レ・ヴァン・フランセ (2018.4.20 文京シビックホール) | 今日もこむらがえり - 本と映画とお楽しみの記録 -

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レ・ヴァン・フランセ  Les Vents Francais
2018.4.20(土) 文京シビックホール 大ホール 19時開演

〈曲目〉
ミハイル・グリンカ(1804-1857): 悲愴三重奏曲二短調
第1楽章 二短調 / 第2楽章 ハ長調 スケルツォ / 弟3楽章 二短調 / 第4楽章

ルートヴィヒ・トゥイレ(1861-1907): 六重奏曲 変ロ長調 Op.6
第1楽章 変ロ長調 / 第2楽章 変ホ長調 / 第3楽章 ト短調 ガヴォット / 第4楽章 変ロ長調

ジャック・イベール(1890-1962): 木管五重奏のための3つの小品
第1曲 / 第2曲 / 第3曲

ダウリス・ミヨー(1892-1974): フルート、オーボエ、クラリネットとピアノのためのソナタ Op.47
第1楽章 tranquille(平穏、安らかに) / 第2楽章 Joyeux(楽しい、陽気な) / 第3楽章 emporte(激しく) / 第4楽章 Douloureux(心苦しい、切ない)

フランシス・プーランク(1899-1963): 六重奏曲 FP.100
第1楽章 / 第2楽章 ディヴェルティスマン / 第3楽章

アンコール
ドピュッシー: 小組曲より「I.小舟にて」
ドピュッシー: ピアノ五重奏曲より 第3楽章


〈演奏〉
レ・ヴァン・フランセ:
  エマニュエル・パユ(フルート) Emmanuel Pahud
  フランソワ・ルルー(オーボエ) Francois Leleux
  ポール・メイエ(クラリネット) Paul Meyer
  ラドヴァン・ヴラトコヴィチ(ホルン) Radovan Vlatkovic
  ジルベール・オダン(バソン) Gilbert Audin
  エリック・ル・サージュ(ピアノ) Eric Le Sage



フル・オーケストラによる交響曲もいいですが、数人のアンサンブルによる室内楽も好きです。いやむしろ、昔はそっちのほうが好きだったのを思い出しました。1人1人がベルリン・フィルやパリ・オペラ座オーケストラの首席奏者だったりパリ高等音楽院教授だったりしつつソリストとしても活躍している世界トップクラスのスーパースターばかりで結成されたアンサンブル・ユニット、レ・ヴァン・フランセの日本公演に行ってきました(*'ω'*)。

といいつつワタクシ、恥ずかしながら彼らの存在をこれまで知らず。激務続きだった年始の頃たまたま見かけたチケット情報が何となく気になり、レ・ヴァン・フランセってどんな人たち?と軽くググっているうちにフルートのエマニュエル・パユさんのファンの方のBlogに偶然行き当たって拝見しているうちにすっかり興味を掻き立てられて。今回のジャパン・ツアー、東京では他に東京文化会館と東京オペラシティでも開催なのですが日程が一番都合よく、かつ演目も(全公演プログラムが違った)一番興味深く、しかも恐らく会場代の違いでチケット代もかなりお得だったので、勢いで衝動買いしていたチケットです^^;。実際に行ってみたらオネダン以上期待のはるか上ゆくすばらしさでした!でかした自分!(笑)

文京シビックホールの公演情報サイトには、事前に予習できるように演奏曲の視聴ができたり、聞きどころやインタビューも掲載されていてとっても親切!ですが、ドバタバしっぱなしで当日を迎えてしまったので殆どマッサラな状態で臨んでしまった私。どんな感じなのかな・・・とドキドキしながらステージを見守ります。そしていよいよ1曲目、グリンカの〈悲愴三重奏曲〉です。今回のプログラムはピアノ+木管五重奏の6人編成ですが、まずはピアノ、クラリネット、バソンのみ。3人が登場した瞬間、会場割れるような拍手。そういえば今回初めて訪れた文京シビックホール、思ったより大きいホールでしたが満席状態!皆さんよくご存じなんですねー!いや、それだけのスーパースターたちなんですよね・・・とこの後すぐに思い知ることになりますが。

さて、3人の方がステージに登場した途端、まずそのアペアランスが魅力満載!皆さんをインテリジェンスと豊かな感性を携えつつ充実した人生を歩んでいる方が持つ、あの魅力的な雰囲気。この後登場する他のメンバーも揃って全員が素敵。大そう好みです( *´艸`)。全員が全員、ポスター写真より実物の方がさらに素敵。これは嬉しい。などとホクホクしていたら、演奏が始まり・・・第1楽章のクラリネットの主旋律を聞いた途端に唖然・・・!なにこれ!何このまるで天上の音楽のような美しさ!クラリネットって、こんなにもふくよかで滋味溢れる音色が出る楽器でしたっけ?!Σ(゚Д゚) 脳天パッカーン!の衝撃でした。

