モーリス <4K> | 今日もこむらがえり - 本と映画とお楽しみの記録 -

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備忘録としての読書日記。主に小説がメインです。その他、見た映画や美術展に関するメモなど。

1987年 イギリス
原題: Maurice
監督: ジェームズ・アイヴォリー
原作: E.M.フォースター 『モーリス』


いつか、4Kデジタルリマスター化して再上映またはソフト再販しないかな・・・と密かにずっと祈り続けていた映画。「君の名前で僕を呼んで」のヒットで再びジェームズ・アイヴォリーの過去作品が注目されるチャンス到来!と密かに期待していたらやっぱりキタ!(≧▽≦) レンタルでしか観たことがなかったので、スクリーンで初めて観られる・・・!浮足立って連休始まるや否や、劇場へ向かいました( *´艸`)。

E.M.フォースター&ジェームズ・アイヴォリー。最愛の、最強の、最高のコンビネーション。そのうちフォースター&アイヴォリーだけの祭りをしようかと思っているほど。私が映画を好きになった、というか、監督とか俳優さんを意識して観る、あるいは同じ映画を何度も観るという行動を覚えた最初のきっかけは、高校生の時に友達から借りた「眺めのいい部屋」のVHSでした。そこから遡って「モーリス」も。そして私の中のヒュー様伝説も始まります(笑)。でも、最近ではTVでもやらないしレンタルも中々なかったりして、最後に観たのは何年前・・・?色々細かいところは忘れていたので再発見もあり、の鑑賞となりました。



舞台は20世紀初頭のイギリス。裕福な商人階級の一人息子モーリス(ジェームズ・ウィルビー)は、ケンブリッジ大学へ進学します。父親はすでに他界しており、2人の姉妹と母親の女性ばかりの家庭環境。ホームドクターの医師と小学校時代の教師がかろうじて交流のある”大人の(かなり年上の)男性”。あとは小学生時代の同級生=少年くらいで、いわば同性である男性との交流が極端に少なく、ましてや思春期~青年期の魅力的な若い男性に対する免疫がなかったんですねー。



奔放で自由な振る舞い、ちょっと斜に構えた感じの目立つ問題児、貴族階級の上級生リズリー(マーク・タンディー)を通して知的で繊細な上流階級の美青年クライヴ(ヒュー・グラント)とも親しくなり交流を深めるモーリス。彼らの教養と知性溢れる会話や本物の上流階級の人間の醸し出す優雅で上品な雰囲気など、何もかもがモーリスには新鮮で刺激的で、眩しいものだったことでしょう。モーリス自身は、恵まれた家庭に育ったとはいえ特に際立った特技もなくごく凡庸な青年でした。でもそんなモーリスの素直さと明るさが、彼らには逆に魅力的に映ったに違いありません。



特にクライヴとモーリスは、急速に親密さを増していきます。もう、何をするにも一緒。クライヴと一緒にいたいがために授業もサボっちゃう(笑)。恐らく、物事がシンプルで一番幸せだったひととき。まだ少年時代の延長のような楽しいばかりの毎日。当然モーリスは成績もがた落ち(そもそも、元々決して優秀ではなかった)。教授から厳しい叱責を受け、ついに停学処分になっちゃうんですが、その前に・・・。



ミステリアスで知的でどこか寂しい陰がつきまとう繊細なクライブに意味も分からず夢中なモーリス。モーリスの単純さが眩しく、煩わしさを忘れて癒されるのを感じるクライヴ。互いへの親愛は、自然と度を超していき・・・相手がクライヴだったから。相手がモーリスだったから。思いがけない「愛情」についに目覚める2人。それにしても、若いヒュー様の美しいこと!こんな憂いの美青年が側にいたら、そりゃ性別関係なく魅了されてしまいますわなぁ。



互いへの愛情を自覚し受入れ、愛する人に愛される喜びに酔いしれる幸せな恋人同士・・・いったん、2人の間で関係が承認されると、告白された立場のモーリスの方が衝動を抑えきれず悶々とするように。でも、そのモーリスの情欲に待ったをかけるのは、クライヴ。肉体的に一線を越えてしまえば、この美しい関係が汚されてしまう・・・僕は君とは高潔で崇高な関係でいたい。と、プラトニックを死守。これ、大切なポイントだと思われます。

先に愛を告白したのはクライヴでしたが、それは思春期の、異性の介在しない環境で起こりがちな一種のはしかのような疑似恋愛感情のようなものだった、あるいは、社会の規範や家柄などの既得財産を放棄するほどの勇気はなかった、もしくはメランコリックでありながら本質的には合理的で利己的な性質が勝っていたということかも。



ともあれ、誰よりも近しくて大切な存在。停学処分になってしまって学校では会えなくなってしまったモーリスを、クライヴは休暇に自分の屋敷へ招待します。クライヴもまた、女性ばかりに囲まれた家庭環境です。広い由緒あるマナーハウスで、乗馬や狩に興じる夢のような休日。でも、クライヴの行動はやはり慎重です。この時代、同性愛は重罪。どんなに社会的地位があっても全てを失う危険な愛なのですから。

