された忠兵衛の義母と「亀屋」の先行きを想ってセツナイヤルセナイことこの上ないです(/_;)。
 
 
ところで、この舞台では忠兵衛と梅川の他にもう1組のカップルの物語も軸になっています。小間物屋「傘屋」の箱入り育ちの一人娘、お亀(小池栄子)と婿養子の与兵衛(池田成志)です。与兵衛は絵に描いたようなだらしのないダメ旦那ですが、惚れた弱みの可愛さが溢れんばかりのお亀。しっかり者の母親(銀粉蝶)は、大事に贅沢に育てた娘がダメ男に惚れきった様子に呆れながら情けない婿に次々くりだす教育的指導(笑)。新町で淹れ上げていた浮気相手の遊女との関係を清算し、郭に手をまわして与兵衛を出入禁止にしたりとのやり手ぶり。
 
 
一見特に関係のなさそうな忠兵衛&梅川と、与兵衛&お亀がどうかかわってくるのか。実は忠兵衛に手付金50両を融通したのは与兵衛でした。2人は同郷の幼馴染だったんです。当時は家督を継げるのは長男だけ。次男以下の男子は、他の跡継ぎのいない家へ養子として出されるか、跡取り娘の婿養子となるか、奉公に出るしかなかった時代。共に子供と夫の違いはあれど「養子縁組」で大阪へ出された忠兵衛と与兵衛は互いに強い絆でむずばれた間柄。普段は情けなさ満面の与兵衛の、忠兵衛へみせた男気溢れる友情が格好良くてお亀ちゃんがベタ惚れしちゃう与兵衛の人柄の良さが伺えます(*‘ω‘ *)。
 
 
下手人となってしまった忠兵衛に、手を貸したとして与兵衛も町奉行所の探索の対象に。店の金に手を付けたことで義母に追放され追われる身となった与兵衛を、それでも思い切りがつけられず家出して追いかけてしまうお亀。与兵衛をきっぱりと追放しながらも、逃亡直前にこっそり与兵衛の隠れている場所へお金を放り投げるお義母さんの複雑な親心もまた、人情染み入ります。
 
 
心中物の主人公らしくシリアルな忠兵衛と梅川に対し、コミカルさ満点のちょっとバカップル風な与兵衛とお亀(´艸`*)。『曽根崎心中』の舞台となった蜆川(しじみがわ、曾根崎川の別名)までたどり着いた2人。当時絶対的な人気戯作家だった近松門左衛門の大ファンなお亀は、主人公のお初と徳兵衛に年も丁度同じ自分達夫婦の姿を重ねてやや少女趣味的ロマンシズムにウットリ。
 
心中といえば諸事情で現世では夫婦になることが叶わない男女があの世で結ばれようと死を選ぶ悲劇。本来夫婦であるこの2人には関係のないはずですが、公儀に追われる身の夫、その夫を追いかけて家出した妻、二度と家に戻れぬどんつきの2人・・・これぞお亀の求めていた究極浪漫ではないですか^^;。
 
 
呑気な2人もついに追いつめられて心中を覚悟、いざ・・・の切羽詰まった場面でも、どうしてもコミカルが勝って一筋縄でいかない(´艸`*)。
最後の最後までいつまでも笑わせられてしまいます。なんて愛しい2人・・・できればずっと元気で仲良く幸せになって欲しいのですが・・・と思ってしまいます。
 
 
ひょうひょうととぼけた感じのダメンズ与兵衛役の池田成志さんとの呼吸もピッタリ、小池栄子さん演じるお亀ちゃんが本当に可愛らしくて愛らしくて、だんだんこのカップルに夢中になっていきます。コミカルパート担当、というだけでなく、明るくてひょうきんな2人ですが、人生の悲哀、人間の業、そういったものもしっかり内包しているので魅力倍増。うっかり、主役の2人が霞んでしまいそうな勢いです。いや、個人的には断然お亀ちゃんファン!( *´艸`)
 

劇団☆新感線のいのうえひでのりさんらしく、天界がスピーディーで飽きさせない一方で、若干展開があっさり早すぎて忠兵衛と梅川が恋に落ちてどっぷり悲恋の沼にはまってしまうまでの演出がなさすぎて、それが主役2人への感情移入が若干追いつかなかった原因かも。とはいえ、王道中の王道の2人なので、クドクドとその辺を表現しても野暮ったいだけのような気もしてきます。展開も心理も周知のパターンなのだから、モタモタした説明は省いて観る側がそれぞれに想像を働かせるほうが潔いかも、やっぱり。と後から思いました。
 
2組のカップル、4人の男女だけでなくその周辺の人たちも芸達者で贅沢な配役で、それぞれの立場の様々な感情が推し量られて、心の深いところが刺激されます。与兵衛の最後も、人間らしい弱さと強さがよく表れていました。そして、オープニングからずっと、とにかく舞台美術が素晴らしく美しく、夢幻の世界観を演出していました。劇団☆新感線とは違ったベクトルの、でもやはりさすがと感じさせる、音響演出による世界観の底上げもまた素晴らしかったです。
 
一度観たら満足して、録画削除するつもりだったのですが期待以上の美しく見応えのある舞台だったため、そのまま保存用ハードに残すことにしました。独特の世界観が幽玄で印象深かった「百鬼オペラ『羅生門』」に続いて、2つめの保存して何度でも観なおしたい舞台となりました。