レ・ヴァン・フランセのメイン・メンバーでもあるポール・メイエさん。アペアランスも、只ならぬオーラなんです。さらに完璧な技術と気品溢れる豊穣の音色・・・やっぱこれ、天国で流れる音楽じゃないの?(;゚Д゚) 13歳のソリストデビュー以来天才奏者としてその名を馳せ、彼の音色に惚れこんだ多くの作曲家たちが新曲を彼に捧げることも度々あるそうで・・・しごく納得。神がかり的な存在感にボーゼンとしながら、一種よぎる一種のデジャヴ感・・・ハテ。そうだ!平野啓一郎さんの『マチネの終わりに』を読んだ時に、頭の中で想像していた主人公の天才ギタリスト蒔野聡史のイメージにものすごく近いんだ!と気が付きます。雰囲気も、佇まいも、髪型すら(笑)。なんとまさか実在するとは・・・^^;。

ところで、プログラムを見た時に気になったことがひとつ。すなわち、「バソンって何ぞや?」の疑問。バソン・・・聴きなれない名前の楽器です。ジルベール・オダンさんの手にある楽器を見ると、ファゴットに似た感じのフォルム。音も構造もファゴットに似ていて、でもファゴットより繊細で柔らかく耳に心地よい音色でした。後から調べたら、やはりファゴットと類似する点が多く、いわば別の土地で育った親戚のような関係?ざっくりいうとファゴットはドイツ式(ヘッケル式)の楽器、バソンはフランス式(ビュッフェ式)で構造と音色がちょっとづつ違うらしいです。どちらかというとバソンの方が原始的でキーが少なく操作も難しいそうです。それに対しファゴットは近代的で演奏しやすいよう構造も工夫されているということ。あーそういえば遠い昔に習ったような気も・・・生演奏で聴くのは(バソンであることを認識して)これが初めてです。いい音色。

さて、次はいよいよ全員集合での六重奏です。レ・ヴァン・フランセは、モーツァルトやバッハなどの超ポピュラーなビッグネームの作曲家たちの曲も演奏しますが、一般にはあまり知られていないけれど素晴らしい作曲家、またはビッグネームたちの隠れた名品を紹介するというのも活動指針のひとつのようです。ルートヴィヒ・トゥイレ。初めて聴いた作曲家です。オーストリア出身でマーラー、ドビュッシー、シュトラウスと同時代の作曲家。プログラムの解説に第1楽章について「最初の1分ほどでブラームスやシュトラウスがお好きな方であれば惹きこまれてしまう」とありましたがまさにその通り!でした。

ラドヴァン・ヴラトコヴィチさんのグレイッシュな髭を蓄えた優し気な風貌そのもののような、ホルンの伸びやかで穏やかな音色で始まり、気持ちよくなったまま大らかで牧歌的な音楽の世界に。美しい自然の風景が(夏の終わりか秋の始まりの、遅い午後のイメージ)広がります。そして第3楽章では舞曲風の朗らかで軽やかな雰囲気に。自然の美しい田舎の豊かな季節の移り変わりを描いたような。新婚の奥さまへ献呈された曲だそうで、穏やかな幸せや喜びがギュっと詰まっているような美しい曲でした。しかし。曲もさながら、1曲目のポール・メイエさんの圧倒的オーラに気圧されたのに続いて今度はフルートのエマニュエル・パユさんに衝撃!Σ(゚Д゚)
 

ポール・メイエさんが発散するオーラは尋常じゃありませんでしたが、パユさんときたら、恥ずかしながらそのアペアランスがもう私の好みの直球ど真中でまず目が釘付け(笑)。演奏が始まったら・・・再び、なんじゃこりゃー!で耳も釘付け。この人達全員天才・・・と否応なしにガツンと納得させられました。全員が世界トップレベルのアンサンブルってこんなすごいことになるのか・・・今宵はずっと、夢の中をたゆたうことになりました。

それにしてもなにこれ。パユさん、上手すぎでしょ!?Σ(゚Д゚) フルートって、下手くそが吹くと音に雑味が混ざるんです。もちろん、プロ奏者のレベルではそんなザラザラした雑音が混入するわけはなく、濁りのない音色であるのは当たり前なんですが・・・不純物が全て取り除かれた上でさらに蒸留して・・・いや、いったいどうすればここまで純度の高い澄み切った音が出せるんだろう・・・楽器のポテンシャル以外でどうすればここまで差が出るんだろう?というのがまったく想像つかないレベル。しかも、ずっと同じフルートを演奏しているのに(少なくとも1つの曲の間は間違いない)、なぜ同じフルートでここまで多様な音色を出せるのでしょうか。7色の音色ってこのこと。