地位と名誉とお金があれば、例え殺人を犯してもその事実をもみ消すことは恐らく可能だったでしょうが、ことが同性愛となると決して処分を免れません。それくらい、厳しい、重い罪なのです。(でも教会、大学、法曹界、まさにインテリ社会で実際には同性愛者は多かったのがまた皮肉な現実というか。多かったから厳罰の対象だったのか、厳罰の対象だから根絶されなかったのか)



やがて、かの無敵のリズリーが男性への猥褻行為により逮捕されて実刑判決を受けるというニュースが。クレイヴ以上の家柄のリズリーであっても実刑を免れず、地位も名誉も財産も失い二度と社会復帰は叶わぬほどに落ちぶれてしまうという恐ろしい現実に震撼したクライヴは、モーリスに「お友達になりましょう」宣言をし、ギリシャ旅行へ出かけて距離を置き冷却期間をとり、さらにとっとと適当なご令嬢と婚約を決めてしまうという行動の素早さ。所帯持ちとなり名実共に家長となったクライヴは政界へデビューするための活動に忙しく動き回る日々に。相変わらずモーリスは歓待されましたが、招待されて訪れても迎えるのはクライヴの「妻」ばかり、というモーリスには辛く哀しい状況も。



なんとか自分もクライヴへの気持ちを無くして、まっとうな人間にならねばと思い悩むモーリスはこっそり、心理療法で性癖嬌声の治療を行うラスカー・ジョーンズ(ベン・キングズレー)氏の診察に一縷の望みをかけますが・・・。その、ロンドンと行き来するソワソワしたモーリスの素振りを見たクライヴは、安心したさも加勢して「ついに好きな女ができたんだろう!」と大喜び。本当のことを言えず、適当に相槌をうってしまうモーリスの切なさ。片想いって苦しいものね。



素早く気持ちを切替え、鮮やかに方向転換を成し遂げたクライヴに対し、彼への恋情を断ち切れず1人寂しく哀しく悶々と苦しむモーリス。そのモーリスの姿を、じっと見つめるのはクライヴの屋敷で漁場番として働く使用人のアレック・スカダー(ルパート・グレイヴス)。モーリスを見つめる視線が、熱い!クライヴを想って寝苦しいある夜、なんとスカダーが大胆にもモーリスの部屋へ夜這いをかけます。驚きながらも、行き場のない愛情と情欲が爆発寸前だったモーリスはつい、スカダーの肉体を受け入れてしまいます。激しく、甘美な夜。



若く教養のないスカダーの愛情は、情熱的でまっすぐで、そして無鉄砲。事が起きた後で、途端にモーリスは恐ろしくなります。あのことを誰かに話すのではないか、脅されてお金を要求されるのではないか・・・子犬のようにまっすぐにうるんだ目で見つめ尻尾を振るスカダーの存在が、夜はあんなに愛おしい情熱的な恋人だった相手が、恐ろしくて怯えるモーリス。なぜ冷たくされるのか理解できず必死に追いかけるスカダー。あぁ、泥沼の予感^^;。



ところで、この映画を最後に観たのはもうずっと昔だったので・・・細かいところ覚えていないということもそうだったのですが、今回新しい視点を発見しました。なぜ、映画のタイトルが「モーリス」なのか、わかった気がしたのです。いや、そりゃもちろん、モーリスが主人公だからに違いないのですが・・・。

この物語はモーリスが、男子校で危険な香りの先輩に魅力されて同性愛に目覚めて翻弄されて苦しんで悩む、的なモーリスの視点が主体の物語だとおもっていたけれど。モーリスの人生を主観的視点で描いているというよりは、むしろ周囲にとっての、「モーリス」という存在そのもの、が主体として描かれているような気がしました。モーリスが憂いのある魅力的な上級生クライヴに惹かれて、愛を告白されたことで動揺しつつ沼にはまっていったようで、実はモーリスが居たからこそ、周囲の人間は禁断の愛に吸い寄せられたのではないかと。無自覚なフェロモンの台風の目、それがモーリス。

それがモーリスだったから。それまで何の自覚もなかったクライヴが同性愛を自覚し、でも一線は踏み越えられず自ら軌道修正してみせた。それは、モーリスが停学処分のまま退学しビジネスの世界に進んだことで物理的にモーリスとの距離にひらきができたから、同じキャンパスで四六時中モーリス光線を浴びる環境でなくなったから可能だったのかもしれません。クライヴの屋敷の下男がモーリスを夜這いした夜の後、激しい後悔とつきまとう情欲の中でモーリスが、何故、あの日、あの夜、自分にスキがあった時を的確に逃さず、自分の性的嗜好を彼が見抜いたのかと不思議がるセリフが印象的だった。すべては、モーリスだったから。そういうことだったのかな、と。上手く説明できませんが。

何にせよ、アイヴォリー監督の映像は本当に美しくて抒情的!音楽が素晴らしいのも言わずもがな。同性愛とか、意識せずに文芸世界に酔いしれる幸せな時間。どうかこの勢いで4Kソフトも販売されますように。

「モーリス」4K上映は、上映館は本当に限られていますがそれでも一応全国順次、期間限定で上映されます^^。興味ある方は是非は公式サイト(http://cinemakadokawa.jp/maurice/)でチェックしてみてください♪ちなみに当時のアイヴォリー監督の秘蔵っ子、まだまだ可憐な時代の(そんな時代あったの?という方・・・あったんですよ!!)ヘレナ・ボナム=カーターもクリケットのシーンでちょこっと出演しています。