という訳で、ルートヴィヒ・トゥイレの六重奏の間はもう完全にパユさんにロックオンされてしまい、他の全てが遠い世界に・・・(笑)。心臓がドキドキしっぱなしでした。あぁ、ビックリした。この後の15分だったか20分だったかの休憩時間のなんと早かったことか(笑)。

休憩終わって第二部のスターターは、華やかで軽やかで楽しく短めなジャック・イベールの〈木管五重奏のための3つの小品〉。ピアノ以外の木管オールスター登場。第一部ではまずクラリネットのメイエさんに度肝を抜かれ、続いてフルートのパユさんに魂を抜かれ(笑)、怒涛のような体験でしたがここからはようやく、全楽器の音をじっくりまんべんなく味わう余裕を手に入れます^^;。20世紀初頭のパリのベル・エポックな時代に活躍したイベール、そのプロフィールにピッタリな、パリの喧騒や華やぎの息吹が漂うような楽しい作品たちでした。

続いてフルート、オーボエ、クラリネットでダウリス・ミヨーの曲。これも初めまして、の曲でした。南仏生まれのミヨーがリオ・デ・ジャネイロに出会ってブラジルの情熱的な民族音楽やジャズの影響を受けて作曲したソナタ。南仏の優美で穏やかな自然と、南米のパッションの融合は、どこの国風、とも言えない不思議でミステリアスな旋律です。第1楽章は、平穏、というよりも和の魂にはザワザワとした不安を覚えるような何とも未体験ゾーン。だんだん、その音に耳が慣れてくると、静かながらもじっとり息を潜めている熱帯の熱情を全体に帯びているような、そしてそれが最初に感じた不穏の原因だったのかも、とわかってきます。

第2楽章も「Joyeux」と言いつつ、我々が想像するようなブラジルの陽気さとはやはり性質が異なるような。外国人であるミヨーが、そしてアンニュイでメランコリックなフランス気質が、南米の灼熱に充てられながらもその何かに反応し、自分の中にエッセンスを取り込んでブレンドするとこうなるのか・・・と不思議。第3楽章は、これまた「激しく」というよりも唐突で暴力的なほどの激しさ、騒がしさ。私はミュージカル「ウエスト・サイド物語」のジェッツ団とシャーク団の対決のシーン、特にカっとなったマリアの兄ベルナルドが刃物を取り出してから取り返しのつかない混乱へと繋がるシーンを思い出しました。最後の第4楽章が、「切ない」っていうよりもうドンヨリした重た~い暗~い葬送曲さながらだったので、益々・・・あぁ、ベルナルトが死んでしまった・・・取り返しのつかないことが起ってしまった・・・という流れのようで、何とも不思議な体験でした。

最後のプーランクの〈六重奏曲〉は、レ・ヴァン・フランセのテーマ曲のような特別な存在の曲らしいです。次々とそれぞれの楽器で持ち回る超絶技巧に、優雅でありながら気まぐれにコロコロと表情を変える、色んな要素が詰まって、それがてんで勝手にバラバラになりそうなのが見事に美しい調和をもってまとまった華やかな3楽章!軽妙洒脱、なるほどね。同時代のシャブリエ、サティ、ラベル、ストラヴィンスキーらの音楽に影響を受けながらほぼ独学で音楽を学んだというプーランク。確かに、所々、サティ風だったりストラヴィンスキー風だったりのエッセンスを帯びたモチーフがありました!

そして、最後の最後でまたパユさんに打ちのめされる私。第1楽章のフルートのパートで、いったいぜんたいどういうテクニックによって奏でられたのかまったく分らない旋律が登場しました。恐らく特殊なブレスで生みだす装飾音なんだと思うのですが・・・生まれて初めて耳にした旋律でした。あんなの聞いたことないぞ!きっとかなりの超絶技法に違いない・・・。23歳でベルリン・フィルの首席奏者として入団・・・そりゃそうだわね!

あっという間の2時間超でした!アンコールはドビュッシーの美しくて軽やかな2曲。もしかして2曲目のアンコールは、予定外だったのではないかと思われます。なんてラッキー!ありがとう、皆さん♡ 曲の演奏が終わって、そしてアンコールで、舞台をひいていく時は皆さんとっても素敵な笑顔なんですが、その笑顔が特別輝いていたのはオーボエのフランソワ・ルルーさん( *´艸`)。可愛らしいお名前に、反して(失礼な)ちょっと広くなったオデコに高い鼻梁を中心にギュっとパーツが寄った、黙っていると一見強面風で実はニコニコ気の良いおじさま、な雰囲気のルルーさん。6人の誰よりも好奇心旺盛で悪戯っ子な気配(笑)。拍手喝采の観衆に笑顔満面、ニコニコ笑顔を振りまくからいつもちょっとづつ歩くペースが遅れて一番最後にステージ袖に(笑)。アンコールになると、もうプログラムはお終い!の解放感からさらに笑顔炸裂、お手振りも加わり、かつ拍手に呼び戻される度にお手振りが大きくなっていきます( *´艸`)。ルルーさんの笑顔は、皆を幸せにする笑顔♪

本当に素晴らしい夢の世界に浸ったコンサート。後ろ髪ひかれつつ席を立つと、「本日会場でCDをお買い上げになったお客様限定でサイン会が予定されています」のアナウンス。なんですと?!ハイ、ワタクシ、大急ぎで物販コーナーへ(笑)。既にかなりの人だかりで、どんなCDがあるのか見比べるような余裕は全くなくて、えい、どれを選んでもハズレはあるまいと取りあえず今日のメンバー全員が揃ったCDを手に取ってお会計。

 

 

選ぶ余裕がないとはいえ、せっかくなら今日聴いた曲が入っているのがいいなぁと思って、値札のPOPに沿えらえたメモを見て軽妙で楽しかったイベールの〈3つの小品〉が収録されているものを選んだつもりが、それはお隣のCDだったようです^^。でもこちらも大好きなモーツァルトも入っているし、さらに新しい彼らの演奏に出会えるHappy。発売されたばかりの新譜だったようです。そして、1階ロビーだけでは足りず2階ロビーまで長ーいウネリを作っている行列に果敢に並びます!サイン貰う為にこんな行列に並ぶなんて、初めての経験・・・!待って待って、ようやく6人が並んでサインしているテーブルが視界の向こうに見えてきて・・・いよいよもうすぐ私の番、というところで神様が私に何かのご褒美をくれました!!
 
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いくつかの「タマタマ」が重なって、ベルトコンベヤー式なサイン大会の流れがちょっと止まって一瞬の間ができたこと、サインのトップバッターがパユさんだったこと・・・重なった奇跡の総仕上げ、左のディスク上にある黒ペンのサインがパユさんのサインなのですが、なんとそれだけでなく、右の白い余白にもカタカナで「パユ」のオマケが!しかもそれを書いた後の悪戯っぽい笑顔まで頂きましたー!(≧▽≦) サイン会のサポートをしている日本人スタッフの方もそれを見てびっくり&笑顔!さらに、その一瞬の間に勇気を出して図々しく思いっきり早口で「とても美しい音楽でした!私も昔フルートやってました!」とパユさんに話しかけてみたら、また笑顔で「ありがとう!」さらに「フルートを?君も?わぉ、それはクールだね!」と。流れが滞った一瞬の間のお陰で思いがけないラッキー!もう、パユさんにゾッコンです(笑)。

このサインはこの誰、これは誰、と順番とペンの色をしっかり覚えようと頭に叩き込んでいたのですが、夢見心地のあまり家に帰るまでポーっと放心状態が続いていたため、もう全く記憶にありません(T_T)。右側の真ん中は恐らくホルンのヴラトコヴィチさんだろうなぁというのと、クラリネットのメイエさんのサインも右にあるはず、というのだけ朧げに・・・トホホ。皆さんがサササーっとサインを書いてくださっているコンマ秒の間に、迷惑にならないよう一言づつ「素晴らしかったです」「感動しました」とありきたりですがお声かけさせていただいて、それはもうこちらの自己満足なのですが、その度にちゃんと一瞬目を合わせて笑顔でありがとう、と答えてくださった皆さん、素敵すぎです。ルルーさんには、そこでまた時間がほんのちょっとできたこともあり演奏もだけれど、あなたの笑顔が大好きです!と伝えたら、思いっきりおどけてまたとびきりの笑顔を頂きました^^。いい人だ~。



最後にオマケ写真、愛しの(笑)パユさんのコスプレ姿?!が衝撃的に目に留まったこちら(笑)パユさんのソロCDのジャケット/宣材写真だそうです( *´艸`)。


〈3つの小品〉が収録されていたのはコチラ↓のCDだった模様。

 

フランスの風 フランスの風
2,816円
Amazon

 

プーランクの六重奏曲も入ったベスト盤↓

 

 

問題の(?)コスプレ・パユさんのソロCDはこれだと思われます(笑)↓